理想の本棚Ⅱ ー謎多き魔法使いー 虎人舎・金剛の本棚
魔法使いと芸術家の二刀流を放つ青年
前回のnoteで若林凌駕氏(22歳で「古本興業」を立ち上げた放送作家)の「理想の本棚」を紹介しました。今回は二枚目アーティストの金剛氏の「理想の本棚」の配信動画を紹介しましょう。それにしても、金剛氏とはいったいどういう人物なのでしょうか。
金剛氏には二つの障害を抱えています。一つは解離性同一性障害(多重人格)。もう一つはクライネ・レビン症候群(眠り姫症候群)。
多重人格とはいったいどういう症状を引き起こすのでしょうか。日本精神神経学会に所属する京都大学の岡野憲一郎教授によると、以下のように解説します。
では、具体的な治療方法はどうでしょうか。
精神医学の専門家でも一種の精神疾患によるものだと突き止めていますが、詳しい治療方法はまだ判明していない模様です。
一方、眠り姫症候群はどのような病気でしょうか。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所のホームページによると、次のような説明がなされています。
さらにこの睡眠系の障害はnews23の報道番組で、ある中学生の生活を例に出し、中枢性過眠症の実態を報じています。世界全体で約600例しかない報告されていない稀少疾患です。
金剛氏はこれら二つの障害を抱えながら日常生活を送っています。健康医学の世界では以上のケースが存在することを知っておくとよいでしょう。
金剛氏は天才的なアーティストと呼称されています。普段は芸術家として絵を描きながら過ごしていますが、もう一つの顔は”魔法使い”だと自身を語っています。さて、”魔法”を極めるためにどんなことをしているのか。真相は動画の中で掴むことができます。
ただし、金剛氏の本棚に飾る本はどれも学術系の専門書を保有しています。難解な文章で書かれているものがほとんどであり、我々一般の人々からすれば取っつきにくい分野だと思います。
そこで私は動画からいくつかの興味深いテーマを取り上げ、それに関して一般の人々でも手に取りやすい書籍や四方山話を紹介していくことにします。本稿を読んでいただければ、金剛氏の関心のある学術分野についてグッと近づくことができると思っています。
金剛の本棚 ー音楽ー
金剛氏は楽器を演奏することがままあるようです。作曲時に教則本や音楽理論の学術書に目を通し、良い音と悪い音の分け方を把握し、楽曲つくりに活かしています。
作業台に置いてあった音楽の書物の中にジャズ系の本があり、私も興味津々でした。私が所持している一般向けの書籍を取り上げるとすれば、ジャズ評論家の後藤雅洋氏が書いた『ゼロから分かる!ジャズ入門』(世界文化社)が手に取りやすいでしょう。テレビや映画、ラーメン店に流れるBGMのジャズはどんな音色を奏でるのかを本書で知ることができます。
音楽家であり、ジャズ・ベーシストの巨匠として知られる鈴木良雄氏の『人生が変わる55のジャズ名盤入門』(竹書房新書)は参考になります。テレビタレントのタモリ氏も「”聴けばわかる!”」との推薦文を寄せています。
一例を挙げるとすれば、Frank Sintra氏のDay By Day(1999 Remastered)は良い曲です。この曲を聴くと心がウキウキしてきます。私がこのジャズ曲を知ったのは英語学者の大杉正明氏による紹介でした。NHK連続テレビ小説の『カムカムエブリバディ』のラジオ英会話で一押ししていたからです。
ダンスとバレエ
金剛氏はダンスやバレエの教則本を手に取りながら、創作活動に生かしているようです。衣装の寸法から刺繡に至るまで幅広く、ここから新しいインスピレーションを生む要素を含み込んでいます。
バレエに興味のある読者はいることでしょう。舞踊評論家の海野敏氏の『バレエの世界史』(中公新書)でバレエの世界を歴史から概観することができます。かつて王侯貴族が楽しんだ芸術がいつしか舞台に発展を遂げ、十九世紀の西欧とロシアで成熟したという経緯が書かれています。
日本画の技法
日本画の技法も創作に取り入れているようです。タイトル名は小川幸治編著『日本画 画材と技法の秘伝集』(日貿出版社)。「幕末の狩野派に学んだ絵師が書き残し、大正末期に東京美術学校がまとめた日本画技法書『丹青指南』」との説明文が書かれています。値段はなんと7,700円。高価な書籍です。今年(2024)、新装第二版も刊行されました。こちらの値段はさらに高く、8,250円。芸術家や研究者が主に使用するテキストでしょう。
私たちのような一般市民には到底挑めないものです。ただ、日本美術の素晴らしさを追体験したい読者もいるはず。そこで参考になるのは、美術史家の山下裕二氏の『日本美術の底力』(NHK出版新書)です。縄文・弥生から現代に至るまで日本美術がいかに進化してきたかを知る手がかりになるでしょう。美術館に足を運ぶ際には本書を持ち歩くと便利です。
季語・歳時記・近代詩文書基礎講座
他者に対して御礼の手紙や冠婚葬祭の文書をしたためる際に、季語にも文章の作法にも気を配るようです。金剛氏の誠実さや日本文化に対する熱い眼差しが伝わってきます。金剛氏が勧める『近代詩文書基礎講座(第1巻)』は1982年に近代詩文書作家協会から刊行されたものです。
最近はSNSの普及でめっきり手紙や年賀状などの紙で書く機会が減りました。せめてもの相手に新年のご挨拶や祝辞の言葉を述べる際には美しい言葉を覚えておく必要があります。一般向けの書籍としては小学館国語辞典編集部が編んだ『美しい日本語の辞典』(小学館)が参考になります。コンパクトに仕上がった辞書です。美麗な日本語だけでなく文章の作法や季語など我々日本人にとって欠かせない項目が網羅されています。手元に置いとくだけで損はないと思います。
読売新聞編集委員の関根健一氏が監修を務めた『品格語辞典』(大修館書店)も言葉の品格を磨くのに打ってつけの辞書です。手紙やブログ、文学作品を書く時にも助け船となるでしょう。洗練された文章が書けるようになるはずです。
広辞苑
金剛氏が所有する『広辞苑』は第二版です。現在は第七版。時代が流れるにつれて新しい言葉は誕生していき、古い言葉は「死語」となる。なんとも儚い限りです。
金剛氏は辞書を引きながら文章を書いているようです。言葉の正確な意味をしっかり押さえておかないといけないという気概があるのでしょう。
魔術・占星術
これまた大型の書物です。イギリスの出版社であるDK社が編んだ『魔術の書』(グラフィック社)は世界の魔術や呪術に関する歴史を解説した書です。「魔法・魔術がどのようにして生まれ、変遷し、現代のウィッカ信仰やオカルトに発展したのか。」との説明文がなされ、錬金術、占い、魔女裁判などの分野に精通した本といえるでしょう。金剛氏はこの書物からインスピレーションを生み出し、創作活動に役立てています。占いにも造詣が深いといえます。
ここで占いの話が出ましたので、一般の読者が馴染みやすいものはどれが良いでしょうか。
巷ではタロット占いが流行しているかもしれません。占い師の賢龍雅人氏が執筆した『タロット占いの教科書』(新星出版社)はタロット占いの技法を知ることができます。こちらは週刊ダイヤモンド(2024/1/27)のブックレビューコーナーで元外交官で作家の佐藤優氏が書評を掲載しています。
人生における悩みを抱え込んでいた場合、できるだけ言語化する必要があります。その際、どんな過程で悩んでいるのか、これから先の出来事で閉塞した状況を好転したいのかなどの想いを質問によって整理すること。それを占い師に悩みを打ち明けることは一つの方法になるでしょう。賢龍氏は一級の占い師として知られています。
タロットカードが占いに使用するようになった歴史的経緯については鏡リュウジ氏の『タロットの秘密』(講談社現代新書)が参考になります。実に興味深い作品です。
私自身は占星術に深く関心を示したことがありませんでしたが、運を良くしたいと思っています。最近手に取ったのはゲッターズ飯田氏の『ゲッターズ飯田の運がよくなる口ぐせ』(プレジデント社)という書籍です。そもそも運が悪く感じるのは口癖から生まれると言います。たとえば、「お金が集まる言葉、逃げていく言葉」というコラムは目から鱗でした。
「お金がある」と自己暗示をかければ、人もお金も集まってくる。その点で飯田氏は「お金がない」という言葉は人間関係をシャットアウトする危険な言葉だといいます。心に刺さるものです。やはり言葉は”言霊”であると覚えておくと良いでしょう。
哲学・文学
金剛氏が頻繫に開く哲学書は一般向けの図鑑でした。実業家の田中正人氏が書いた『哲学用語図鑑』(プレジデント社)は難解だと思われる哲学の用語を平易に解説した書です。ビジネスや交渉事にも役立つ一冊だと思われます。
そして、金剛氏が何より大切にしているのは文学。近現代の古典文学作品がずらりと並んでいます。動画で一番右に見えたのは箱入りの古書である『源氏物語』です。古典は難解なものが多いため、それらの理解を促す解説書も揃えて、源氏物語の味わい深さを堪能しているようです。
丁度「源氏物語」をテーマにした大河ドラマが2024年に放送しました。『光る君へ』です。大河ドラマを楽しむために去年(2023)から刊行された書籍はたくさんありますが、漫画や図解解説書で理解を深めるとよいでしょう。富井健二氏が監修を務めた『マンガで味わう源氏物語』(Gakken)は紫式部作品の背景を分かりやすく解説しています。文学系YouTuberのベル氏が推薦文を寄せています。大河ドラマは終了しましたが、源氏物語の良さを改めて振り返るのに参考になるでしょう。
以下の動画はベル氏の本棚です。文学の総本山です。
さて、金剛氏の一押しの文学作品は坂口安吾や江國香織氏です。特に坂口安吾の作品は若林凌駕氏も愛読しています。『堕落論』(新潮文庫、角川文庫)を逆さまにして置いてあります。水道橋博士氏もよく読んでいるそうです。
芸術活動を行う上で手放せないのは『レオナルド・ダヴィンチの手記(上下巻)』(岩波文庫)です。杉浦明平氏が翻訳しています。影響は計り知れないようです。
ただし、レオナルドダヴィンチが書いた古典は難解ですから、あまり時間をかけたくない読者もいるでしょう。手始めに入門書から入ることをお勧めします。
美術史家の池上英洋氏の『よみがえる天才2 レオナルド・ダ・ヴィンチ』(ちくまプリマ―新書)は高校生でも読める本です。本書を読むと、天才・レオナルド・ダ・ヴィンチの人物像を知ることができます。
ダヴィンチ研究者の桜川Daヴィンち氏の『超訳 ダ・ヴィンチ・ノート 神速で成長する言葉』(飛鳥新社・文庫版)を読むと、天才の思考法について分かりやすく解説しています。
これら二冊の本を消化した上で、「もっとダヴィンチの謎を深く知りたい。」と思う読者はハードルが高めのノンフィクション作品に挑むことでしょう。ジャーナリストのウォルター・アイザックソン(Walter Isaacson)氏の『レオナルド・ダ・ヴィンチ(上下巻)』(文春文庫)は700枚のダヴィンチの手記と膨大な関連史料から、天才の頭の中を探っていく評伝です。読みごたえはあります。
金剛氏は八面六臂の顔を持つレオナルド・ダ・ヴィンチの魅力にくらくらとしてしまったのでないでしょうか。
金剛のとっておきの本
では、最後に金剛氏の最も愛読する書籍を取り上げておきましょう。
なんとも大型の書籍が倉庫から垣間見えます。普通の人は保管することすらないでしょう。バベルの塔の伝承がタロットカードの発祥ともいえるのは驚きでした。やがてタロット占星術として現代社会に引き継がれているのです。
金剛氏は本棚と蔵書について感謝の言葉を込めて、次のように語りました。