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デンマークの多様な学び方を支えるフォルケホイスコーレ

デンマークの教育には特有の文化がある。その一つは数多くのフォルケホイスコーレと呼ばれる「学校」だろう。

これは北欧独自の学校制度で、試験や成績がなく、民主主義的な思考を育てる場である。高校卒業以降から社会人の学び直し、異国からの移入者の受け容れまでなされており、多様な人々が学び合っている。

私が訪問したのはコペンハーゲン市内の学校だったので寮が無かったが、郊外の学校は寮制度があり、そこでは生活をともにすることでさらなる深い学びがあると言う。下記の参考文献を読んで視察に向かった。

私が2015年11月に訪問したのは、Borups Højskole (ボーロップス・ホイスコーレ)というとことで、当時の副教頭であったNikolaj Davidsen氏にお話を伺った。

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19世紀の半ばくらいから、民主主義について考えはじめるという動きがあって、それが一番最初のホイスコーレの始まりだそうだ。

ホイスコーレの始まりについて興味深い1つの逸話がある。デンマーク人の神父さんがドイツに働きに出掛けることになって、ドイツの教会で働くことになった。神父は、戦争に行ってた兵士達と偶然出くわした。「一体、何のためにあなた方は戦争に行ったのか知っていますか?」と神父が問うたところ、兵士達は誰も知らなかったそうである。つまり、誰も何故戦争が行われ、自身がそれに従事していたか知らなかったということである。  

そこで、民主主義がなければ学ぶことも不可能だと神父は考え、デンマークに戻った折、田舎の家を1軒1軒、ノックして、「ちょっと私の学校に来てくれませんか?私の学校に来て人生のことと、民主主義について学びませんか?」というふうにみんなに聞いたそうである。それが全ての始まりだったという。

ホイスコーレというのは大学ではない。資格とかがもらえるわけでもない。試験もない。日本からすれば少し変わった「学校」である。高校卒業後、大学進学前に通い進路選択に役立てる者や、キャリアの途中で道を迷い、何かを見つめ直すための学び直しに通う者も居る。そこで一番重要視されているのは、学びたいという気持ちである。学びたいという気持ちがあれば、EU圏外の人でも、誰でも通える学校なのだ。実際日本からの留学生もいると聞く。私が訪問したホイスコーレはそこまで背景・年齢層は多様ではなかったが、それは全寮制ではなかったからで、郊外の場合は多様な方が集うのだそうだ。機会があれば訪れてみたい。

ボーロップス・ホイスコーレでは、様々な授業が提供されている。その中でも大きく3つに分けると、まず音楽系、ビジュアル系、ライティング系(※自分で書くという意味のデンマーク語で、Skrivning)である。

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通期と夏休みのみの通い方があり、夏休みには1週間ごとのコースがあって、そのコースのターゲットは40代以上を対象としている。1週間ごとのコースが6セメスターあるそうだ。コースは例えばオペラだったり、スポーツだったり、ライティングだったり、絵画だったりするそうだ。

私立のホイスコーレに対して、北欧に籍のある生徒は1週間で1000クローネ払うことになっている。政府からの支給が1週間2000クローネであるから、つまり受講者と政府は1:2で支払うわけである。1000クローネは当時だいたい2万円だったので、政府からの手厚い支給があることがわかる。

高校卒業後にフォルケホイスコーレに行って進路を検討した学生は、大学でのドロップアウトが低いという興味深いお話も伺った。多様なキャリア、学び方を支えるシステムがあることに感銘を受けるとともに、それが政府の手厚い保護で成り立っていること、民主主義を基盤にする学び方であることは興味深かった。学校(フォーマル学習)であるにも関わらず、成績をつけないという点でもワークショップのようなノンフォーマル学習にも通じるところがある。



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