とは、とは。流れる景色の中に

橿原神宮前駅から乗り換えて、吉野駅を目指す。音楽を聴きながら目を瞑ったり、外を眺めたり、そのうち景色はどんどん山の中に入っていく。
とてもよく晴れた日で、大きな窓に映る景色が、太陽の光でキラキラと反射する。日陰と日向の色加減が絶妙である。なんとか写真におさめようとするけれど、どんなに撮っても目の前のリアルな景色には到底追いつけない出来で、その内諦めて、ただひたすらに耳から入ってくる音楽と目の前を流れる景色の作る世界を楽しんだ。

山の景色は、高野山の車窓を思い出させた。どちらにいるのかたまにわからなくなる。
全くの不勉強で、旅してるものだから帰ってきて改めて色々調べると、思い違い勘違いが多すぎて笑える。
私が「好き」だと思った吉野、熊野、高野山はまるっと纏めて世界遺産「紀伊山地の…」らしい。

なんか、聞いたことある。そうだったのか…。

昔から大切にされてきた土地なのだろう。わかるわかる。そういうものってどんなに時が経っても変わらないのよね、きっと。

目的地のお店とか神社仏閣だけじゃなくて、この道のり自体がとても魅力的なんだ。この土地の持つ空気感が人を魅了するのだろうなぁ。
私の旅の目的も、その土地の空気を感じる。というものなので、とても心地よいこの場所に惹かれるのだと思う。

もともと、海より山が「好き」だ。山の中にいるのも「好き」だけど、山の色を見るのが「好き」だ。毎日見ても飽きない。
小学生の頃に、学校の裏の山の絵を描いた。割り箸に炭の様なものをつけて線を描いた気がする。柿の実を手前に大きく描いて、その後ろに校庭と山を描いた。
柿の色も単にオレンジではなくて色んな色を混ぜて作った。後ろの山は尚更に一つの緑で描けるわけもないから、ものすごく観察してその通りになるようにたくさんの少しずつ違う色で塗り上げた。あれは、確か何かの賞をもらったんだった。いま何処にあるのかわからないけれど私が恐らく初めて自信を持って作り上げた作品だ。

絵を描くのは「好き」だった。
でも、私の周りには私よりも絵を描くことが上手な人がたくさんいたから私が描く必要はないな、と思って描くことを続けることはしなかった。
でも、本当はちょっとだけ油絵やってみたかった。

いつも、そんな感じだ。
お洒落することも、
学生時代、周りにたくさん可愛くてお洒落な子がいたから、その子達が私の代わりに充分オシャレしてるからいいや。と思ってしまった。
写真だって、占星術だって
自分がしなくても、誰かが、もっと上手にやる
中途半端にやってもなぁ
そんな言い訳をしながら生きてきた。
全力を出さないための言い訳だ。いらぬプライドだ。

誰かが、代わりにやってくれるから。私がそんなに本気になる必要はない。

本気になってその人たちに追いつかなかったら苦しいし、惨めだし、悲しいし
そんな想いがどこかにあったのだと思う。
今でもたまにブログやnoteを書くことを躊躇う時がある。私の書いたものなんてだれが読むんだよ。そんな卑屈な気持ちになることもある。もっと上手い文章を書く人はたくさんいる。私と同じ様なことを書いてる人がたくさんいる。

それでも、目の前で起きた出来事を頭の中で文章にしたり、頭の中に浮かんだ言葉を、この言葉いいなぁ。なんて吟味する癖はもはや直ることはなさそうだ。身に染み付いてしまっている。

ゆるしてやろう。なににもならなくてもゆるしてやろう。なにものにならなくてもゆるしてやろう。ただ「すき」なことをすることをゆるしてやろう。りゆうなんていらないんだ。「すき」のきもちだけでいいんだ。

そもそも誰かと競うためにそれをやるわけでもない。その世界の一番じゃなくて、自分の中の一番であることを知ってればいい。

山の車窓の美しさに悶えてしまう。緑と言っても様々な、その色合いを楽しむのが「好き」だ。
昔から、どうしようもなく美しい景色を見た時、その光景を前にして、どうしたらいいんだろう。と頭を抱えた。この景色をどんな風に扱えばいいのか。この感動をどんなふうに処理すればいいのか。わからなくてよく困った

目の前の美しい景色は見た瞬間からどんどん消えていく。それを知って寂しくなった。このまま切り取れないのか。このまま残しておけないのか
いつか、忘れてしまうのか

まるで夢の様だな。

意識した瞬間に消えていく。形にしようとすれば
逃げていく。それをわたしはいつも必死になって追いかける

言葉にして残したい世界がある

わたしはわたしのままで、この世界を眺め
わたしはわたしのカメラで、この世界を切り取り
わたしはわたしの言葉で、この世界を彩りたい

それがわたしに今出来る自分の「好き」への寄り添い方だ

電車は走る。わたしの「好き」な世界をどこまでも

～私の伊勢物語2020⑮～