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無職が書く劇場版『SHIROBAKO』の映画評・前半

◯挨拶

はじめまして。ササクマと申します。ペンネームです。無職です。誰に頼まれたわけでもないのに映画評を書きます。

第1回目で取り上げる作品は、劇場版『SHIROBAKO』です。

『SHIROBAKO』とは、2014年10月から24話にわたって放送されたTVアニメシリーズ。架空のアニメ制作会社「武蔵野アニメーション」を舞台に、アニメ業界で働く人々の奮闘を描いた群像劇。

第19回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門では、審査委員会推薦作品を受賞。また、東京アニメアワードフェスティバル2016では、アニメ オブ ザ イヤー テレビ部門グランプリを受賞。などなど、社会的評価が高く、アニメファンからの人気も根強い本作が、5年の時を経て劇場版として帰って来ました。


何を隠そう、わたしも本作の続編を楽しみにしていた1人です。てっきりTVシリーズで完結かと思いきや、完全新作劇場版が観れるなんて嬉しすぎます。また登場人物の彼女たちに会いたい一心で映画館へ駆けつけました。

そして映画を観終えた感想は、もう最高。3回くらい泣きました。無職のわたしが、アニメ業界で働きたくなるほどの感銘を受けたのです。恐ろしいアニメパワー。危うく就職活動を始めるところでした。

この映画評を書く目的は、わたしが映画を観て抱いた感動の正体を探ることです。

しかしながら、どうせ映画評を書くのであれば、わたしは自分が読みたいものを書きたい。そのため本稿は『SHIROBAKO』を知らない人、まだ劇場版を観ていない人に向けても書きます。なのでネタバレ無しの前半、ネタバレ有りの後半の二つに分けての投稿予定です。

前半だけで約7,000文字あります。なかなか読むのに堪える分量ですが、読めば効率良くアニメ制作の仕事に詳しくなれることでしょう。どうか最後までお付き合いいただけるよう、よろしくお願いします。


◯アニメ

タイトルにある『SHIROBAKO』とは、その名の通り白い箱のこと。ただし映像業界においては、スタッフ確認用のビデオテープを指す。これは作品が完成した最初の成果物であり、到達点の象徴とも言える。

この白箱をスタッフが手にするまでの間を、本作ではリアルに、ユーモアに、真剣に、赤裸々に描く。その上で、アニメ業界で働く人々の生活、葛藤、情熱、夢を語る。

では具体的に、どのような工程でアニメは作られるのか? 気になったので調べてみた。あくまで一例。

公式サイトにもアニメ制作の流れがあるので、参考にどうぞ。ここから用語解説を引用する。

1.企画
アニメを実際に作る制作会社のプロデューサーが、製作委員会に企画を持ち込む。ちなみに、企画者自体はパッケージメーカーのプロデューサーだったり、演出家だったりもして、その場合は制作会社に仕事を依頼する形になる。たぶん。

製作委員会とは、作品を作るための資金を集めると同時に、作品に関わる様々なビジネスを推進する組織のこと。複数の企業で出資することで、資金リスクを分散する目的がある。出資企業は、ロイヤリティと各種権利を得て、与えられた権利を使いビジネスを行う。例えば書籍、CD、パッケージ、玩具販売など。

無事に企画が採用された場合、制作会社のプロデューサーは監督と脚本家を指名する。また演出家、キャラクターデザイン、作画監督などの人材を確保し、制作全体の予算と進行を管理する。


2.デザイン
キャラクターデザインとは、アニメーターが動かしやすいように立体として成立する“キャラクターの設計図”を作る者のこと。外見イメージのデザインは“キャラクター原案”が行うが、アニメーター自身が原案を手掛ける場合は、これを兼任する事もある。


3.絵コンテ
絵コンテとは、シナリオを元にカット割り、画面の構図、キャラクターの芝居、セリフや秒数などをイラストとともに記入したもののこと。アニメーションの映像の設計図と言える。

演出は絵コンテを元に、各セクションに演技や映像イメージ等を指示するポジション。制作工程の全体を通して打ち合わせとチェックに立ち会う。


4.レイアウト
レイアウトとは、絵コンテを元に描かれたる画面の構図のこと。キャラクターの配置や背景が描かれている。レイアウト演出チェック、レイアウト作画監督チェックが終わった段階で、このレイアウトを背景セクションに渡して背景美術作業を発注する。


5.原画
原画とは、動きの要所(動き始め、節目となるポイント、動き終わり)を描いた絵素材のこと。 このセクションを担当する者を原画マンと呼ぶ。


6.動画
動画とは、原画をクリンナップし、その間の動きを更に割って(足して)アニメーションにしたもの、あるいはその素材のこと。動画セクションのスタッフを動画マンと呼ぶ。


7.色指定・仕上げ
色彩設計がシーン毎に作成した、キャラクターをどんな色で塗るかを記載した“カラーモデル”と呼ばれるものがあり、色指定は1カット毎にどのカラーモデルを使用して塗るかをカットに指定していく。

指定が終わったカットは、実際に色を塗る“仕上げ”セクションに送られ色が塗られる。 検査は、指定した色で正確に塗られているか、塗り間違えや漏れがないかの確認を行う。


8.撮影
デジタル化が進んだ現在においては、ソフトウェア上で背景やキャラクターの素材を合成する役割。また様々な撮影効果を加えて、ムービーデータに変換するセクションでもある。


9.編集
カット毎に撮影されたデータを絵コンテに準じて繋ぎ、より演出意図が伝わるように各カットの尺(秒数)を削ったり、伸ばしたり、カット単位で入れ替えたりする作業、あるいは編集作業を行うセクション。 また、テレビシリーズでは放映フォーマットがあり、規定に合わせて尺の調整を行う。編集作業のことをカッティングとも言う。


10.サウンドワーク
演者によるアフレコ。映像に合わせて音声を収録する。
そして最後に音声データと、BGM(劇伴)と、効果音を映像と合わせるダビングを経て完成。



以上が、アニメ完成までの工程だ。かなり簡略化したが、それでも業務が多肢にわたり、大勢の専門職が関わっているのは一目瞭然。正直、わたしも書いている途中で力尽きかけた。読者も集中力が切れて、眠くなってしまったことだろう。

だが、上記の工程における制作スケジュールを、全て現場で管理している者がいる。それがラインプロデューサーであり、主人公の宮森あおいが劇場版にて抜擢された。


◯TVシリーズおさらい

上山高校アニメーション同好会の少女5人は、いつか再び同じメンバーでアニメ制作することを誓う。それから2年の月日が経ち、武蔵野アニメーション(通称:ムサニ)に入社した宮森あおいは、制作進行として元請け作品『えくそだすっ!』に携わる。

入社1年目にして数話分を担当することになった宮森は、並行して進むスケジュール管理にテンパってしまう。さらには同僚のトラブルに巻き込まれたり、代わりの作画監督を確保できなかったり、納期を守れないアニメーターへ催促したり、いきなり監督が絵を変えたいなんて言い出したりと、スケジュール通りに行かない業務内容に忙殺されていく。

制作進行とは、コンテUPから納品までの担当話数の制作を管理する責任者のこと。 スケジュール、素材管理などのデスクワークから、スタッフの手配、集配業務や送迎などの外回りまで仕事内容は多岐にわたり、ほぼ全セクションと関わるポジションのため制作進行を経て、演出やプロデューサーに進む場合が多い。

ちなみに、作中で説明された制作進行の仕事を、ほんの一例として下記に挙げてみた。
4話:原画アップ、演出チェック、CT用素材を撮影、作監チェック。
9話:R表の整理、Rカットの場所、動画検査、仕上げ検査、撮影監督、カット動画仕上げスタッフおさえ。

いかがだろうか? 制作進行は工程ごとのスタッフ間を奔走しながら、どのカットがどこに回されており、どのカットが処理済みか未処理済みかを、全て把握しなければいけない。そうしないと次工程のスタッフへ効率良くカット袋を回せず、作業の進捗管理が疎かになってしまう。

カットとは、カメラ画面が次の画面に切り替わるまでの、1場面のことを指す。TVアニメ1話につき、原画は300カット、動画は4000枚くらいが目安となるらしい。映画は最低でも10万カットを超えるとのこと。この数字を見ただけで、なんかもう吐きそう。

だが、主人公の宮森あおいはやり遂げた。利用しているデータサーバが落ちたり、社内で2D班と3D班が揉めたり、こだわりたい監督に振り回されたりして、万策尽きながらも解決の糸口を掴み取り、仕事仲間の協力を得ながら『えくそだすっ!』最終話を完成させる。



ようやく一仕事を終えた宮森。しかし、まだまだ達成感に浸ってはいられない。次もムサニ元請け作品第2弾として、人気漫画『第三飛行少女隊』のアニメ化が決まる。

さらに上司の退職と休職が重なったことで、彼女は入社2年目にして、制作進行を取りまとめるデスクへと昇進した。そして新たな制作メンバーを加え、再び忙しいアニメ制作の渦中へと飛び込む。

今度は企画段階から関わることになった宮森。監督と二人三脚でアニメの完成を目指すが、後半からはアニメ業界で働く人々の夢が主題となる。

もちろん、『第三飛行少女隊』の制作中も数々の困難が待ち受けていた。連絡が取れない原作サイドからの一方的な駄目出しや、いい加減な仕事をする下請けスタジオなど、外部との足並みが揃わず制作が難航する。

仕事に対して無責任な人がいる一方で、仕事に対して誇りを持つ人とも宮森は出会う。アニメーションを作り続ける理由として、彼らはアニメが好きだから、存在意義、自己表現などの理由を挙げる。そんな彼らの人柄と接する中で、宮森は自分が何をやりたいのか、何ができるのかを悩んでしまう。

そんな時に彼女の指針となったのは、高校時代に誓った仲間との約束だった。いつか再び同じメンバーでアニメ制作をする。職種は違えど他の4人もアニメ業界へ入り、仕事での実績を積み上げようと苦境に立ち向かう。

かつての約束を果たそうとする仲間の姿を見て、宮森は自分にも夢があることを再確認する。だが、今はその夢が遠い。でも、やりたいことに一歩ずつ近づいている。そして自分にもできることがあると、信念を持った宮森はアニメ納品まで突っ走った。


◯劇場版あらすじ

大成功に終わった『第三飛行少女隊』の4年後、ムサニは窮地に立たされていた。ムサニのオリジナルアニメ作品『タイムヒポポタス』が、クライアントの一方的な都合で制作中止となってしまう。ムサニは正式契約を結ぶ前に作業を進めていたため、費用を回収できず大損害を被る。

業界からの信用を失ったムサニは、事業縮小せざるをえない状況に追い込まれる。かつての飛ぶ鳥を落とすような勢いは消え、現在は外注で下請けの仕事をするばかり。また中核を担う多くのスタッフも会社から離散してしまい、活気に満ちていた現場は今や見る影も無い。

せっかく夢に近づけたと思ったのに、また遠のいてしまった。そこへ辿り着く道筋が見えていても、先へ進めないもどかしさに宮森は自信喪失する。

そんな彼女たちの元へ、新企画の劇場用アニメーション『空中強襲揚陸艦SIVA』の制作が舞い込む。だが、この仕事は企画倒れ寸前の曰く付きタイトルであり、制作期間も通常ならば2年欲しいところ9ヶ月しかない。

この話を受けるかどうか、宮森は決断できないでいた。過酷な制作スケジュールになることは予想でき、今のムサニでは映画を制作できるだけのスタッフを確保するのも難しい。それに、『タイムヒポポタス』のトラウマも癒えないままだ。

しかし、夢に向かって前へ進みたいのなら、アニメを作るしかない。過去の成功も失敗も全てを受け入れ、自分を信じることにした彼女は一念発起する。アニメを作ろう。


◯制作会社

劇場版『SHIROBAKO』の制作会社は、株式会社P.A.WORKSだ。(略:Progressive Animation Works)

代表取締役は堀川憲司。富山県に本社を置き、2000年に設立した。設立後はProduction.I.G制作『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』や、ボンズ制作『鋼の錬金術師』など、アニメ制作会社のグロス請けを主として活動。グロス請けとは、アニメ作品の1話分丸ごとの制作を請け負うこと。

そして2008年に、初の元請け作品『true tears』を制作。この作品を足がかりとして、2009年に『CANAAN』、2010年に『Angel Beats!』、2011年に『花咲くいろは』など、立て続けにヒット作を連発する。

特に、人気シナリオライターの麻枝准を起用した『Angel Beats!』は、P.A.WORKSの知名度を瞬く間に拡散させる要因となった。また2015年にも、麻枝准シナリオの『Charlotte』を制作している。

そして『花咲くいろは』は石川県金沢市湯涌温泉を舞台モデルとしており、アニメを観たファンが聖地巡礼に訪れるようになった。アニメが町興しに貢献できた成功例であり、作中の「ぼんぼり祭り」が現実に開催されるほどの人気を博す。

わたしの個人的な評価では、『花咲くいろは』がP.A.WORKSの代表作であり、最高傑作だと思っている。おすすめ。また『花咲くいろは』はP.A.WORKSの「お仕事シリーズ」第1弾であり、その第2弾が本作の『SHIROBAKO』に相当する。


◯スタッフ

監督:水島努
言わずと知れた人気アニメーション監督。『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』などを制作しているシンエイ動画に入社。そこで制作進行、演出、脚本、監督の経験を積み、退社してからはフリーランスとして活動する。

学生時代は音楽教師になりたかったらしく、作品によっては作曲やダンスの振り付けも担当。また音響監督も務めるなどのマルチな才能を発揮する。

1999年公開の短編映画『クレしんパラダイス! メイド・イン・埼玉』が初監督作品。フリーランスとなってからは多くのTVアニメ作品の監督となり、その中でも『ガールズ&パンツァー』はアニメファンからの絶大な人気を誇る。


シリーズ構成:横手美智子
この人の名前を見ないシーズンは無い、と錯覚してしまうほどの売れっ子作家。TVアニメ『機動警察パトレイバー』で脚本家デビュー。

水島監督とは『ジャングルはいつもハレのちグゥ』からの深い関わりであり、その後も『げんしけん』『侵略! イカ娘』で度々コンビを組む。他にも原作付きのコメディ作品を手がけることが多い。

また特撮の『獣拳戦隊ゲキレンジャー』『天装戦隊ゴセイジャー』など、スーパー戦隊シリーズのメインライターを担当した経験を持つ。嫌いなキャラクターは書きたくないらしく、悪役であっても愛されるような描写に力を入れる。


キャラクターデザイン、総作画監督:関口可奈味
Production.I.Gへ入社し、原画マンとしての経験を積む。フリーとなってからは作画監督の仕事をこなし、『ジャングルはいつもハレのちグゥ』で水島努、横手美智子と関わっていた。

また社長の堀川憲司がProduction.I.Gに在籍していた経歴を持つため、おそらくその縁で活動拠点をP.A.WORKSに移している。初の元請け作品『true tears』では総作画監督を務め、その後も数多くの主要作品を任される。

ちなみに、P.A.WORKSはキャラクター原案を旬の人気イラストレーターに頼むことが多い。特徴ある絵柄の雰囲気を残しつつ、動かしやすいアニメ絵に落とし込むのは至難の業。


◯前半終了

読者の皆様、お疲れ様です。前半はひたすら調べて、情報を書き出すことに専念しました。

調べれば調べるほど、新しい発見もあり楽しかったです。まさか、スタッフ間で過去に繋がりがあったとは思いませんでした。調べなければ一生、知ることの無かった情報でしょう。

おかげで、後半からの分析・考察も書けそうです。時間をかけて書きたいため、後半の投稿まで暫く待ってください。

もしも興味を持っていただけたのなら、ぜひともTVシリーズの『SHIROBAKO』を観てください。Netflixで配信中ですし、期間限定でYouTubeでも無料配信中です。

また、TVシリーズを観ていなくとも劇場版は楽しめます。『SHIROBAKO』についての知識は、本稿で書いたあらすじだけ把握していれば大丈夫です。念のため言っておくと、わたしはP.A.WORKSの回し者ではありません。

では、後半で会いましょう。全速前進! ヨーソロー!


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