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無職が書く劇場版『SHIROBAKO』の映画評・後半

どうも、ササクマです。誰に頼まれたわけでもないのに、前回の映画評の続きを書きます。止まらねー筆、ここでは誰もが王様なのーね。深夜です。

で、後半からは登場人物の紹介から書きます。今更かよと思うかもしれませんが、群像劇である『SHIROBAKO』は登場人物が非常に多く、面倒臭いので後半に回しました。おそらく50人くらいは名前付きのキャラクターが存在します。変な話。

全員を紹介するわけにはいかないため、ここでは劇場版に関係する人だけ書きます。てか、Wikipediaを読んだ方が早いです。書いてから気づきました。分析や考察だけ読みたい方は、目次リストから読み飛ばしてください。

後半からはネタバレ有りです。12,000字を超えました。よろしくお願いします。


◯登場人物

上山高校アニメーション同好会5人
(本作の主要キャラクター達。オーディションにより新人声優を起用している)

・宮森あおい/cv.木村珠莉
本作の主人公。武蔵野アニメーションで制作進行を務め、劇場版ではラインプロデューサーに昇進する。仕事熱心でコミュニケーション能力が高く、気遣いもできるので仕事仲間からの信頼は厚い。それに加えて押しの強い性格であり、人を動かす才能がある。普段は明るい反面、悩み事があると一人で抱え込みがち。

またミムジー&ロロと言う、彼女のイマジナリーフレンドが存在する。この2匹は本作のマスコット的な立ち位置にあり、宮森が発散できないアニメ業界の愚痴を吐露する役目がある。

声優は木村珠莉。本作の主人公役に抜擢されてから、声優としての仕事が急激に増える。他に『セイレン』の桃乃今日子や、『風が強く吹いている』の勝田葉菜などを演じた。


・安原絵麻/cv.佳村はるか
武蔵野アニメーションで原画マンの経験を積み、劇場版ではフリーで作画監督を務めた。少し引っ込み思案な性格ではあるものの、作画の技術向上に関しては意欲的に学ぶ。それでも仕事では自分の実力不足を痛感させられることが多く、悔しいながらも負けじと要求に応える。

声優は佳村はるかソーシャルゲーム『アイドルマスター シンデレラガールズ』にて、人気キャラの城ヶ崎美嘉を演じて注目を浴びる。他に『天体のメソッド』椎原こはるや、『うらら迷路帖』の棗ノノを演じた。


・坂木しずか/cv.千菅春香
声優事務所に所属はしているものの、また声優業だけでは生活できない状況。何度もオーディションを受けては落ちるを繰り返し、役が貰えない下積み期間が長く続いた。劇場版ではタレントとしての知名度が上がり、逆に声優の仕事が減ってしまうことに。

声優は千菅春香。ゲームソフト『マクロス30 銀河を繋ぐ歌声』のヒロイン、ミーナ・フォルテ役で声優デビュー。『ソウルイーターノット!』の春鳥つぐみ、『少女たちは荒野をめざす』の黒田砂雪など、数々の主要キャラクターを演じる。


・藤堂美沙/cv.高野麻美
スタジオカナブン所属の3Dクリエイター。実は天才肌であり、技術的な面に関しては壁にぶち当たることが無かった。だが、劇場版では新人の教育係を任されており、自分が指導しても謙虚に受け取らない相手の姿勢に不満を持つ。

声優は高野麻美。『アイドルマスター シンデレラガールズ』の宮本フレデリカ、『プリンセスコネクト』の柊杏奈など、ソーシャルゲームでの仕事が多い。


・今井みどり/cv.大和田仁美
脚本家志望の大学生。作品に必要な情報の調査能力に長けており、脚本家の助手として設定制作の仕事を任せられる。劇場版では既に脚本家として活躍中だが、脚本会議で登場人物の台詞の流れを汲み取れないなど、まだまだ仕事に対して荒い部分が目立つ。

声優は大和田仁美。『アリスと蔵六』にて樫村紗名、『はねバト!』にて羽咲綾乃などの主役を演じた。今後の活動も注目される。



武蔵野アニメーション

・矢野エリカ/cv.山岡ゆり
頼れる先輩の制作進行。仕事で落ち込んだ宮森を励まし、的確なアドバイスを伝える。彼女がいるだけで職場の安定感が増す。本作の人気キャラ。家族想い。

声優は山岡ゆり。『たまこまーけっと』ではチョイ・モチマッヅィ、『ガールズ&パンツァー』ではウサギさんチームの宇津木優季を演じる。


・高梨太郎/cv.吉野裕行
トラブルメーカーの制作進行。場の空気を読まず、どれだけ怒られても反省しない強靭なメンタルを持つ。劇場版ではムサニを離れ、演出家として制作会社に企画を持ち込んでいる様子。

声優は吉野裕行。『ヴァンドレッド』のヒビキ・トカイ役でブレイク。『SKET DANCE』のボッスン、『四畳半神話体系』の小津を演じる。


・平岡大輔/cv.小林裕介
アニメ業界に憧れて制作進行として働くが、現実の理不尽に打ちのめされ情熱を失う。裏表が無い性格の高梨と仲良くなり、劇場版では彼をサポートしながら制作進行の仕事を続けている。

声優は小林裕介。『ウィッチクラフトワークス』の多華宮仄役で初主演。また『Dr.STONE』では石神千空役を演じる。


・渡辺隼/cv.松風雅也
ラインプロデューサー。メーカープロデューサーの葛城とは麻雀仲間。打ち合わせのため、会社にいないことが多い。劇場版ではムサニの社長に就任した。ちなみに、本作の冒頭でラジオDJをやっている。

声優は松風雅也。『桜蘭高校ホスト部』では鳳鏡夜役、『斉木楠雄のΨ難』では才虎芽斗吏を演じた。俳優、ラジオでも活躍。



社外スタッフ

・木下誠一/cv.檜山修之
アニメ監督。初監督作品が高い評価を受け、その後も順調に名作を生み出していたが、初オリジナルアニメの『ぷるんぷるん天国』で作画崩壊の放送事故をやらかす。インターネットでは酷評の嵐であり、未来永劫語り継がれるネタとなる。業界に干されていたところをムサニに拾われた。

実在するアニメ監督、水島精二をモデルとしているらしい。だが、おそらく水島努監督本人の要素も投影している。木下誠一以外にも、キャラのモデルとなった業界関係者は多い。

声優は檜山修之。『天元突破グレンラガン』ではヴィダル、『キルラキル』では猿投山渦を演じた。様々な役柄を演じ分けることができる実力派の人気声優。


・遠藤亮介/cv.松本忍
フリーランスのアニメーター。こだわりの強い原画マンであり、アクションシーンの作画や、メカニックデザインには定評がある。それと美人な奥さんがいる。

声優は松本忍。アニメやゲーム以外にも、舞台役者としての出演もしており、映画の吹き替えもこなすなどの幅広い活動をしている。


・瀬川美里/cv.山川琴美
フリーランスのアニメーター。作画監督としての手腕を信用されている分、仕事に対して厳しい一面を持つ。遠藤亮介の先輩だったらしいが、作画の方向性で折り合いが悪い。

声優は山川琴美。美少女ゲームの『ToHeart2』では河野はるみ、『桜花センゴク』では上杉謙信ちゃんを演じる。


・舞茸しめじ/cv.興津和幸
シナリオライター。木下誠一とタッグを組み、作品のクオリティを底上げしている。今井みどりが師匠と仰ぐ人物。展開に行き詰まった時は彼女の見解を参考にすることもあり、面倒を見ながらも互いに学ぶ姿勢がある。

声優は興津和幸。『監獄学園』ではアンドレ役、『くまみこ』では雨宿良夫役を演じるなど、多数のアニメ、ゲーム作品に出演している。


・葛城剛太郎/cv.こぶしのぶゆき
ウエスタンエンタテイメントのメーカープロデューサー。よく渡辺と一緒に接待麻雀をしており、アニメ制作をムサニに受注できるよう画策していた。劇場版では悪質な契約違反に激怒する。

声優はこぶしのぶゆき。『涼宮ハルヒの憂鬱』ではコンピ研部長、『荒野のコトブキ飛行隊』はトキワギ役を演じる。脇役として数多くの作品に出演。


・宮井楓/cv.佐倉綾音
ウエスタンエンタテイメントのメーカーアシスタントプロデューサー。外見は物腰が柔らかそうなお姉さんだが、『空中強襲揚陸艦SIVA』を前任者から引き継いで腸が煮えくり返っている。劇場版の新キャラ。今後の宮森の相棒的ポジションとなるか?

声優は佐倉綾音。『のんのんびより』の越谷夏海役、『Charlotte』の有利奈緒役など、数多くの主要キャラクターを演じる人気声優。



◯分析

映画評として作品を論じる上で、映画を分析する効果的な手法が一つある。

それは作品の、フィクショナリティを見破ること。

『コロボックル物語』の作者、佐藤さとる先生は以下の言葉を残した。

「優れた物語は99%の現実と、1%の不思議で構成されている」

どれだけファンタジーな童話であっても、それらの世界が破綻しないのはリアリティあってこそ。たった1%の不思議を成立させるためには、残り99%の現実で物語を構築する必要がある。

仮に100%の現実を書いたところで、それは物語の体裁をなさない。なぜなら創作していないから。ただの日常や事件を書き起こしただけでは、もはや記録でしかない。

それに「事実は小説よりも奇なり」とも言う。これは現実の世界で実際に起こった出来事は、空想によって作られた物語よりも、かえって不思議であるという意味のことわざだ。本当に面白い物語には、えてして不思議なことが起こるものである。

また、基本的に物語は架空のフィクションであるため、絶対に不思議な要素は入る。それは事実に基づいたノンフィクションでも同じことで、多少の脚色は付けなければ面白くならない。

逆に言えば、作品内に1%以上の不思議を取り込むと、リアリティの無い駄作となってしまう。あまりにも現実味の無い物語では、観客は登場人物に感情移入できない。


では、『SHIROBAKO』のフィクショナリティは何か? いくつか仮説を立ててみる。


1.美少女

本作に登場する女性キャラクター、全員が可愛い。特にムサニは美女だらけであり、こんな女性達に囲まれた職場があるのなら、今すぐにでもアニメ制作会社に就職したいくらいだ。

しかし、現実のアニメ制作会社には、宮森あおいのような美少女は存在しない。彼女がいない退屈な世界などに意味は無いと、思わず死にたくなった男性諸君も多いことだろう。

まだ諦めるのは早い。P.A.WORKSのFAQによると、2019年4月時点で作画の男女比率は3:7だとか。もしかしたら美人アニメーターは存在するかもしれない。この可能性を否定できない限り、美少女の有無だけではフィクショナリティを証明できない。

それに美少女の存在が1%の不思議だと言い張れば、ほとんどの創作物はリアリティの無い物語となってしまう。中には日常系の美少女アニメのように、ヒロインの存在自体がフィクショナリティの場合もあるかもしれない。

だが、『SHIROBAKO』は違う。もしも美少女を売りにしたいのであれば、上山高校アニメーション同好会の女子校時代を話のメインに据えれば良い。本作はアニメ制作会社に就職した社会人の話がメインのため、やはり美少女の存在は作品のフィクショナリティではないだろう。


2.ミュージカル

本作の劇場版では、2回ほどミュージカルシーンが流れた。TVシリーズには無かった要素のため、観客の中には困惑したという感想もあるようだ。ちなみに、わたしは感動して泣いた。

『空中強襲揚陸艦SIVA』の制作を受けるか、宮森が悩んでいた場面。元社長に相談すると、前に進むためにはアニメを作り続けるしかないと励まされる。その後の帰り道、何かを決意した宮森は『アニメーションをつくりましょう』を歌う。

これの何が感動的かって、今まで制作したアニメキャラが登場することだ。その中には『七福神』や『ぷるんぷるん天国』も含まれており、良くも悪くも宮森が影響された作品が参加する。

夢に向かって前へ進むため、キャラ達が背中を後押ししてくれるのだ。これぞアニメ愛だろう。過去の作品で培った全てが、彼女を突き動かすエネルギーとなる。今までやってきたことは無駄じゃなかったと、わたしは涙した。

で、このミュージカルは作品のフィクショナリティではない。さっきと同じ言い回しになるが、ミュージカルシーンが1%の不思議だと言い張れば、ほとんどのミュージカル作品はリアリティの無い物語となってしまう。

そもそも、水島監督が作品にダンスを取り入れることは珍しくない。彼はシンエイ動画出身であり、『クレしんパラダイス! メイド・イン・埼玉』でもミュージカルを取り入れた。これは便秘が解消された喜びを踊りで表現し、ひたすた「出た出た」を連呼するだけの意味解らん映像だ。

だが、意味が解らないこその、謎すぎるパワーを秘めている。その狂気は作中の『なめろうマーチ』でも遺憾無く発揮されており、アニメは子どものために作られていることを思い出させた。

また、監督は作曲と振り付けもこなす。『ガールズ&パンツァー』ではあんこう踊りを、本作ではエンゼル体操を開発した。どちらも視聴者の間で話題となり、作品の効果的な演出(ネタ)となった。ただTVシリーズでミュージカルを演るにはカロリーが高すぎるため、満を持して劇場版で披露したのだろう。

それとダンスとは異なるが、例えば新海誠監督は劇中歌をMVのように見せている。これも物語の時間経過を表す際に用いられているため、場面展開で歌やダンスの映像を流すのは、ダレ場を防ぐ意味でも効果的な演出なのかもしれない。


3.カチコミ

『空中強襲揚陸艦SIVA』が完成間近となったムサニ。しかし、このタイトルを企画倒れさせた制作会社が割り込み、契約上はウチに権利があるのだから、自社を元請けにさせろと主張してくる。

制作の手柄を不正に横取りされたのでは、今度こそムサニは潰れてしまう。そこで宮森あおいは宮井楓と共に相手の本社へ乗り込み、社長へ直談判しに行く。

このシーンは派手なアクションで演出されており、本来は地味な絵面を盛り上げている。またTVシリーズの名シーンを彷彿とさせるため、この展開を否定的に見るアニメファンは少ない。

しかし、どうしても腑に落ちない点がある。

それは相手社長の言い分を論破するための証拠として、通話記録の音声を流したことだ。

……さっさと出せや。今までのくだり、いらんかったやろ。普通、半年前の音声データ残ってるか? よしんば録音していたのなら、葛城が狼狽えてたのは不自然だろう。この切り札を使って勧善懲悪とするには、あまりにもご都合主義に思えてならない。

つまり、この部分が1%の不思議であり、本作におけるフィクショナリティだと推測する。元から『SHIROBAKO』はリアル寄りの物語であるため、ここに不思議要素を投入するのは間違いではない。『半沢直樹』の「10倍返し」みたいなものだ。

また、物語の不思議は創作者の願いでもある。そもそも、なぜ人は物語を制作するのか? それは現実を超えたいからだ。現実で嫌なことがあった時、人は物語を必要とする。現実での願いを妄想し、でも妄想だけでは何も変わらないから、自分が救われたくて制作を行う。

そして、その願いにこそ作品の伝えたいことがある。あるはずなのだが、わたしは企画倒れさせた相手会社を論破することが願い、という事実にアニメ業界の闇を感じた。

ちなみにP.A.WORKS代表の堀川憲司は、本作のバランスついて以下のことを述べている。

『SHIROBAKO』は、「あるある」50%、「こんなんだったらいいな」20%、「ネーヨ!」10%、「え(゚_゚;)」10%で構成されています。あと10%は?

おそらく作品テーマであろう10%を言葉にするため、次はアニメ業界の問題を調べる。


◯考察

試しに「アニメ制作会社 ブラック」で検索してみた。そしたら、出るわ出るわ。情報が溢れすぎていて、何が正しくて何が間違っているのか分からない。このまま調べてたら心が折れそうなので、とにかく今ある情報を大きく2つまとめてみる。


1.会社経営について

近年、アニメ制作会社の倒産が相次いでいる。帝国データバンクの調査によると、アニメ制作会社の倒産・休業・解散件数は、2016年に5件、2017年に6件、2018年には11件とのこと。

一方で、一般社団法人日本動画協会から刊行される「アニメ産業レポート2019」によると、2018年のアニメ産業市場は総額2兆1,814億円と算出された。これは前年比100.9%と横ばいながらも、6年連続で最高値を更新した記録となる。

数字だけを見ればアニメ産業市場は順調のようだが、なぜアニメ制作会社は倒産してしまうのか? それは製作委員会の出資企業に作品の権利が分配され、それぞれが与えられた権利でビジネスを行うため、制作会社に利益が還元されないことが理由の一因として挙げられる。

そのため、いくらアニメ産業規模2兆円と謳われようが、制作会社へのリターンは少ない。例え作品が良質であろうとも、制作費の中で費用を抑えなければ経営は赤字となる。ちなみに、深夜アニメの制作費は約3億円ほど必要。制作期間は1年あれば理想的だ。

これら製作委員会の問題点については、以下のサイトで詳しく解説されている。

また経営を立て直すため、株式会社ガイナックスは作品の権利を売却しているようだ。株式会社カラー代表の庵野秀明監督は、作品資料の保全を危惧している。ガイナックスと庵野監督が袂を別つ経緯については、以下のサイトを参考にしてほしい。

こうして見ると当たり前の話だが、作品の権利が会社経営と直結していることが分かる。劇場版『SHIROBAKO』のように、作品の権利を巡って争うことは珍しくないのかもしれない。


2.労働環境について

よく、アニメ制作会社は賃金が低いことが槍玉に上げられる。実際その通りらしいので、ここでは一例としてアニメーターの給料を計算してみよう。

アミューズメントメディア総合学院のアニメ情報局によると、雇用形態がフリーランスと前提する場合、動画担当の平均年収は110万円とのこと。そして経験を積み、原画担当になると194万円に増えるらしい。

ただし、アニメ制作会社は出来高制や、歩合制を採用していることが多いため、個人が何枚の作業をしたかで給料が変わる。例えば動画担当だと150〜250円/1枚となり、1ヶ月あたり450枚くらい書かなければ年収110万円に届かない。また動画担当は新人に任されるため、作業スピードが遅ければ労働時間も増えてしまう。

原画担当は2000〜2500円/1枚となり、1ヶ月あたり80枚くらい書かなければ、年収194万円に届かない。以上の数字は、わたしによる雑な計算だ。もちろん、会社や仕事内容によっては給与が変動する。

この上さらに、フリーランスは自分で確定申告をせねばならない。そもそも、なぜアニメーターはフリーランスが多いのか? 作画作業に集中することを考えれば、正社員で安定の給料を貰いながら、経理も会社に任せた方が楽だろう。その理由が気になったため、また雑な計算を続けてみた。

1ヶ月あたりの枚数を30ないし、週休2日に設定して20で割れば、まぁまぁ妥当な1日あたりの作業枚数になるのではないか? だが、この世には〆切がある。正社員なら何かしらのトラブル、リテイク作業のことも考えれば、1年を通して一定のペースで仕事できるとは限らない。それならフリーランスとなり、自分で仕事量を調節したいだろう。

また、TVアニメ1話は約300カットあり、その作業を複数人で分担すると、TVシリーズ12話を通しての作画期間は3ヶ月ほどとなる。その後の元請け作品が無ければ、正社員のアニメーターは仕事が無くなってしまう。会社を通して下請けの仕事をするなら、自分から直で仕事を受けた方が自由な時間で稼げる。会社の方も元請けの仕事が無い時に、正社員へ給料を支払い続けるのは厳しいだろう。

つまり、何作もラインを並行できる制作会社でもなければ、アニメーターは正社員よりもフリーランスで働いた方が良い。ただし、この話は実力があるアニメーターに限る。

駆け出しの新人アニメーターの場合は、作画速度も正確さも求められた水準に達せず、リテイクも重なれば枚数をこなせない。そして会社の雇用条件次第では出来高制になるので、長い労働時間と反比例するような薄給となってしまう。

以上の理由から、新人アニメーターは給料が少ないと嘆き、その声を聞いたネットやらメディアやらで度々話題にされる。実際、P.A.WORKSも2016年に内部告発を受けた。元スタッフがTwitter上で支払明細や、内部事情を暴露したのである。(現在はアカウント削除済み)

これに対し、P.A.WORKS代表の堀川憲司は、公式ブログにて当時の見解を述べた。

ここまで読んでいただけた方ならお気づきだと思うが、元スタッフの半年間で動画500枚は作業量として少ないのではないか? 仮に1ヶ月約80枚で単価200円なら、出来高制の給料は16,000円の計算になる。どのような雇用契約を結んだのかは不明なため、わたしから言えるようなことは何も無いが、当該会社は人々からの非難殺到、罵詈雑言の嵐だ。


この1件に限らず、現在もアニメ制作会社の労働条件が再び問題視されている。例えば、有名な制作会社のマッドハウスとSTUDIO4℃では、制作進行の社員が未払い残業代を求めて提訴した。この起訴の争点は、適用されていた裁量労働制の有効性にある。

裁量労働制とは、実際の労働時間に関係なく、あらかじめ契約していた労働時間分だけを働いたことにする制度のこと。つまり、残業代が発生しない。これは多くのクリエイティブ職に適用された制度であり、今回の判決次第では大きく見直されることになる。

しかし、出資されるアニメの制作費は最初から決まっているため、そこから追加で残業代は支払えないのが制作会社の実情だ。もしも残業代が発生する場合、制作費は大きく跳ね上がり、それ以上の利益は現状のままなので見込めず、スポンサー企業が撤退すればTVアニメの本数が少なくなる。

要するに、今のアニメ制作のビジネスモデル自体に欠陥があるのだ。

これを改善できる試みの一つとなるのが、P.A.WORKSが行っている取り組みである。当社は2018年4月に、P.A.養成所を設立した。これは実践的な原画の知識と、技能修得の学習を目的とした職業訓練所だ。若手アニメーターの育成になる上、納められる受講料は経営の足しになる。

また、P.A.WORKSは2017年にスタッフ全員を正社員にした。おかげで新人アニメーターも安定した収入を得ることができ、人材が増えれば仕事も社内で完結できるため、アニメーターの確保、集配業務の削減、工程の進捗管理といった制作進行の負担を減らすことができる。

反面、人件費は増えたので経営面は依然として厳しい。そこで、当社は最近になってDMMオンラインサロンを開設した。もはやアニメ制作会社はブランド化しており、社長もバンバン前面にメディア露出していき、ファンと交流する場を積極的に設けている。料金は月839円。今は大した利益にならないかもしれないが、ファンを大事にすることで作品も会社も長く愛されるだろう。

公式ブログにて、堀川社長自らがアニメ業界の課題を解説している。参考にどうぞ。


◯まとめ

劇場版『SHIROBAKO』の序盤、印象的な台詞があった。

「好きなことが仕事でいいよねー」

これは電話にて、宮森あおいの姉が何気なく発した言葉だ。地元就職して結婚した姉からすれば、夜遅くまで会社に残って仕事する妹の情熱が理解できなかったのだろう。それが分かっている宮森あおいは、不機嫌になりながらも何も言い返せない。好きなことだからこそ、逃げられない辛さがある。

往々にして、自分の情熱は他人に伝わらないものだ。特にアニメ制作は仕事が細分化されており、どれだけ自分がこだわって作ろうとも、観ている人には気づいてもらえない。努力しても意味が無いのなら、こだわって時間かけても意味は無いと熱が冷めてしまう。

夢に飛び込んで、夢を仕事にして、でも夢に近づけない。

そんな葛藤を抱えていると、ムサニの元へ企画書が舞い込んでくる。夢が遠すぎて何をすれば良いのか分からなくなったら、その途中途中に道標となるアニメを作り続けるしかない。みっともなく足掻いてでも前に進んで、一つ一つの到達点である白箱を目指す。

目標を設定したからには、クリエイターたるもの一切の妥協を許さない。皆が全力を出して作るからこそ、そのクオリティに追いつけない自分の実力不足に歯噛みする。各々が複雑な苦悩を背負った中、上山高校アニメーション同好会5人は子どもアニメーション教室の手伝いをすることに。

子ども達にアニメ作りを教える過程で、彼女達は皆で作ることの楽しさを思い出す。勝手に自分だけが一人相撲しなくても、アニメ制作は多くの人が関わっているのだから、それぞれの長所を活かして仕事を任せれば良い。そう割り切れた時、胸の憑き物が落ちた。

また、子ども達と作ったアニメを上映した際、『なめろうマーチ』を歌いながらのカオスな映像が流れる。これは視聴者の生の反応であり、実は彼女達も視聴者の反応を間近で見るのは初めてだった。この自主制作アニメ自体には、彼女達プロの熱意は込められていないだろう。だが、それを観た子ども達の熱狂は凄まじい。

自分の情熱なんて伝わらないと思っていたら、逆に子どもの情熱に圧倒されたのだ。物語中盤の彼女達は夢に近づくため、言うなれば自分のためにアニメを作っていた。だが、子ども達の反応に触れることで勇気づけられた宮森達は、誰のためにアニメを作るのかを意識する。

だからこそ物語終盤、ムサニは『空中強襲揚陸艦SIVA』の終わらせ方を会議した。本来ならば予定通りで問題は無く、どうせ結末は変わらないので別に尺を伸ばす必要も無いだろう。しかし、もう情熱が伝わらない、なんてことは思わない。逆に、どうすれば情熱が伝わるのかを考え、皆で意見を出し合う。


そして完成した『空中強襲揚陸艦SIVA』を観た時、わたしは号泣した。

迫り来る追っ手から逃げようとして、ヘドウィックと仲間達が戦うシーン。おそらく、アルテ達が乗っている馬車が作品で、ヘドウィック達が制作スタッフを表している。馬車(作品)を世に送り出すために、ヘドウィック達(スタッフ)が犠牲になりながら、襲いかかる戦闘員(権力)と戦う。

このシーンを観て、ようやくわたしは理解した。

『SHIROBAKO』の監督は水島努でなければいけない。

なぜなら、水島監督は脇役の魅力を引き出す演出が上手いからだ。思い起こせばクレしん映画の監督作品も、わけ解らんモブキャラが物語で活躍しまくる。普通は登場人物が多いほど、特に目立つこと無く終わるのだが、水島監督作品のキャラは芸人のように爪痕を残す。

その作風が顕著に表れていたのは、やはり『ガールズ&パンツァー』だろう。主人公の大洗女子学園だけでキャラが30人以上おり、その全員に見せ場が用意されている。特に最終話のウサギさんチームの活躍は感涙ものであり、わたしは彼女達の成長を大いに称えた。

なぜ、脇役にスポットライトが当たるのか? それは戦場で各々が自分の役割を理解し、仲間を信じながら玉砕覚悟で己が使命を全うするからだ。個人の力では勝てない強敵を前にしても、チームに貢献できるよう最善を尽くす。これは信頼関係が築けていなければ不可能であり、全員で勝利を掴み取る団結力は観客を巻き込んで涙腺を崩壊させた。

それと同じことが『SHIROBAKO』でも言える。各自のスタッフ達も与えられた役割の中で、自分なりの最善を追求しながら作品の完成を目指す。その過程で人材不足、スケジュール破綻、契約違反などの問題が次々と襲いかかろうとも、皆で団結して逆境を乗り越えるのだ。

物語上では脇役であっても、語られないだけで一人一人にストーリーがある。怒りん坊、怠け者、のんびり屋、泣き虫、いろんな人が集まってアニメは作られ、その先の未来を切り開く。個人にはできないことでも、チームワークがあれば目標を達成できることが、本作を通して伝えたいメッセージだったのだろう。


……わたしは無職だ。仕事に対する情熱を持たない。5日間つまらなそうに仕事して、2日間は寝て終わったり遊びに出かけたりする。で、また窮屈な5連勤が始まるのだ。生きているくせに、死んでいる。この何も無い生活が後40年続くのかと思うと、わたしは耐え切れなくなって仕事を辞めた。その先の未来は暗闇だ。

だから、クリエイティブ職に就いている人が羨ましい。わたしはシナリオライターになれなかった。スタートラインに立ててさえいない。夢に飛び込む勇気も無いくせに、夢を諦めた。そんな自分を許せない。人生を愛せない。

『空中強襲揚陸艦SIVA』のラスト、印象的な言葉があった。

「昨日と同じ日は無い」

暗闇の中にいると、今が無限に続くかのような錯覚に陥る。努力なんかしても無意味で、希望も見えないから心が虚無感に蝕まれてしまう。

でも、それでも、作り続けるしかない。そうすることでしか未来は切り開けないからだ。昨日と同じ日は無いと信じて、同じ志を持った仲間と出会えると信じて、光に照らされると信じて今は書く。

わたしは物語を必要とする。書かない意味なんていらない。

最後の最後、宮森あおいは新たな企画を発表する。作品の完成は終わりではない。夢に近づくため、何度でも白箱を目指す姿が眩しくて、またわたしは泣いた。

おれ達の戦いはこれからだ。

いただいたお金は、映画評を書く資料集めに使います。目指せ3万円。