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アフリカの子供たちの予防接種事情、健康保護活動に迫る

2020年にアフリカ地域認定委員会が、野生株のポリオがアフリカで根絶されたことを発表した。ポリオとは主に子どもが罹患するウイルス性の感染症で治療法はなく、予防接種がほぼ唯一の対策となる。日本をはじめとする先進国では予防接種のおかげで目にすることがなくなった病気だが、アフリカでは僅か数年前まで、ポリオに苦しむ子供たちが毎年数千人存在していたのである。このように、世界には予防接種で防ぐことができる病気に苦しみ、命を落とす子どもがいまだに多い。その傾向は、一般的に貧しいといわれる国々で非常に高くなる。今回は、アフリカにおける予防接種と子供たちの健康保護活動について分析する。 


アフリカにおける子供たちへの予防接種の現状とは


子供への予防接種が最も不足している地域

アフリカは、世界の中でも、子供への予防接種が最も不足している地域である。
ユニセフの報告書によると、2021年の段階で、ワクチンを全く投与されたことのない(ワクチンゼロ投与)子供は、世界全体で約1820万人も存在する。そしてワクチンゼロ投与の子供が最も多い上位20か国の中に、アフリカ大陸の10の国が含まれている(ソマリア・アンゴラ・マダガスカル・モザンビーク・ナイジェリア・エチオピア・チャド・カメルーン・コンゴ民主共和国・タンザニアの10か国)。
ソマリアでは100万人の子供がワクチンゼロ投与であり、子供の半数が全く予防接種を受けたことがない。また、ナイジェリアでは250万人近くの子供がワクチンゼロ投与であり、このことは同国の子供の約30%が生まれてから一度もワクチンを投与されたことがないことを意味している。

予防接種率が非常に低いワクチンも

また、アフリカの場合、子供の予防接種率が極端に低いワクチンが存在する。例えば、アフリカ西部・中部の国々では、はしかワクチンの予防接種率がわずか30%となっており、突出して低い。また、ロタウイルスワクチンの接種率は中東・北アフリカでも32%という低い割合となっている。加えて、B型肝炎ワクチンのアフリカ大陸全体での接種率はわずか17%にすぎないとも言われている。

新型コロナウイルスで、予防接種率が現象

このように、ワクチンの接種率がもともと低いアフリカの国々だが、この4年ほどはその傾向がより強くなっている。その背景には新型コロナウイルスの存在がある。
前述のユニセフの統計によると、2019年から2021年の3年間で世界中で4800万人の子供が、全く予防接種を受けることができなかった。新型コロナウイルスにより、各国の保健衛生システムが大きな被害を受けた。特にアフリカの場合、もともと保健衛生システムが脆弱ところに、新型コロナウイルスが蔓延し、保健衛生関係の資源や人材が不足した。その結果、この時期に生まれた子供たちが必要な予防接種を受けることができなくなった。
加えて、急遽開発・普及した新型コロナウイルスのワクチンに対して、アフリカでも安全性に関する議論が起こった。その影響で、他の予防接種を子供に受けさせることを躊躇する人がアフリカでも増加した。このような複数の理由により、この数年のアフリカの子供に対する予防接種は減少傾向にあった。

参考URL
BBC News Japan  ポリオ、アフリカで根絶宣言 https://www.bbc.com/japanese/53914987
日本ユニセフ協会(2023), 『世界子供白書2023 すべての子供に予防接種を』 https://www.unicef.or.jp/sowc/
Organización de Mundial de la Salud (2024), Cobertura de la Inmunización https://www.who.int/es/news-room/fact-sheets/detail/immunization-coverage

アフリカで子供への予防接種率が低い理由

予防接種に関する情報不足

では、アフリカで子供への予防接種率が低い要因とは、どのようなものだろうか。
第一に、予防接種の重要性や安全性が多くの人に、効果的に伝わっていないことがある。このことは、予防接種に対する不信感を生むことにもつながる。いわば、ワクチンを接種すべき子供のいる家庭でワクチンの重要性が理解されいないため、自分たちの子供にワクチンを接種することを反対する家庭が存在するのである。

社会的資本の不足

第二の理由として、多くのアフリカの国々では、インフラ(社会資本)が不十分なことがある。予防接種時に使うワクチンは、いわば「生物(なまもの)」である。例えば、野菜や果物・肉や魚介類などの生鮮食料品が一般の家庭の食卓に上るまでは、冷凍・冷蔵設備を完備した施設やトラック等で管理・運搬されることが不可欠である。予防接種に使うワクチンも同様で、それぞれのワクチンに適した環境下で管理・運搬しなくてはならない。しかし、アフリカの多くの国では、ワクチンの保管に必要な施設が完備されていないことも多く、また、ワクチンを運ぶための道路や鉄道といった輸送インフラにも問題があることが多い。こうした状況では、入手したワクチンが接種現場まで運ばれるまでに時間かかり、現場にワクチンが到着しても、そのワクチン自体がすでに使えない状態となってしまうこともある。

参考URL
Melissa S. Cunningham, Colleen Davison, Kristan J. Aronson. (2014) “HPV vaccine acceptability in Africa: A systematic review,Preventive Medicine”, 69, 274-279, ISSN 0091-7435                       https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0091743514003260
METCALF CJE, TATEM A, BJORNSTAD ON, et al. (2015). “Transport networks and inequities in vaccination: remoteness shapes measles vaccine coverage and prospects for elimination across Africa”.Epidemiology and Infection. 143(7):1457-1466. doi:10.1017/S0950268814001988  https://www.cambridge.org/core/journals/epidemiology-and-infection/article/transport-networks-and-inequities-in-vaccination-remoteness-shapes-measles-vaccine-coverage-and-prospects-for-elimination-across-africa/076423B6F7547E7E50E1A023FBFF4632

アフリカで子供への予防接種を浸透させるための課題

保健衛生に関する専門家の育成

では、アフリカで子供への予防接種を浸透させるための改善点を考えてみよう。
1つは、予防接種に詳しい保健衛生関係の専門家を育成することである。特にアフリカでは、プライマリ・ヘルスケアやそのサービスを提供する専門家の育成が、必要とされている。質の高い専門家を多数育成し、この専門家を通じて予防接種の重要性を伝えることで、子供を抱える大人が最初に予防接種の必要性を理解しやすくなる。その結果、子供の予防接種率を上げることが可能になるだろう。

インフラの改善・充実

続いて、アフリカ大陸内のインフラの改善が挙げられる。ワクチンの安全性を維持しながら保管・運搬できる施設を増やすことで、多くの子供に効果的なワクチンを届けることが可能になるだろう。また、特に運搬のためのインフラは、道路や交通機関となることが多いため、基本的には誰でも使用可能なものである。そのため、予防接種を受ける子供以外の人にも、何らかの好ましい影響を与えることもできる。
また、上記のような改善策において、日本が果たすことができる役割は、決して少なくはない。保健衛生の専門家の育成においては、日本にある保健婦制度や看護師育成のシステムが、アフリカ諸国での参考になるかもしれない。また、インフラ整備は日本の行っている国際貢献において重要な位置を占めている、いわば日本の得意分野である。インフラ整備と子供の予防接種率の増加は、一見したところ直接的には結びつかないが、深く関連しているのである。

参考URL
日本ユニセフ協会(2023), 『世界子供白書2023 すべての子供に予防接種を』 https://www.unicef.or.jp/sowc/
METCALF CJE, TATEM A, BJORNSTAD ON, et al. (2015). “Transport networks and inequities in vaccination: remoteness shapes measles vaccine coverage and prospects for elimination across Africa”. Epidemiology and Infection. 143(7):1457-1466. doi:10.1017/S0950268814001988  https://www.cambridge.org/core/journals/epidemiology-and-infection/article/transport-networks-and-inequities-in-vaccination-remoteness-shapes-measles-vaccine-coverage-and-prospects-for-elimination-across-africa/076423B6F7547E7E50E1A023FBFF4632


まとめ

今回の記事では、予防接種によるアフリカの子どもたちの健康保護活動ということで、アフリカにおける子供の予防接種に関する現状とその理由、そしてその解決法について分析を行った。
アフリカにおける子供への予防接種率の低さは、国内外の政治的要因や人材不足、そしてインフラの不備といったさまざまな問題が絡み合った結果として現れている。このことは、一見別の問題に見えるような、例えば道路などの交通インフラの改善等が、子供たちの予防接種率を高める可能性もある。
アフリカで子供たちの予防接種率を高めるには、さまざまな分野からのアプローチが必要とされている。


ライター 對馬由佳理
北海道函館市出身、現在スペインのサラマンカ在住。サラマンカ大学でPhDを取得(ラテンアメリカ研究)後は、スペインでライターや通訳・翻訳者として活動中。

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