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【業界地図オフ会】マツダ 弱者の論理とブランディング

こんにちは、がぱけん(@gapaken335)です。

このアカウントは私が仕事や書籍、日々の気づきを通して考察したものを共有するものです。少しでもみなさまのインプットや気づきになると嬉しく思います。

今回は、おしばさん(@lumanabu)が主催している、業界地図オフ会に参加してみましたので、その内容をシェアします。

今回のテーマは「都道府県全国ご当地企業」。
宮崎地鶏、香川県の電力会社、茨城の地元スーパー、実は山口のファーストリテイリングなど様々な企業の分析や紹介が行われていました。


全体を通して個人的な気付きは「地銀・小売・不動産などのビジネスは確実に地方に根ざしていて、大手がそこに参入する手段は結局買収になる」ですかね。

当たり前といえば当たり前ですが、実際にそれぞれを俯瞰してみるとしみじみと実感できます。

あとは「食肉業界は利権が絡んで上場しづらい説」でしょうか。

ちなみに主催のおしばさんのnoteはこちらです。

さて、今回の私のテーマは広島県。分析に関しては、広島を代表しているローカル感と、世界を股に掛けるグローバル感を両立している、自動車メーカーマツダです。

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2012年あたりの赤字体質からの脱却と成長戦略として掲げた「ブランド価値経営」を中心に綴ります。

(口頭プレゼン用パワポ資料メインでお送りします。ご了承ください。)

それでは本題にまいりましょう。


基本情報を整理。

まずは前提知識。
ロゴ・商品・象徴は以下のイメージ。

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広島を大事にしていて、スタジアムの命名権も所持。
ブランドカラーはカープと同じ赤。
流線型のボディが特徴です。

売上規模と利益体質をみてみましょう。

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売上高は3.4兆円規模。直近の営業利益率は少なめ。
巨大企業ですね。

販売先の仕向け国をみてみましょう。

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北米が一番大きいマーケット。国内比率は30%ほど。
誰もが認めるグローバル企業です。
Othersの中には中国・オーストラリアなどが入ります。

自動車業界の中での相対的な立ち位置はどうでしょうか?

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ソースはこちら

こちらは今回の話においてとても重要な情報です。

売上規模は3兆円を超え、とても大きく見えますが、自動車業界では15位。販売台数でみてもトップ企業の1/8です。

マツダは業界の中では、まごうことなき弱者なのです。


利益が上がらなかった過去のマツダ

マツダの中長期の利益率を追ってみると非常に面白い動きをしています。

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2008年以降のリーマンショック以降、2012年あたりまで赤字ないし赤字スレスレ、それが2013年以降、利益ベースで奇跡の復活を遂げています。

では、どのような方向転換の経緯があったのでしょうか?
元々、マツダはブランド価値が低いという課題を抱えていました。

そして、それをおぎなうために多額の値引き販売を行っていたそうです。

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ブランドがないから安く販売され、新車が安いから中古車も安くなり、中古車が安いから乗り換えの回転が遅くなり、さらにブランドが低下する。

メーカーも、オーナーも、中古車販売業者も、誰も得をしない、まさに地獄。

特定のファンのブランドを最大化する。

前項のようなマツダ地獄。脱出するためにマツダが手をつけたのはブランディングでした。
ブランド価値をベースに単価を向上させれば、売上も、利益も、顧客満足度さえもあげることができます。

それにあたり、マツダが提示したゴールが以下です。

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マツダは前述の通り、弱者の立場にある企業です。

そのために、トヨタグループのような、全方位の顧客を対象としたフルライン戦略ではなく明確にターゲットを絞りこんだニッチ戦略を掲げました。

市場シェアのたったの2%で良い、その代わり質のいいファンを作る。

"マツダの世界シェアは2%程度。それなら最大公約数を狙うのではなく、2%のファンに強く共感してもらえる突き抜けた車を妥協せず作る"
2015年4月日経MJ記事

これを目指しマツダは再始動します。

ここを目指すためのターゲットを誰にするのか?また、そこに刺さるコンセプトは何を定義するか?

そこを明確にするためにマツダがとったリサーチ手法もまたユニークでした。

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商品開発に伴うリサーチを実施する場合、統計的な有意性を担保するために、通常数百から数千のサンプルを抽出してアンケートを実施します。

しかしながら今回のマツダが目指したのはあくまでも「質が良いファンを作る」こと。そのために必要なのは市場全体を踏まえた統計的なデータよりも、熱狂的なファンの一意見だと考えたのです。


コンセプトとブランディング施策。

想像するに、数えきれないほどの議論と苦悩と情熱により、生み出されたのメッセージはこれでした。

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「荷物が積み込みやすい」「環境に優しい」「高級車として所有欲が満たされる」などなど車には様々な価値がありますが、マツダはその中でも、「運転者の体験」にフォーカスしたコンセプト「走る歓び」を打ち出しました。

自分で車を操る。その爽快感や興奮こそを自社の製品の提供する価値と定義したのです。


提供価値が決まれば、あとはブランディングのための施策作りです。

前提として、ブランドは全ての顧客接点で醸成されます。

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製品ラインナップ、価格、CM、アフターサービス、口コミ、などなど全てで感じた印象が顧客の中で積み上がり、ブランドが形成されます。

ブランドは一つの施策にしてならず。
だから全社一丸となった取組みが必要なのです。

マツダのブランディングにおいてもっとも素晴らしい点は、この各施策のメッセージの一貫性です。

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商品ラインナップ、デザイン、開発技術、広告、メンテナンス施策。
全てにおいて「走る歓び」が根元になっているのです。

車両のメインフレームの設計から、「心地よく走るためにはどうあるべきか」という観点から作り直したというのだから驚きです。

それぞれの特徴的な施策をご紹介しましょう。

まずはキーメッセージ。

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まさに「走る歓び」ですね。

次はデザイン

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これも男心をくすぐるデザインですよね。
赤色もマツダカラーとしてブランディングに大きく貢献しています。

次に商品ラインナップ

これはトヨタと比較してみましょう。

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The フルライン戦略ですね。
「私たちは全てのバリエーション持っています。安心のトヨタブランドから好きに選んでね。」というメッセージがよく伝わってきます。

次はマツダ。

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真っ赤っかです。

ワンボックスカーや軽自動車などの利便性重視のラインナップは持たず、自分で運転したくなるようなSUVやセダン、クーペを中心にラインナップ。

デザインは統一されており、正面からみただけでマツダだとわかるものとなっており、これもブランディングに貢献しています。


次にメンテナンス施策

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ユーザーのメンテナンスは全力でサポート。

ユーザーのメンテ回数を増やすことで、車へのエンゲージメントを高め乗った時の満足感を向上させる狙いもあります。

これはなかなか盲点でしたね。


と、このようにざっと上げても全てが「走る歓び」を実現するための施策となっています。

ここまで一貫性を持ってメッセージングできている企業はなかなかないんじゃないかなと思います。

広島地場企業というキャラのおかげもあるかもしれませんが、経営者が本気でブランディングにコミットしている証拠だと私は思います。


ちなみにマツダはこの活動・功績を評価され、Japan Branding Awardsの2019年のBest of the Bestに選出されています。

2013年から始めたブランド価値経営が、2019年に評価されることも本気度が窺い知れます。


近年の課題。

改革後、順調に成長していたマツダですが、近年はコロナショック前でも収益性の観点で不調です。

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では何があったのか。
決算資料の利益増減要因分析を引用します。

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為替影響を除くと、2017年から2019年に一貫して「台数・構成」要因が大きく下がっていることがわかりました。

次に販売台数の低迷がクリティカルなのか?それとも価格・構成要因がクリティカルなのかを確かめるために、販売台数を集計してみます。

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すると、年間出荷台数は、コロナ影響を受けたFY20より手前は上昇/横ばい傾向があることがわかりました。

つまり、単価または構成が原因。

簡単にいうと「製品が十分高値で売れていない」ことが起きているようです。

ここだけ見ると商品の陳腐化による価格低下が原因のようにも思えます。

さあ、ここからどうなるのか。しかし私は欧米のロックダウン解除後は問題なく成長するのではないかと考えています。

以下は2020年3月期の利益増減分析です。
出荷台数が大きく落ち込んでいるのに、ミックス・単価・販売費用の改善で大きくプラスに転じています。

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これは2019年後半から投入している新モデルが利益をとるために適性な価格で売れているのではないでしょうか?

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コロナの影響で市場は落ち込んでいるが、今なおブランド価値経営は続いており、市場で評価される魅力的な新商品で収益を稼ぐ準備はできている。

私はこれをみてそう解釈しました。



結びとして。

情報と利便性の高い商品、サービスに溢れた今の時代。
ブランドの価値は間違いなく向上しています。

そしてブランドは見えないもので、値段をつけるのが非常に困難で、投資対効果を測ることもできません。
しかし、だからこそ経営者がしっかりと向き合って、価値の向上に努めるべきものだと私は思います。

ブランドとは、社会にとっての企業そのものです。
そこを大事にする企業を、私は素敵だと思いますし、顧客も同様の気持ちではないかと思います。

ブランドの重要性が世の企業の中で増すことを願うばかりです。

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