もうひとつのタコパ 〜大阪人、初めてタコ(ス)を焼く〜
ときには必要以上に活気あふれる人情のまち、大阪に住んで、かれこれ四半世紀を超える。「ねえねえ大阪人って、どこの家庭にも必ず一台たこ焼き器があるんでしょ、うふふ」と他地方の人がからかって訊いてくることがあるが、その質問に関してははっきりこう答えたい。
「当然やん」
言い方は乱暴かもしれないけど、もう当然すぎてその質問の何が面白いのかわからない、というのが大阪人の実情である。もちろんうちにも鋳鉄のやつが一台あり、月イチぐらいはささやかなタコパを開催しています。生粋に近い大阪人の妻のほうがやはりひっくり返すのが圧倒的に上手で、いつも指導を受けています。
さて今回はタコパ。とは言っても、たこ焼きパーリィにあらず。
そう、タコスパーリィです! アミーゴ!
きっかけは、原料のコーンフラワーを買ったから。
先日、チキンナゲットに使うためコーンフラワーを買った。ナゲットに使う分としては袋の容量が大きすぎてちょっと躊躇したけど、とっさに「そっかタコス(トルティーヤ)焼けばいいか」と思いついたので買う気になった。
とは言ってもその時点で、今までおうちでトルティーヤを焼いたことなんかなかったんだけど、特に難しいものじゃないはずと勝手に思い込んでた。メキシコの人がみんな毎日焼いている国民食みたいなものでしょ? 高級料理でもないし、すぐにマスターできると思うなあ、とたかをくくっていたのである。
いつもそんなふうに初めての料理に怖れを知らず軽はずみに挑戦しては、よくて中途半端な出来に終わるのが常だが、全く懲りない。たまに大成功したりするともう自分は料理の天才なんじゃないかと錯覚する。今回も今回とてそんな軽率さで幕を開ける。
まずは具を準備。タコミートとサルサを用意せねばならない。まあこのへんはタコライスを作ったときと同じような要領だから苦ではない。
タコミートは合挽き肉と玉ねぎを唐辛子、塩コショウ、スパイス(ナツメグ、オールスパイスなどそのへんにあったもの)、おろしにんにく、トマトケチャップなどで炒めてそれっぽく。
サルサはミニトマト、ピーマン、紫玉ねぎを細かく刻んで、レモン汁、塩コショウ、トマトケチャップで和える。あ、あとパセリもね。
さあトルティーヤ、焼いたるでー。
生地の分量はあちこちググってなんとなく簡単そうだったので下記の比率に決定。
小麦粉・コーンフラワー・・・120g
塩・・・小さじ1
オリーブオイル・・・大さじ1
水・・・クレープ生地よりちょっと固いぐらいになるまで徐々に加える
これらをダマにならぬよう少しずつ水を加えて練り混ぜながら、最終的にはクレープ生地よりちょっと固いかなぐらいのとろみになるまで水で伸ばす。
このやり方が合ってるかどうか不明。いろいろレシピを見ると、生地を耳たぶぐらいのやわらかさに練って、餃子の皮のようにあらかじめ薄く丸く延ばしてから焼く方法もあるみたい。
熱したフライパンに生地を薄く延ばして焼いてゆく。楽勝でしょ。
……と思ったのだが、これがコツをつかむまで大苦戦。かたちがこんなにいびつだけど、キレイなまん丸じゃなくても具材を包めればいいので、そこはスルー。しかし、フライパンが熱すぎた場合、かつ表面に敷いた油が踊っていると、裏面にたちまちボコボコプツプツと気泡ができて巣穴状になり、集合体恐怖症の人にはとうてい直視できないありさまに(写真自粛)。今掲載しているのはまあまあ後半のうまくいきかけているやつ。
ええええ、メキシコの国民食、ムーチョむずかしい〜。
それでも何枚か試行錯誤して(主に粉もんの国で育った妻が)焼くうちに、次第に要領をつかみ始めた。
以下にポイントを記します。
・油が混ざっているおかげですごく焦げつきにくい生地なので、フライパンのほうの油は一枚ごとに敷かなくてOK(最初の一枚以降はむしろ不要)
・フライパンは底を濡れ布巾もしくは蛇口の水で毎回ジャーッと冷ましてから生地を流す(ホットケーキと同じ焼き方)
・ギュッギュ押して焼くほうが焦げ目がまんべんなくおいしそうにつく
きっと本場ではこんな面倒くさい焼き方してないはずだけど、10枚近く焼いた頃にはかなり「これトルティーヤやん」と思える出来栄えに。
誰ですかナンって言ったの。前に出なさい。
サルサ・ミート・トルティーヤ、ぜーんぶ自家製!
悪戦苦闘の末、やったった。タコミートもサルサも、トルティーヤも自家製。かなりゼロに近いところからのタコパになんとかこぎつけた。
各自お好みの具をトッピングして巻いて、ガブリっ!
妻が目を輝かせて開口一番、言い放った。「……うん! タコス!」
すぐさま自分も食べてみる。「うん! タコス!」
Esta rico! Delicioso! これはまごうことなきタコス! 荒々しく頬張れば口の中でさまざまな風味と食感が混じり合い、エキゾチックな異国の音楽を奏でる。これも豚まんのとき同様、緒戦優勝と言っていい会心の出来!
試しにトルティーヤだけかじってみる。トウモロコシ生地の香りとほのかな甘みが素朴で、このままチマチマ食べるのもありだなと思った。無意識に口に運びながらテレビとか見てられる感じ。
多少生地の厚みが厚すぎたりとか、最初の方の数枚はなんか粉っぽさが残ったりとかしたけど、それでもじゅうぶんに雰囲気出てる。ひと月ぐらいがんばればお店の味に近づけるんじゃないかという気さえする。
有頂天。
「でも一見ヘルシーやけど、思ったほど野菜摂れへんよね」妻が笑った。
そんな妻の口の端にはサルサがついていた。そのことを指摘すると彼女はさらに笑い、こう返してきた。
「君もついてるで、おでこにチーズ」
えええ、そんなとこになぜ?
ふたりは笑って祝杯をあげたと言います。めでたしめでたし。
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