見よう見まねレシピ 追憶のタコライス
初めての旅行で食べた、妻との思い出の味。
神戸空港が開港した年の春、僕は今の妻(当時まだ恋人未満)と初めての旅行で沖縄に出かけた。週末を利用した2泊3日のささやかな旅行だった。小さなレンタルバイク店でポンコツのビッグスクーターを借りて、タンデムで本島を巡った。沖縄の春はいつも通りのぐずぐずした雨混じりの天気だったけれど、道中少しぐらい濡れても笑い合っていた。
最終日、あとは飛行機に乗るだけという日の昼食に僕らは、もう少し観光しようと当時の牧志公設市場に行った。今はもう取り壊されてしまったらしいけれど、当時その2階には観光客から地元の人まで利用する、屋台風の簡素な作りの食堂が並んでいた。例えば魚を買うと焼いてくれて、味噌汁とごはんをつけて定食にしてくれるようなところだ。おしゃれな言い方をすればフードコートみたいなものだった。もっとアジア特有のいい意味でのざっくばらんさに満ちていたけれど。
そのうちの適当な一軒の席につき、メニューを開いて、妻がまだ食べたことがないというのでタコライスを注文した。
僕は彼女と来る前に一度、学生の頃にクラブの合宿で沖縄に逗留していたことがあり、そのときにタコライスの存在を知っていた。
タコライスは当時それほど有名な沖縄料理ではなかった気がする。発祥は基地のまち、金武町だと聞くその料理は、初めて見る者にはなかなか奇抜なものに思えた。だって、白ごはんのうえに刻んだレタス、スパイシーに炒めた肉、トマト、サルサソース、チーズをトッピングするだなんて。とくに生野菜、レタスとごはんを合わせて食べようという発想に違和感を禁じ得なかった。
でも食には生来好奇心旺盛な僕は面白がって食べてみた。そしていっぺんにその独創的な味のトリコになった。さっぱりした生野菜とスパイシーな肉とソース、全てが白ごはんに意外なほどに合う。そこに「これ、とろけるチーズのとろけてないやつやん」とツッコミを入れたくなるボソボソのチーズがいいアクセントとコクを加えてくれる。
その初めて口にしたときの感動をぜひ彼女にも体験してほしくて、僕らはタコライスを注文した。今にして思えばその店は一流の料理店というわけでもなかっただろうし、タコライスにしても「観光客が欲しがるからメニューに加えるさあ」という程度の軽いノリで、それこぞ見よう見まねで作っていたところもあった気がする。実際、それなりの出来だった。でも若い僕と妻はキャッキャ言ってつついた。やっぱ本場に限るねえーなんて。
それは世の中が今よりもっと無邪気でキラキラしていた日々の、祝祭的ランチだった。
たまたま妻の実家に行く用事があり、義母がいつものようにたくさん持たせてくれた野菜の中に大玉のレタスと新鮮なトマトがあった。ちょうど自宅の冷蔵庫には牛の粗挽きミンチが入っているじゃあないか。気がつけばこう提案していた。
「ようし、今日、タコライスにする?」
サルサもタコミートも、チーズ以外手作りで挑戦。
お待たせしました。長〜い(誰が興味あんねん的な)導入を経て、今日は沖縄料理の代表的メニューのひとつ、タコライスを作ってみようという実験企画です。昔何度か作ったことがあるけど、さすがにサルサまでは作れないと思っていたのでカゴメの瓶入りのやつを買って済ませていた。あれおいしいですよね。
でも今回は家計の節約というところもあって、いっそサルサから手作りしたろやないか、おう? と調子に乗ってみた。できるんじゃないかな、って気がしたんですよねえ。
調べると、サルサは家庭でも簡単に作れます、というレシピもWEB上にはたくさん見つかる。でもその多くがタバスコを使うとある。今タバスコは切らしている。タバスコを買い足しちゃうぐらいならカゴメのサルサを買えばいい話なので、ここはひとつタバスコなしで挑戦。
いいですか、こういう、まずはレシピに忠実に従わずに適当に作っちゃうのが素人のよくないところです。その結果なーんか間の抜けた出来になって、その料理を嫌いになっちゃったり、苦手意識ができちゃったりするから。
<サルサ 試行錯誤途中のレシピ 2〜3人分>
トマト・・・1個
きゅうり・・・0.5本
玉ねぎ・・・8分の1個
ニンニク(すりおろす)・・・ひとかけ
レモン汁・・・10mlぐらい?
砂糖、塩、酢、トマトケチャップ・・・適宜(味見しつつ)
オリーブ油・・・ひと回し
ほんとうはピーマンの苦味がほしかったけどなー、こないだキーマカレーにして食べちゃったからなー。今回は泣く泣く我慢。ピーマン系の苦味があった方が俄然おいしくなるはず。残念。
野菜を細かく刻んで、調味料で和えて、オリーブ油を回しかける。半日ぐらい置いたほうが味が馴染むということだったので冷蔵庫に半日入れてみた。
タコミートも、ないものはないで作ってみる。
<タコミート 2〜3人分 当てにならないレシピ>
牛挽き肉(合挽きもOK)・・・200g
玉ねぎ(みじん切り)・・・半分
塩、コショウ、ナツメグ、オールスパイス、パプリカ・・・適宜
ケチャップ・・・大さじ1〜2?
チリパウダー・・・家になかった(ほんとうは大さじ1くらいほしい)
砂糖、コンソメ・・・少々
ソース・・・隠し味程度
こちらも明らかに足りないものがあるのは知っていた。それはチリパウダー。買い足すのもなんかもったいない気がしたので思いとどまる。妻曰く「これとチリコンカンくらいしか使わへんから、いっぺん持て余して捨てたやん」。いつの日も女性は現実的(古いジェンダー論)。お店でチリパウダーの瓶の表記を見たとき、パプリカパウダーとニンニクとオレガノとクミンと何やかやミックスしているようだとわかったので、家にあったパプリカでごまかすことにする。
要はエスニックなミンチ炒めだろうー。そんな思い込みで玉ねぎを炒め、しんなりしてきたら挽き肉を加え、塩コショウ、ナツメグなどのスパイスを加える。あとはケチャップとかでそれっぽい味に。他の野菜がさっぱりしているので、けっこう濃いめに味付けしたほうがいいはず。
繰り返しになるけど、是非ものとしてはチリパウダー! チリパウダーがあれば本格的になるんだろうけどなー。
あとは細切りレタス、チーズと共に白ごはんに盛りつければ完成。レタスは細切りにしちゃうからたっぷりかけられそうだけど、実はあんまり消費できなくて、ひとり一枚見当で十分といったところ。
ばばーん。どっからどう見てもタコライスのできあがり。果たしてその出来栄えは……?
うむ。うむうむ。
おいしいけど本場のタコライスの「濃さ」みたいなものが希薄で、さっぱりあっさり感が際立ってしまった。手作りサルサは野菜から水分が出ちゃって細切れのサラダみたい。タコミートも、もう少し大人っぽい風味にしてもよかったかなあと反省。
でもあれです。春になると少し食べたくなる思い出の一品。さわやかで初々しい味わいにできました。自画自賛。
白ごはんをトーストに変えてもおいしい。
タコミートとチーズ、野菜が余ったので、翌朝はトーストにこんもり盛りつけて、タコトーストに。贅沢な休日のブレックファストが味わえました。このタコトーストを食べるためにタコミートを炒めてもいいかなと思えるぐらいの完成度。まあタコスが食パンに変わっただけだからそりゃ違和感ないってもんではあります。
トマトを贅沢に輪切りにしてみたところがお店っぽいでしょ。残りのトマトはお昼にオムライスにします。
いつかまた自由に沖縄に行くことができて、本場のタコライスをオリオンビールで流し込める日々が来ることを祈りつつ、明日もおうちごはんを作り続けます。
なんくるないさー。
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