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(本の裏側①)あれから12年-「コブラー」を伝えるチャンスがもう一度やってきた

昨年末に『コブラーとクランブル』(PARCO出版)の電子書籍が出ました。紙版が出版されたのは2011年なので、12年目にして電子書籍化されたわけです。


書籍『コブラーとクランブル』のこと

コブラーとクランブル』は私の最初の著書で、菓子文化研究家の肩書きで仕事を始めてから5年目に発売されました。まず、アメリカにはパイより簡単なコブラーという家庭的なデザートがあること。そしてそれは特別な材料や道具は不要であること。毎日でも食べたくなる飽きのこない滋味深い味であること。が伝わるよう思案を巡らせました。加えてお菓子なのでワクワク感も大切です。写真や文からその魅力をお伝えできるようずいぶん考えました。幸運にも版元さんと編集さんに恵まれ、実力派のスタッフの皆さんが集まってくださったおかげで、これ以上臨むべくもないコブラー本ができました。手前味噌ながら発売から10年以上経つ今も、ご家庭で毎日でもご活用いただくのにぴったりな、実用的な本だと思うのです。

こうして上梓した本を皆さんに見つけていただけるよう努力してきたかというと、私は本ができたことで満足してしまっていました。書店に並べば皆さんに手に取っていただけるに違いないと当時は本気で思っていたのです。もちろんそんなことはなく、何もせず皆さんに気付いていただけることはまずありません。この10数年痛感してきたことです。

そんなわけで電子版が出たこの機会に、改めてたくさんの方にコブラー本をご活用いただきたい、お楽しみいただきたいと思い、この記事を書いています。

当初『コブラーとクランブル』が書店に並んだとき、友人たちから「プロレスの技みたいな名前だね」(!?)と言われたのですが、それくらい一般的には知られていない菓子でした。そんな「コブラー」もこの10数年で楽しめる店が増えたものの、まだまだニッチな菓子。そもそもコブラーとはなんなのでしょうか。前置きが長くなりました。本題に入ります。

そもそも「コブラー」って?

りんご&クランベリーコブラー 熱々アイスクリーム添え

コブラーは英語ではcobblerと書きます。語源の由来は諸説あるものの定かではありません。

コブラーは「旬の果物」+「小麦粉生地」を合わせてオーブンで焼き上げる菓子のこと。チェリーや黄桃、りんごにブルーベリーなど、旬の果物はたいてい使えます。

アメリカの家庭菓子の代表と言っても過言ではないコブラー。旬の果物を焼き皿に並べて砂糖をふり、10分もあればできる生地をのせて焼くだけ。熱々の焼き立ては果物はジューシーで生地はふっくらカリカリ。滑らかなアイスクリームを添えて食べるひとときはまさに至福。夕飯作りの傍らでも簡単に作れるほど手軽なところも人気の理由です。

写真のように果物にビスケット生地(アメリカでは「ビスケット」はクッキーではなくふんわりとしたクイックブレッドを意味します。)をのせて焼き上げるタイプが最も一般的で、食事用ビスケットを家庭で焼く習慣が受け継がれてきた南部では、特に身近な存在です。

長く愛されてきた家庭菓子だけにバリエーションが多く、「これもコブラーなの?」と困惑することもしばしば。1800年代の資料に「パイ生地を焼き皿に敷き込み、桃をのせ、上からもパイ生地をかぶせて焼き上げる」のがコブラーだと書かれていて、パイとの違いが分からず混乱。パイ皿ではなく焼き皿を使うところがポイントでしょうか。

さらにゆるいケーキ生地状のものを型に流し、桃を散りばめて焼き上げるコブラーも人気です。

ケーキタイプのコブラー 底も表面も香ばしい!

ようするに果物と合わせる生地がビスケットでもパイでもケーキでも「コブラー」と呼ぶことがある。ということでコブラーとはおおまかに「果物」+「小麦粉生地」を焼き上げるものといつも説明しています(お食事コブラーという例外があり、さらに最近では粉も小麦粉に限らないのですが)。

実際のところパイ生地は油脂多め、水分少なめで膨張剤の入らないビスケット生地のようなものだし、ケーキ生地タイプのコブラーは、外はカリッと中はふっくらしているから広い意味ではビスケットの仲間といえなくもないのです。少し苦しいですが。

まあ、家庭菓子とはこういったもので、各自の好みや生活スタイルにより変化していくのは自然なことなのでしょう。

クランブルもショートケーキも! コブラーの仲間

コブラーとクランブル』でも紹介していますが、アメリカには、コブラーの仲間といえる「果物」+「小麦粉生地」の家庭菓子がたくさんあります。
(さっき「果物」+「小麦粉生地」はコブラーと言ったではないかとのお声があるかと思いますが、ひとまず続きをご覧ください)

それこそ数え切れないほどあるのですが、同書で紹介しているものを中心にご紹介します。

※『コブラーとクランブル』掲載メニュー
⭐︎「甘い」&「お食事」コブラー計16品
⭐︎「甘い」&「お食事」ショートケーキ計6品
⭐︎「クランブル」11品
⭐︎その他コブラーの仲間11品

1:「クランブル」または「クリスプ」

クランベリークランブル サクサク感では一番!

果物にそぼろ状のクラム生地をのせて焼き上げるもの。ブルーベリーやりんご、イチゴなど好みの果物にポロポロの生地をのせて焼けば中はトロトロ外はサクサク。夏でも冬でも楽しめるデザートです。

2:「ベティ」

アップルブラウンベティ カリカリとろり

クランブルやクリスプと似ているけれど、クラム状の生地を果物の間にも挟み込んで焼き上げるもの。りんごを使う「アップルブラウンベティ」がその代表です。果物の間に挟まれた生地はまるでプディングのよう。残ったパン生地を崩して使えるエコデザートでもあります。

3:「ショートケーキ」

甘酸っぱいチェリーショートケーキ 温かいうちにどうぞ

コブラーと同じビスケット生地をフルーツにのせずにそのまま焼き上げ、焼き立てを半分に割って泡立てた生クリームとベリーなどを挟むデザート。ビスケットが身近な南部のデザートとしても知られます。

これにとどまらず、コブラーの仲間はまだまだあります。『コブラーとクランブル』でたっぷりご紹介していますので、ご覧いただけましたら嬉しいです。

また、近々チェリーコブラーのつくり方をご紹介しようと思っています。

(追記)チェリーコブラーのレシピを書きました。
お読みいただけましたら嬉しいです。


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