電気な彼女 【ショートショート】
白い紙に黒いペンで枠を作るように、
前置きと断りを言ってから、
彼女は話し始めた。
白熱電灯の暖かい光に照らされて。
★
へんな話だけど、
聞いても忘れてくれていいからね。
あのね、電化製品が壊れるの。
あまりにも頻繁にね。
保証期間内に修理に出すのは恒例行事。
家の中だけじゃないのよ。
前に住んでた賃貸のオートロックも故障しちゃって。
管理会社と喧嘩しながら思ったわ、
もう都会を捨てようって。
それでカリフォルニアに移ったの。
伝手をたよって、北部の街の自然志向のコミュニティにアクセスしたわ。
愛や平和を重んじる居心地のいいところ。
しばらくはよかったけどれど、同じ問題にぶつかったんだよね。
雷がやたらと落ちて、
火の玉?みたいなのも増えて、
静電気からボヤになることも重なって、
結局、転出することになった。
人の多い都市の方が紛れやすくて楽なの、今はね。
あ、ちょっと「オカルト?」とか思ったでしょう。
そう思われても構わないけど、
これ見てごらんよ、
驚いたでしょう?suicaがこんなふうに真っ黒になっちゃうんだよ。
持ってるだけでね。
初めて気がついたのは、小学校の高学年の頃だったわ。
学級会で紛糾したときにね、
蛍光灯のフィラメントが切れたの。
大学入試の合格発表の会場でも、
旧友の訃報を聞いたときも、
デザインコンペで受賞したときも、
感情が昂ぶったり、気持ちが動いたりすると、そうなるみたい。
仕事で腹の立つことがあって、その晩の駅からの帰り道、
一定間隔の街路灯が、通り過ぎるごとに消えていったこともあった。
ぱしっぱしっと音を立ててね。
今?だから、人の多いところになるべくいるようにして、
停電もショートも私のせいだって思われないようにしてるんだよ。
全部が全部、私のせいなわけないじゃん。
でも本当に今日は助かった、
冷蔵庫も電子レンジも電気ケトルも一度に壊れてしまって、
すごく困ってたから。
家電屋、付き合ってくれてありがとう。
こんなことまで話すつもりじゃなかったんだけど、
なんだか打ち明けやすくて、つい喋っちゃった。
☆
彼女が電気製品を壊すところを見たことがない。
僕と同じ空間にいても、気持ちが昂らないのだろう。
自分のスマホが壊れない安心感、それと一緒に寂しさによく似た感情が湧いた。
でも、さっきから白熱球の光が揺らいでいるような気がしなくもない。
考えていることを伝えて、この灯を消してしまうことができるだろうか。
自信はこれっぽっちもないけれど、
やってみたいと思う。
蝋燭の炎みたいに、店の灯がゆらゆらと動いている。
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