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いいことを言う奴は、だいたい疑った方が良い

 思想家・吉本隆明による言葉で「いいことを言う奴は、だいたい疑った方が良いぞ」というものがある。どういった文脈で書かれたのかは忘れたけど、大学時代にこの『教え』に出会い、十年以上経った今でも心に残っている。

 同じような意味で「巧言令色すくなし仁」という四字熟語もあるが、少しニュアンスが違う。「巧言令色~」は「口先八兆でうまいことおだてて、高額の住宅ローンを組ませる不動産営業マン。自分の利益を優先し、相手をだましていることに自覚がある」のに対して、いいことを言う前者は「弱みに付け込んで、信仰を押し付けてくる宗教の勧誘者。目的が自己実現であることに無自覚で、相手のためと勘違いしている」に近い。こちらの方が圧倒的に質が悪いし、意外と身近にあふれている。

 たとえば「あなたのために」という言葉。聞こえは良いが、だいたいがはた迷惑だし、押しつけがましい。頼んでもいないのに「自分が成功した方法」を語ってくる人間にも要注意だ。ご教示いただいた方法通りに動かないと自尊心が傷つけられるのか、機嫌を損ねてしまうことが多い。

 人の話なんて話半分に聞けば良い。弱っているときは、ささいな一言で傷つきがちなので、なるべく一人でいよう。SNSなんて絶対に見てはいけない。人生で最もイケてる瞬間を切り取った投稿ばかりだ。幸せアピール合戦に、幸せを感じていない時に身を投じるべきではない。

 耳障りの言いフレーズの裏に隠れるものは、多かれ少なかれ何か売りつけたい金銭的欲求か、自分のやってきたことを認めてほしい自己承認欲求のどちらかだ。それよりも心を許した友人や家族と、のんびり過ごそう。別に「いいこと」なんて出て来ないかもしれない。会話も少ないかもしれない。でも哲学を感じる生き様とか、何かに打ち込んできた専門性とか、人間性は言外にあらわれる。だから別に「いいこと」を言う必要もない。黙って、愚直に、やるべきことをやれば良い。必ずあなたの背中は誰か見ているし、きれいな言葉で飾らなくても「素敵だな」と思う人が現れてくれるから。

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