今まで住む場所を選べなかった人へ
住みたい場所が選べるなんて、考えもしなかった。
今までの自らが住む場所を選んだ経験は、皆無に近い。
高校卒業まで親と暮らし、大学進学とともに上京。
新卒で就職した銀行では、女子寮に入っていた。
結婚とともに追い出されたが、夫の勤務先が近い場所に住むことになった。
夫は職業柄、職場のすぐ近くに住む必要があったからだ。
そのまま出産し、ネズミのようにポコポコと2歳差で3人が生まれた。
都内のマンションは5人で住むには狭く、引越しも検討した。
しかし候補の地には3人同時に受け入れてくれる保育園が見つからない。
結局、徒歩2分の先へ引越しをすることにした。そして今に至る。
「住む場所を選んだわけじゃないけれど、何となく今の場所に落ち着いた」
こんな私のような人は、意外と多いんじゃないだろうか。
だから「どこでも住めるとしたら」という問いは、気付きを与えてくれる。
「住む場所は選べる」という根本的な事実を、思い出させてくれるから。
ふと「フランスの郊外に住んでみたいな」と思い立った。
記憶の彼方から大学時代の留学が呼び起されたのだ。
陽の光、からっとした気候、寛大でおおらかな人々。
もちろん嫌なこともあったし、帰国まで指折り数えていた日々もある。
しかし、人の脳は都合よくできている。美しい思い出しか残っていない。
難点は子供の教育だが、外国人向けのクラスを併設した学校もあるらしい。
次に問題となるのが収入だが、幸いリモートワークが進んでいるため場所を問わずできる仕事は増えている。投資で不労所得を増やすのも手だ。
「どこにでも住めるとしたら」
この問いは、ずるずると惰性で生きてきた日々を、塗り替えてくれた。
そして、未来に向けて歩き出す活力を与えてくれる。
いつか長々と土地の魅力を伝えられるようになりたい。
「私がここを住む場所として選んだ理由はね……」と、目を輝かせながら。
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