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アメリカ出張中にポルターガイスト現象が起きた話(後編)

前編の続きです。

登場人物:

私:さぶろ

先輩:仕事の鬼

山中さん:取引先の関西人

翌朝、私は腹痛に襲われた。午前8時。昨晩ミントシェイクを飲みすぎたからに違いない。それに全く疲れが取れていなかった。毎日4時起きで早すぎて、時差ぼけもずっと取れないまま、睡眠不足が続いているからだろう。休日の今日もバーベキューの準備があったが、身体が動きそうにない。

流石に休まないと、来週もたない。先輩に「お腹痛いので、今日は部屋で休みます」とショートメールを送り、日本から持ってきた整腸剤を飲んで、再び寝ることにした。


「・・・おい!」

「おい、大丈夫か?!」

「え?」

「ええ!?」

微睡から突然現実に戻された。何事かと目を開けると先輩が見える。全く事態が読み込めず混乱した。なんで先輩が部屋に?!

「え、なんで?!」

「はぁ...」

「どゆこと...?!今何時...?」

時計を見ると、午後4時。あれから爆睡していたらしい。

「体調は?」

「ん〜朝よりはマシです。お腹もよくなった気が...というかどうやって入ったんですか?!」

「フロントの愛想悪いお姉ちゃんにカードキー部屋に置いてきて入れないって、お前の部屋番号言ったらフツーに新しいキーくれた」

「スタッフザルすぎる!一歩間違えれば犯罪...」

「そんなことより。大変だったんだ」

険しい顔で先輩が向き直った。

「山中さんが救急搬送された」

「...え?」

次から次へと衝撃が多すぎて頭がついていかない。

「ええーー?!」

「あんなに救急車やら警察やら来てうるさかったのに本当爆睡だったんだな」

「どういうことですか!?」

「朝、洗濯行こうとランドリー行ったら山中さんがちょうど通りかかったんだ」

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先輩が一部始終を語り始めた。

『おはようございます、早いですね』
『今朝も勝手に誰かさんにテレビつけられて、もうさぶちゃん待っとられんわい。俺が自らフロント出向いて部屋変えの交渉したんだが』
『あ、そうでしたね』
『で、ゆーたらな、満室らしいねん、調子悪いんに勘弁してくれや、どないしてくれる』
『満室・・?』
俺はおかしいと思った、なぜなら、他の宿泊客を見たことがないからだ。確かに、俺たちはずっと朝から晩まで仕事でいないから、見たことないのかもしれないが、休日も一度も見たことがない。てっきり貸切だと思っていた。
『そんなはずはないと思うが・・』
そう俺が言った時、突然山中さんがお腹を抑えて苦しみだしたんだ。
『え!?山中さん!?山中さん!?大丈夫ですか!?』

「最初演技かと思ったよ。悪い冗談かと。でも顔色が蒼白だったから、一眼でまずいと思った。それですぐに救急車呼んで、近くの病院に行って、今検査待ち」

そう言い終えると先輩は大きくため息をついた。そんなことがあったなんて....私は山中さんが心配で堪らなくなった。

「...大丈夫なんですよね」

「...わからない。痛みでほぼ喋れない状態だったが、ちゃんと意識はあった。とりあえず腹が痛すぎると医者に伝え色々検査した。すぐ近くに病院があってよかったよ。持病持ちではないと聞いているが、ああ見えて来年還暦だ。気にかけてはいたんだが...」

「山中さんそんな歳だったなんて。全然見えなかった...」

私は今までの塩対応を悔やんだ。

「一方?こっちも腹痛とかいうし電話も無視、あれだけ救急車やら警察やら来てうるさかったのに、音沙汰なし。お前も死んでるんじゃないかと思って来てみりゃ、シェイクで腹壊しただけか、とりあえず、無事でよかった」

携帯には不在着信の通知が何通も着ていた。まさか、寝てる間にこんなことになってようとは...山中さん大丈夫だろうか。...ん?

「....先輩、今お前”も”って言いましたよね?山中さんは死んでないですよね?」

「ああ、そうそう」

「山中さんは生きてるよ」

「死んでるってなんですか、へんなこと言わないでください」

「いや、死んでたんだよ」

「は?」

「山中さんの隣の部屋の宿泊客が、死んでた」

「は!?」

目が点になった。

「警察も来たと言ったろ。ロビーで救急車を待ってたら、何やらメイドが慌ててフロントに駆け込んできてな。山中さん、明日清掃入るって行ってだろ?多分その清掃係のメイドだと思う。しばらくしてサイレンが聞こえてきて救急車と一緒に警察がゾロゾロと。何事かと聞いてみりゃクリーニングに入ったメイドが死体を発見したらしい」

「ええー!」

そんなまさか。

「死因はなんだったんですか?」

「不明だ。俺もすぐ病院行ったし詳しくは聞いてないが、他殺ではないらしい。ふつうに病死かヤク中かはたまた自殺か。アメリカじゃそんなに珍しい話じゃない」

「じゃあ、あのエレベーターの臭いの原因は...」

「...まあ、そういうことだ。1週間前には既に亡くなってたってことだ。俺も変だと思ったが、そんなまさかだよ」

先輩がまた大きくため息をついた。

「じゃあ山中さんの部屋のあの現象って、故障じゃなくて、本当にポルターガイスト現象だったのかな...」

「...さあ。俺は全くもって信じてないが、ゴーストにしろ何にしろ山中さんを病院送りにした外的要因が、もしもどこかにあるのなら、マジで許さん」

その後、病院から連絡があり、山中さんの腹痛の原因は胆石ということが判明した。年齢も鑑み、アメリカでの手術は難しいことから、3日後帰国することとなった。

「ようやく羽田行きの便、とれましたよ」

「よかった、少しでも安静に帰れるといいんだが」

「なんか、みなさん淡々としてますね、あんな事件があったのに、山中さんも大変なのに。何事もなかったように仕事してる」

救急搬送された翌日、山中さんの一大事にも関わらず、出張者は全員顔色一つかえず切り替えて仕事をしていた。死体事件や山中さんの話は誰一人として話題に出そうとしない。ましてや、山中さんがポルターガイストについてその他関係者に吹聴していたことに至っては、禁句な雰囲気が漂っていた。

「まあ、お前はショックかもしれんが、仕事は減るわけじゃない。別に部外者が死んでたところで、俺たちには関係ない。そんなことより、あんな関西のおっちゃんでも、抜けてもらったら困る大ベテランだ。俺の頭はスケジュールの立て直しでいっぱい、他のみんなも同じようなもんだろう」

「そうですか...私の部屋の換気扇からの臭い消えないんですけど」

悲しいかな、死体が発見された部屋の真下が私の部屋だったのだ。

「山中さんの部屋変えてみるか?またポルターガイスト現象が起きるか、検証してもいいぞ」

「絶対嫌!」

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2週間後、山中さんは無事手術を終え退院したと聞いた。臭いがなくなる頃には、その事件に対する自分の関心もなくなった。


時間が経ってふと思う。私はいわゆる霊感とかそういう特殊能力はないし、実際にゴーストがいようがいまいが、日常生活に支障がない限り関心はない。

けれど。

もし自分が寝てる間に突然死んだら?誰にも知られずに一人アパートで予期せず死んだら?

多分こうなる。

「なんてこった!自分死んどるやん!大変だ、早く家族に知らせないと。けど枕元にたっても無視される。第三者に見つかるのは大変申し訳ないが、なんとしても腐ってしまう前に、誰か早く見つけてくれ!」

もしも、隣人の電気やレンジやら動かすことで(もしそんな能力があれば)不審に思って誰かが気づいてくれるなら、なんでもするだろう。

怪奇現象に遭遇した時は、足がすくむくらい恐怖を感じた。けれど、死因と同様、解明されない現象なんて、世の中いくらでもある。

原因不明が恐怖の根源だとするならば。どんな怪奇だろうが、ごく普通の災難な人間が起因しているのかも、と無理に思い込めば、別に怖いという感情は起こらない。

世の中、故意に悪さをする悪人よりも、故意にいいことをする善人よりも、普通に普通の日常を送っている平凡な人間の方が、圧倒的に多いのだから。


おわり。


PS ポルターガイストより、本人確認もしないで部屋のカードキーをホイホイ他人に渡す生身の人間(ホテルスタッフ)のほうが物理的にコワイ。


後日談になりますが、山中さん不在のプロジェクトはうまく行かず、結局2ヶ月後、復活した山中さんは私と入れ違いに再渡米することとなり、再びこのホテルに滞在しています。もちろん、別の部屋で。(現実社会ってオソロシイ。)私はこの会社はもう退職していますが、山中さんは今でも元気に世界中を飛び回っています。


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