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成功のコツは諸れを己に求む

松下幸之助 一日一話
10月22日 成功のコツ

よい会社だと思って入った会社でも、一から十まで何もかもいいとは限りません。ときには欠点もあるでしょう。しかしそれをはじめから“こんな会社はあかん”と決めてかかるか、それとも“どうもこの点だけはよいとは思わないが、これは自分の問題として改善向上させていこう”という熱意をもって当たるかによって、対応の仕方が全く変わってくるでしょう。

“よし、自分の会社をいまよりもっとよい会社にしてやるぞ”という意欲を持ち、すべてのことを前向きにとらえる姿勢を持つ人は、信頼もされ、頼もしい社員として嘱望されるでしょう。成功のコツはそのようなところにあると思うのです。

https://www.panasonic.com/jp/corporate/history/founders-quotes.html より

会社組織というものは、経営者や社員を含めた人によって構成されています。会社さんという人は存在しません。「こんな会社はあかん」という場合は、実際には「こんな人たちではあかん」ということになります。

人ということに関して、松下翁は以下のように仰っています。

人間というものは、誰でも長所と短所を持っている。だから、大勢の人を擁して仕事をしているのであれば、それぞれに多種多様な長所と短所が見られる。その場合、部下の短所ばかりを見たのでは、なかなか思い切って使えないし、部下にしても面白くない。その点、長所を見ると、その長所に従って生かし方が考えられ、ある程度大胆に使える。部下も自分の長所が認めてもらえれば嬉しいし、知らず識らず一生懸命に働く。しかし、もちろん長所ばかりを見て、短所を全く見ないということではいけない。私は短所四分、長所六分ぐらいに見るのがよいのではないかと思うのである。
(松下幸之助「短所四分、長所六分」)

人に長所短所があるならば、人によって構成される会社組織も長所短所があるのは当然であるとも言えます。寧ろ、人に長所短所がありながら会社組織には短所がなく長所のみしかないというのはロジックがおかしい状態であり、短所が意図的に隠されているか、または、会社組織を長所のみにするために社員に何らかの大きな負担が強いられていると考えるのが妥当であると言えます。

論語には次のようにあります。

「君子は人の美を成す。人の悪を成さず。小人は是(これ)に反す」(論語)

徳のある人は人の欠点を取り立てることなく、その人の長所を助けて伸ばし、それによって悪いところを補い目立たなくさせてやる。一方小人は、その反対のことをする。人の長所を見れば妬み、長所が伸びないように邪魔をし、人の欠点があれば、必要以上に非難し大げさに騒ぎ立てる。という意です。

また「どうもこの点だけはよいとは思わない」という場面に直面したということは、「問題」に直面したのだと換言できます。問題に直面した際には、問題解決技法の一つとして、原因分析が有効であると言えます。原因分析とは、簡単にいうと問題を構成している構成要素に分解することで、問題の本質を見極める手法です。トヨタで行われているなぜなぜ分析も原因分析の一種となります。

更に、問題を構成する要素は大別すると「自責」「他責」「外因」の3つのいずれかになります。今回のケースに当てはまるならば、「どうもこの点だけはよいとは思わない」と感じるのは、自分に問題があるのか、または、他の社員や経営者に問題があるのか、はたまた、外部の世論や政治に問題があるのかのいずれかということになります。この中で、他人に変わって貰うことや外部環境を変えることは容易いことではなく、時間と労力がかかることになります。しかし、自分の問題として自責化した場合は、自分自身が変わってしまえば、その瞬間に問題は解決されます。

論語には次のようにあります。

「君子は諸(こ)れを己に求む。小人は諸れを人に求む。」(論語)

君子は、何事も自分に求め、自分に責任を課す。小人は何でも人の責任にするという意味です。

ここで重要になるのが、変えていいものと、変えてはいけないものの見極めです。会社組織において変えてはいけないものは、Mission(経営理念)でありVision(ビジョン)です。変えてはいけないものであるからこそ、その会社に入社する際は、MissionとVisionが自分に共有できる会社なのかが極めて重要になります。変えてはいけないブレることのない中心軸があるからこそ、自分を変えるという判断や行動が可能になります。これが会社組織にプラスに働き、ひいてはその人自身の成功に繋がるのだと私は考えます。


中山兮智是(なかやま・ともゆき) / nakayanさん
JDMRI 日本経営デザイン研究所CEO兼MBAデザイナー
1978年東京都生まれ。建築設計事務所にてデザインの基礎を学んだ後、05年からフリーランスデザイナーとして活動。大学には行かず16年大学院にてMBA取得。これまでに100社以上での実務経験を持つ。
お問合せ先 : nakayama@jdmri.jp

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