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情報過多社会でこそ臨床家であれ!

松下幸之助 一日一話
10月17日 臨床家になれ

経営、商売というものは、これを医学にたとえれば、臨床医学に当たると思います。その意味では、これに当たる者はみな、実地の体験をつんだ臨床家でなくてはなりません。

ですから、かりに販売の計画を立てる人が、自分自身、販売の体験を持たずして、その知識、才能だけに頼って、いわゆる机上のプランをつくっても、それは生きたものとはならず、失敗する場合が多いのではないでしょうか。やはり、臨床の仕事をしていく以上、実地の体験から入らなくては、一人前の仕事はできにくいと思うのです。

この臨床の仕事をしているという心根をお互いいつも忘れないようにしたいものです。

https://www.panasonic.com/jp/corporate/history/founders-quotes.html より

経営や商売においては、「現場(ミクロ)を知らずして経営(マクロ)は担えず」とも換言できます。現場を知らずに知識や才能だけでも経営や商売を出来ないことはないのでしょうが、失敗へのリスクが高くなる、或いは、現場の負担が大きくなってしまいその場を凌げたとしてもやがては崩壊への一途をたどることになってしまいます。

仮に、現場において「事実に対して、どのように解釈をし、どう対応(実行)してきたのか」というこれまでの経験値が100あったとします。そこに、これまでにない現場における新たな事実となる情報「A」が現れたとします。その「A」という新たな情報に対して、自らの100の経験値というフィルターを通す事により、「A」をどのように解釈し、どう対応すべきかという最善の策が見えてきます。自らの100の経験値というフィルターは、不確実性から確実性へとパーセンテージを高めることになります。

他方で、現場での経験値がないということは、新たな情報「A」に対する解釈や実行が、確実性を伴わない不確実性の高いものになってしまいます。

中国の俗諺には以下の言葉があります。

「一事を経ざれば、一智に長ぜず」(中国の諺)

何事も自分で体験してはじめてそのことを知ることができるという意味になります。

同様に、禅の言葉には以下のようにあります。

「冷暖自知(れいだんじち)」(禅語)

冷たい水は自分で触って初めて、本来の冷たさを知ることが出来るものであり、人から教わったり伝えられても分からない。温かさもしかり、という意味です。

更には、

「門より入(い)るものは是(こ)れ家珍(かちん)にあらず。」(禅語)

ともあります。家珍(かちん)とは家宝のことであり、自分の宝物という意味です。門とは簡単に手に入る体験の伴わない知識のみ事であり、知識だけでは自分にとっての宝物にはならない。自分にとっての宝物を得るためには実際の経験が必要であるという意味です。


翻って、マッキンゼーなどで活躍するコンサルタントたちは、仮説思考と呼ばれるフレームワークを駆使し、その時点で考えられる最も合理的な仮説(仮の結論)を立て、目標達成のための提案や行動をしてきます。これは謂わば、知識や能力によって仮説、検証、行動がなされるということですが、仮に、仮説を立てる根拠とした事実情報に曖昧さがあったならば、その後の仮説、検証、行動は全て無意味で無駄なものになってしまいます。

事実情報というものは、事実を事実として受け取るだけでも簡単なことではなく、例えば、右手から得られる情報として、親指側から右手を見れば「1」に見える情報でも、手の甲側から右手を見れば「5」に見える情報もあります。

更に、仮説の立て方には、大別して「帰納法」と「演繹法」がありますが、特に帰納法を用いる場合においては、最初に根拠とする情報がファクト(明らかな事実)でなければ、それ以降の仮説は全く無意味なものになってしまいます。最初に根拠とする情報を可能な限りファクトに近づけるためには、自らの行動による体験や確認が重要になってくる訳です。

昨今のメディアによる情報やSNSを経由した個人発の情報などは、ファクトが抜け落ちた情報が多く見受けられます。メディアにおいては、ファクトが曖昧なままで、コメンテーターなどによる解釈や仮説検証などが行われるため、残念ながら結果として見るに値しない、或いは、見るだけ時間の無駄となるものが多くなっています。要因の一つとして、ICTやSNSなどの進化発展により、これまでにないほどの情報過多の社会になってしまっているという側面もあるのでしょうが、先ず「ファクト」はどこにあるのか?どれくらい確かなファクトなのか?更には、「臨床家による仮説や検証なのか?」などを、情報を受け取る側の私たちがきちんと見定める必要があると言えます。加えて、私たちの一人ひとりが常に臨床家であり続けることを忘れないことが、不確かな情報に惑わされず確かな判断と実行をしていけることにつながるのだと私は考えます。


※記事:MBAデザイナーnakayanさんのアメブロ 2017年10月17日付 を読みやすいように補足・修正を加え再編集したものです。


中山兮智是(なかやま・ともゆき) / nakayanさん
JDMRI 日本経営デザイン研究所CEO兼MBAデザイナー
1978年東京都生まれ。建築設計事務所にてデザインの基礎を学んだ後、05年からフリーランスデザイナーとして活動。大学には行かず16年大学院にてMBA取得。これまでに100社以上での実務経験を持つ。
お問合せ先 : nakayama@jdmri.jp

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