『谷崎潤一郎全集第13巻』感想

2023年6月29日から熟成していた下書きです。
普通にあげるのを忘れていました。


『谷崎潤一郎全集第13巻』には、『黒白』と『卍』他が収録されています。
『黒白』と『卍』の2作は小説でボリュームも多いお話です。『細雪』と比べれば、そこまで長くないですが、歴史的仮名遣いもあるうえ、『卍』に関しては、キレの良い大阪弁が飛び交っているため、読むのに時間がかかりました。地元が関西なので、知ってる場所が出てきたら、ちょっと嬉しくなる不思議。


『黒白(こくびゃく)』


『黒白』は、顔見知り程度の陰キャをモデルに小説を書いた主人公のお話です。初対面から好きでなかったため、自身が書いている犯罪小説の被害者のモデルとして陰キャを利用したものの、実際の陰キャに寄せすぎて書いてしまったため、ばれてしまうのではないかと不安に駆られます。

担当編集にその旨を伝えるものの、相手にしてもらえず、不安を募らせていくうちに、本当に陰キャは誰かに手をかけられてしまう確信を持っていきます。突飛な発想なのに、不安によっておかしくなっていく様子が、やけにリアル。
さらに妄想は膨らみ、陰キャを手にかけた犯人は、自分の犯罪を隠すために、この小説を利用して、主人公に罪を擦り付けようとするのではないかと思い込みます。
すると、決行の日は、小説の通りに行われるはずですから、この日にさえアリバイを作っておけば良いと旅行に出かけます。

旅先のバーで会ったエキゾチック美女に心奪われ、案の定関係を持ちます。ところが、美女と関係を持つごとに主人公はやつれていき、頭もおかしくなっていきます。いつも彼女の部屋で行いますが、どこに住んでいるのかは、分からないようにされています。肝心のアリバイ作りは二の次に、彼女に嫌われないようお金の無心をしたり、必ず約束の時間を守ったりすることが最重要事項になっていきます。

とうとう、本当に陰キャが手にかけられてしまったとき、美女との約束よりもお葬式へ向かうことにします。陰キャには、奥様がいました。

しばらくすると思った通り、出版された小説と実際の被害者、犯行場所、犯行時刻など類似点が多いことに気が付いた警察が主人公のところに来ます。のらりくらりと話をするのですが、ラスト、めっちゃ可哀想です。

エキゾチック美女や真犯人について謎の部分が多いので、考察めっちゃできます。多分読み飛ばしてなければ、この2点は謎のままでした。
担当編集が怪しいと思うのですが、どうだろう。


『卍(まんじ)』


『谷崎潤一郎全集13巻』の『卍』は、ある既婚女性である園子さんが自身に起こったことを告白するところから始まります。

未亡人とあることから、結婚相手の旦那さんは、すでに亡くなっていることが分かります。



主人公の園子さんは、趣味で日本画の専門学校に通っています。平穏に過ごしていましたところ、なぜか校長にモデルのデッサン中にモデルの顔とデッサンの絵が違うということをぐちぐち言われてしまいます。

校長は、絵のことはからっきしのくせに、そんなこと言われる筋合いはありませんから、その旨を言い返します。



園子の描いた顔というのが、同じ専門学校に通う女性光子さんの顔だったことが問題だったようで、2人は同性愛なのではないかと噂になっていたのです。


顔は知ってはいたけれど、話したこともないのに、どうして光子さんと噂になったのかわかりません。

そんなとき、光子さんの方からお茶に誘われ、お話することになりました。するととても気が合い、すぐに仲良くなりました。

自宅に光子さんを招き、絵のモデルになってもらったとき、既婚者であるはずなのに、彼女の裸に魅せられてしまいます。

おそらく深い仲になったでしょう。百合好きには、ときめく展開です。

旦那さんがお仕事で不在の時、2人で部屋にこもることが多くなりました。

当然、旦那さんも不信感を募らせていき、苦言を呈します。園子さんは逆切れし、夫婦仲は冷めきってしまいます。

園子さんのご実家はお金持ちで、旦那さんは援助してもらっている立場であったので、園子さんに強く出ることができないのです。

もはやハラスメントですが、ある事件がきっかけで夫婦仲が戻ります。

夜、光子さんから着物とお金をもってある料理屋さんに来てほしいという電話があったのです。
行ってみると、光子さんは男性の方と2人でいました。
お風呂に入っているときに、着物や荷物を泥棒されたということで、着物が必要だったのです。

深い仲にもかかわらず、男性と2人でいるということにさすがの園子さんも腹が立ち、絶交することに決めました。同時に、罪滅ぼしの気持ちもあったため、旦那さんへの態度が急変します。遊びにも出ず、きちんと家事をして、何より旦那さんを愛するようになりました。

ところが、病院から電話があり、光子さんに貸した本について説明するよう求められます。その本は、妊娠をしない方法が書かれている本です。

光子さんはその方法を試したのですが、失敗したのか大変なことになってしまっていたのです。

さすがに、他人事には思われず、光子さんのところへ向かいますが、案の定光子さんとの関係が元通りになってしまいます。


そんな折、光子さんといた男性の綿貫さんが園子さんに近づき、光子さんを自分から離れないようにするために園子さんに契約書のようなものを書かせます。

光子さんから綿貫さんはストーカーで、とても困らされていることを聞いていました。絶交の機会を作ったのも光子さんと仲の良い園子さんを遠ざけるための綿貫さんの作戦だったのです。

綿貫さんは、園子さんの旦那さんにも近づきます。

綿貫さんは、皆さんの弱みを握って脅したりしていますから、自然と3人は親密になっていきます。旦那さんも光子さんに惹かれていく様子が生々しい。

結果的に、園子さん、旦那さん、光子さんは3人で心中することにします。

ところが、同じ薬を飲んだはずなのに、園子さんだけが生き残ってしまったのです。

なんて不運。いえ、もしかすると旦那さんと光子さんは、園子さんに内緒で計画していたかもしれません。そうなると、園子さんは恋人と配偶者の2人に同時に裏切られたことになります。それは、物語が終わっても分かりません。園子さんの混乱が、自分のことのように伝わってきます。

百合として読んでた身としては、さらなる裏切り。



読後感は、混乱です。


ねちねちした人間関係が好きな方にはおすすめの逸品です。



#熟成下書き

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