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インタビュー記事:笑顔と幸せがひろがる農園をつくりたい!農業未経験からコミュニティ農園を立ち上げた「はぐファーム」前廣千愛さん

女性にとって出産は大きなライフイベント。
これまでの生き方を見直し、新しい仕事や暮らしを模索する方も少なくないでしょう。

今回ご紹介する前廣千愛さんは病気や出産をきっかけに食や農の大切さを実感し、会員制コミュニティ農園「はぐファーム」を立ち上げました。元々はITシステム営業職をされていた千愛さん。農業どころか畑仕事も未経験からの挑戦でした。常に前向きな千愛さんに、コミュニティ農園を立ち上げた背景ややりがいについて伺いました。

食は生命の根源。自身の病気や出産をきっかけに生まれた実感

元々飲み会や食べることが大好きな千愛さんにとって、食生活を見直し始めたのがコミュニティ農園につながる第一歩でした。きっかけは自身の病気と長女の出産。

「ちょうど結婚するくらいに小さな乳がんが見つかって…それがきっかけで食べすぎや飲みすぎなど食に無頓着だった生活を見直しました。
出産後は子どもの食事について考えるようになって、無農薬で安心して食べられる野菜を選ぶことや食事の栄養バランスを意識するようになりました。身体の健康が心の健康や幸せにつながると思うので…食は命の根源だなと」
(千愛さん)

千愛さんはまず食材配達の利用や食品表示のチェックからとりかかります。
次女の育休中には、亡き父が持っていた畑で以前から興味があった野菜作りに挑戦します。

「ちょっと野菜作りをしてみたら、それがすっごく楽しくて!小さな種が成長して野菜となってそれを収穫して食べるというのは初めての経験でした。

そんな楽しい農作業をみんなでやればもっと楽しそう!という思いもあり、興味がある人たちと一緒に農園部というサークルを立ち上げました」
(千愛さん)

農作業の楽しさに気づいた千愛さんは早速農家さんの土地の一角を借り、農園部の活動を始めます。活動内容は週に1度、数人でサークルのような形でスタートしたそうです。

最初は1人で始めた農作業が友人との活動に広がっていき、野菜作りに没頭する。そんな生活を楽しんでいた千愛さんですが、育休からの復帰が目前に迫っていました。

育休復帰の面談で「農園がやりたい」と口にしたことが事業化のきっかけ

千愛さんは出産前からシステムやアプリの開発を行うIT系の会社に勤務していました。育休前はITシステムの営業を担当していましたが、大手企業との競合に苦戦し思うように成果をあげられないことも。「自分は本当に会社の役に立てているのだろうか…?」と悩んだこともあるそうです。

そんな千愛さんの転機になったのが育休復帰前の社長面談。育休復帰後にしたいことを尋ねられ「農園をつくりたい」という気持ちを何気なく話されたそうです。

すると社長からは「やってみたら」と意外な返答が返ってきました。
千愛さん自身も驚いたそうですが、実は社長も将来は田舎に拠点を持ち、自給自足の生活をしてみたいと思っており、背中を押してくれたのです。

それから育休復帰まで千愛さんは農園開設の準備に奔走します。
市民農園の開設について調べたり役所に何度も出向いたり、農園でやりたいことをプレゼン資料にまとめ、様々な場所でたくさんの人に伝えました。幸いなことに農園部で借りていた土地をそのままコミュニティ農園として借りられることになり、無料イベントの開催を通じて興味がある人への広報を行いました。

「自分がこれをやりたいって決めて人に話すと、土地が空いてますよとか手伝うよって言ってくれる人が出てきて…。自分1人でやってるというよりは、本当にいろんな人の応援があったからこそできたんです」
難しいと思うことも諦めず人に話してみる。そのことで周囲からの応援が集まり、夢の実現にどんどん近づいていきました」(千愛さん)

そして育休復帰から2か月後、ついに2022年7月に熊本県合志市に会員制のコミュニティ農園「はぐファーム」がオープンします。

「農・人・イベント」自分でつくったコミュニティ農園は、好きなものが全てそろった場所

2023年7月コミュニティ農園「はぐファーム」はオープンから1年を迎え、現在は農作業や畑での食事会などのイベントを行い、多くの会員が農園に集っています。

農作業の日は野菜の植え付けや収穫、草刈りなどの作業をみんなで行ってからおやつとお茶をいただくのが定番。イベントでは芋ほりや畑の野菜で料理を作ったり、他の専門家とコラボして燻製ベーコンづくり、ペットボトルでピザをつくる体験など様々な企画を行っています。

継続して活動に参加してもらう難しさや収入面での課題はあるものの、参加者が喜んでくれるのがなにより嬉しいと千愛さんは語ります。

「収穫した野菜を食べて、『他の野菜と比べてすごく美味しい!』と言ってもらえることが嬉しいですね。この間もレタスを食べた人が、野菜の味が全然違って美味しいと言ってくれました。
子どもたちも普段家では野菜を食べないのに、はぐファームで収穫した野菜は食べると言われることがあります。自分の手でちぎって収穫したピーマンや掘り上げた人参は食べてくれますね。はぐファームを立ち上げたのは、農作業を体験するという目的もあるので良かったなと思います」(千愛さん)

今後は野菜栽培の技術を向上させたり休憩小屋など設備を整えたりして、参加者にさらに満足してほしいとのこと。
畑という場で周囲の人の笑顔を増やし、みんなで幸せになりたいという千愛さん。自身も育児真っ最中の母の身でもありながら、走り続けられる原動力は何なのでしょうか?

「やっぱり好き!というのが1番です。野菜が好き、人が好き、イベントが好き。自分が好きなことしかしてないです。もし自分が農園をしていなかったら、きっと他の農園で同じようなイベントに参加してたと思う。今は自由に思いっきり遊べる場所も意外と少ないので‥この農園で大人も子どもも、のびのび過ごしてほしいです!」(千愛さん)

自身の「楽しい!」という気持ちを出発点に、他の人も幸せにしながら農園を営んでいる千愛さん。自分のやりたいことを形にするためには、まずは周囲の人に伝えてみること、スモールステップで始めてみること…そんなヒントを教えてもらいました。

取材・文:佐竹望実


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