見出し画像

何故株は強いのか

タイトルを見て違和感を覚えるかもしれない。だが一昨日のCPIでインフレの粘着性を思い知らされ、FRBの利上げ織り込みも加速し金利も上がり、9月からはQTも加速し、景気減速の色合いが濃くなっている現環境は数ヵ月前に比べ明らかに悪くなっているように思われる。リスクオフムードが台頭してもおかしくなさそうだが、株価は数ヵ月前に比べ依然高い。米国株はゼロヘッジが提示した利上げと株価の関係が分かりやすく、利上げ加速で短期金利が上昇した割に、足下の株価は底堅さが目立つ(下図)。日経で言えば6月は26,000円割れを窺っていたところ、足下は28,000円やや下の水準に収まっている。

画像1

ここ数ヵ月以内に改善したものを考えると、原材料価格の落ち着きがあるだろう。原油を筆頭に銅、鉄鉱石、小麦、肥料など、半年前に大騒ぎされた様々なモノの価格は下落ないし頭打ちとなっている。一次産品価格の騰勢鈍化は、企業が直面する原材料コストを低減させる。副次的に、各国中銀の引き締め圧力の緩和も期待できよう。前掲グラフの2年金利を資源価格に置き換えると、「年前半は商品高→コスト増→株価下落、足下は商品安→コスト減→株価上昇」という別のストーリーが浮かび上がる(下図)。

画像2

原材料価格を企業サイドから見ると、ISM製造業に含まれる支払価格は既に「正常化」している(下図)。「どこまでコストが増えるか分からない」という状況は終わっているように見える。この点は、急速に進んでいるドル高が輸入物価上昇に歯止めをかけていることが影響しているだろう。資源高に通貨安がプラスされている日本とは状況が異なる(下図)。

画像5

他方でISM「非製造業」の方に含まれる支払価格は鈍化はしているもののまだ高い。CPIでサービス価格が一段と上がっていたことと整合的である。

そしてサービス業におけるコスト、即ち賃金上昇も足下で岐路に立っていよう。今月初めの雇用統計では労働参加率の改善が認められた(下図)。背景には、年初からの株安で家計の金融資産が減少しFIRE民が低賃金で働きに出ざるを得なくなったことがあると推察される。先週公表の家計資産統計によると、家計の金融資産は22年4-6月に大きく目減りし、純資産ベースではリーマン・ショックやコロナ・ショックを上回る減少幅となった(下図)。世界中が絶望に包まれたのも無理もない。

frわfgg

無論、引き締めによる株安は不況とのチキンレースでもある。現在40年ぶりの高インフレでも消費が底堅いのは、取り崩しても余りある資産があるからに他ならない。引き締めの行き過ぎは働き手を増やすどころか、企業の採用意欲を失わせ失業を生む。FRBがやりたいのは働く気を無くしたFIRE民を働かせることであり、普通に働いている人や企業に損失を与えることではないはずだ。

とはいえ、何事も先を織り込む金融市場にとり、FRBの引き締め停止観測は再度の株高→FIRE 民の再退出につながりかねない。市場の悲嗚に耳を貸し、配慮を見せた途端に目標達成が遠ざかってしまう以上、FRBも心を鬼にするほかない。先月のJH会合後にカシュカリが「(株安という)市場の反応に満足している」と述べたのはそういうことも関係しているだろう。FRBはインフレターゲットでも雇用ターゲットでもなく、うっすらとした株価ターゲットで運営されているようにすら思われる。

FRBの態度には凡そ引き締めバイアスがかかっているとみられ、市場の利上げ観測も容易には後退しないよう、FRBメンバーは注意深く発言しているとみられる。足下数ヵ月で改めて判明したのは、まさにそうしたFRBの引き締めバイアスであり、そのことが利上げ織り込み加速、短期金利上昇を招いている。こちらはこちらで株の足を引っ張る要因になっている。

今後について、毎度市場を混乱させる「CPIパチンコ」は継続されるとみられる。ただ、不味いのはインフレが(というか家賃が)収まらず株価が急落しても、ロング勢が「そろそろ」「次こそは」と寄ってくる現在のような環境であろう。現在の奇妙な株高、具体的には巨額の家計資産について、FRBは快く思っていないおそれがある。次回のFOMCで、FRBが再度「キレる」可能性は消えていない。

FRBは、あとどの程度株価を叩くだろうか。前述の家計資産報告によれば、4-6月期で金融資産はコロナ前のトレンドよりまだ若干高い(下図)。ここの盛り上がりが消えれば、FRBも様子見に移行し労働参加率改善の程度を観察するのではないか。その時期は、色々と荒波はあるかもしれないが、それほど遠くないように思われる。

画像5

※本投稿は情報提供を目的としており金融取引を勧めるものではありません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?