第一世界#7 ツリノブセ

 己こそが愛国主義の極致であると、ミウラコウタは声高らかに宣言した。
 この男をどうにかできれば、この危険な世界から脱出できるかもしれない。そう思うと、自然と手足がひりつくソウキャとレッキャであった。

「それで、どう時間稼ぎをするんだ?」
「私に、任せて貰える?」

 そう言うと、レッキャはミウラの方を向き、一歩前に出た。

「総裁。あなたに質問したいことがあります。」
「裏切り者の話に耳を傾けつもりはないが。」
「この国の愛国主義の在り方についてです。」
「……ほう。」

 その言葉にミウラの瞳がわずかに光を帯びる。

「国民が疑問を持つことはまずない事柄だ。興味が湧いた。言ってみろ。」
「……過激である、と思ったことはありませんか。」
「ないな。そもそもジポポンへ捧げる愛国心に上限などない。」
「上限がない。それは一人ひとりの質ですか。それとも、なるべく大勢の愛国者の存在ですか。」
「無論両方だ。個人にはこちらが整えた国家制度以上の働きを望む。そしてジポポンの地に住まう人間全員がやるべきことだ。」
「それではなぜ、『人柱』の制度があるのでしょうか。」

 そのワードは、ソウキャにとって初耳だった。この世界「Our Island ジポポン⑤」のあらすじにも書いてない。「人柱」という言葉自体は元の世界でもあった。説明されなくても、意味が分かってしまう。分かってしまうから、背筋が凍るのだ。

「生徒たちから聞きました。『愛国濃度』5が、違反行為などによって維持できない成人。高校卒業時に5未満である未成年。彼らは、この国の中央部にある巨大な大穴に身投げをしなければならない。」
「当然だ。言ってしまえばそういう連中はお前たちと同じ、裏切り者だからだ。」

 レッキャはスカートの端をぎゅっとつかむ。時間稼ぎのための対話、と彼女は言った。実際ヨウキャが来るまでの時間を稼いでいるので、目的には合っている。しかし、生徒から聞いたという彼女の表情は、その場限りの話をする人間のそれとはまるで違う。この、またとない対話の機会で、抱えた強い思いをぶつけようとしているのだ。
 真意はどうであれ、ソウキャはそう捉えるべきだと思った。

「分かりません。私はあなたが、ただの排他主義者に見えます。」
「最も効率的な手段を採っているだけだ。国民の不一致は、国の混乱を招く。皆の不安を取り除くなら、より早い方が良い。」
「色々な考え方の人が共存するから、集団は正しい方向に進んでいくの。集団のリーダーは可能な限り意見を聞いて、決断した方向に皆がついていけるよう、寄り添うべきでしょ。」 
「なら、その正しい方向を探す間に、ジポポンは壊滅するだろうな。」

 ソウキャは黙って、レッキャとミウラの対話を聞いていた。ミウラはなるべく最短距離でジポポンを導こうとしている。だがそれは、早急に死を迫るほどのものなのだろうか。すぐさま銃口や人柱の対象にしなければいけないのか。
 ソウキャはミウラに対して、初めて口を開いた。

「人を殺すこと。あんたはこれが正しくないという理解があるのか?」

 ミウラ無表情に、ソウキャは思わず唾を飲み込む。
 そこだけは共通理解であってほしい。そんな願望だった。

「何を言っている。この世の中、その行為は当たり前ではないか。」

 その返答は決定的だった。
 これは、もうソウキャたちの世界と常識から違うのだ。
 いや、正しくはソウキャたちの暮らす環境の常識だ。確かに元の世界だって、日常のいち風景として行われている所もある。なので、ソウキャたちの取り巻く環境やこれまでの平和な人生とは無縁であっただけだ。

 ミウラコウタが暮らす環境の常識が、そこにはある。
 では、ジポポンの外はどうなっているのか。

 物語の文章に置いていかれた、この世界のことを知る必要があるのかもしれない。
 
 と、ソウキャのすぐ横で何かが地面に激突する。猛烈な砂埃から現れる、一人の少年の姿。

「ウィッカーマン参上! 待たせたな!」
「委員長。この討論は一旦終わりだ。」
「……そうね。ウィッカーマン! 敵を無力化して!」

 レッキャの合図と共に、飛び出すウィッカーマンことヨウキャ。向かう先は一直線、ミウラコウタだ。
 当然部下たちは発砲してくるが、効果は一切ない。弾丸は当たっているが、ウィッカーマンの体で虚しく地面に落とされるばかり。

「総員、ツリノブセだ。」
「ツリノブセ……?」

 ミウラのその言葉を拾ったレッキャは困惑する。ミウラ含む六人はウィッカーマンに追われる形で遠ざかっていく。敗走、に見えても仕方ない。
 やがて一同は、一本道の商店街へと入っていく。

「ウィッカーマン! ウィッカーセンサーに何も感じない?!」
「何も! 敵はあの六人だけ!」
「委員長。さっきツリノブセって聞こえたけど、あれは何?」
「釣り野伏せ。戦国時代、島津家が得意としてた戦術よ。」
「委員長の歴史好きが来た! で、それは。」
「敗走と見せかけて、忍ばせてる伏兵で包囲する戦術!」
「ウィッカーマン! ウィッカーセンサー!」
「だから他にいないって!」

 確かに周囲を見渡しても、駆け抜けるこちらに、困惑する店員と客しかいない。店の奥に隠れている可能性もあるが、ウィッカーセンサーに引っ掛からない以上、心配に及ばない。

「じゃあなに。陽動作戦か。」
「伏兵がいないと分かればいいわ。捕まえて、ウィッカーマン!」

 ついにウィッカーマンがミウラの間合いに入る。そしてその腕で取り押さえようとして、

「集え! 愛国濃度の信徒たち!」
「ウィッカーセンサー多数‼ 頭がよじれる……!」

 八百屋の店主は、品出しの手を止め。
 魚屋の娘は、値札を書く手を止め。
 呉服屋の老婆は、梱包作業を止め。
 飲食途中の客は、その場を後にし。

 商店街で生活のひと時を送る、数百人が全員。
 銃器を構え、異端者3人を完全包囲した。

「用意、撃てぇーーー!!」

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noteでの投稿は今回までとなります。続きは小説投稿サイトエブリスタ等で公開予定です。公開しましたら、noteでも連絡致します。

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