【詩】海岸

誰もいない海で
岸辺の石段を、ただ裸足で歩いていた
そうしていれば、痛いと感じるすべてのこと、その理由を誰にも説明しなくていいような気がしたから
真っ当に、ただ擦ったような傷口を見せつければ、みんな、痛いと言うことを赦してくれるような気がしたから
そして、その痛みさえも、なにかの拍子に、いつの間にか水平線のなかに吸い込まれてしまうような気がしたから
 
いつだったか、
砂浜で、日の差した海を背に、立っていたあなたは、
波の音と一緒に切られたシャッターで、写真になっていった
そして、制約という概念、そのぜんぶを呑み込んでしまったかのように、海はその背後にあり、一面青く、透き通って、けれど同時に、引力みたいな魔力を放ち続けていて、近くに佇んでいたあなたが、あのとき、どうしようもなく綺麗に笑っているように見えたのだった。
海底みたいだ、深い嫉妬に呑み込まれそうで、ずっと、溺れそうだった、ずっと。地球上の大気はきっと、わたしに合うように造られていないのだと思いました。
海鳴りがして、
耳鳴りがして、
シャッターの切れる音が、聞こえた気がした、
気がしただけだった
誰の水晶体にも映らない
砕けた貝殻よりも、光の外側にいる
けれど、わたしは死んでない

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