【詩】書架と夜景

綺麗なものは綺麗なのだと決められていて、綺麗でないものもまた綺麗でないのだと元から決められているから、だからきみたちは、煌びやかに広がる星空だとか、都会の街に立ち並ぶビル灯りだとか、そんなものばかりを見て、それを夜景だと言った。
ぼくは、どこかの夜景の下で恋を謳っている誰かを想像しながら、誰に勧められるでもなくひとりでベランダに立って煙草を吸う。そして途端に意味を持ち始めた星空や、灯りが映って光る誰かの瞳に思いを馳せる。誰かが、恋だとか愛だとか、そういったものとすべてを結びつけようとして、それでぼくたち、みんな同じ空の下にいる。信じたくなかったけれど、それはどうやっても紛うことなき事実で、そんな風に思ったぼくはそのことにとてつもなく嫌気が差し、意味のないものが見たいとどうしようもなく願って、けれども結局、きみたちはぼくのことを物語としてしか見れないし、ぼくもまた、きみたちのことを物語としてしか見れないから。ぼくたちの怒りだとか、起承転結に落とし込められたときの苛立ちというのは、知らないうちにすべて夜景のなかに吸い込まれていってしまうのでした。
「ぼくはあなたが造り上げた物語じゃない」
だけどぼくたちは、どんなにそんなことを言っても、他人の書架に並べられている一冊の本に過ぎなくて、それでいつか古びて朽ちて、燃えて灰になって、煌びやかな夜景の一部になる、なるかもしれない。
だからそのときは。せめて誰にとっても意味のないものでありたい。そんなことを思いながらぼくは煙草の煙を吐いている。


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