【詩】洟

なぜ泣いてるのと訊かれて、その答えを答えようとするとき、わたしたちには言葉しかないのだ。涙がどこかに向かうには言葉を交わさなければいけなくて、所在ない感情を理屈で説明しなければいけないと泣きながら知ったとき、それはきっと、分かり合うことを宿命として人間を創った、神様の嫌がらせなんだと思った。
涙と一緒に世界中の悲しみが蒸発したらいいのに。けれど実際は、塵が積もっていくようにじわじわと胸を侵していくばかりで、じゃあ、わたしたちはただ涙の綺麗さに見惚れていることしかできないのか。
というか涙ってそんな綺麗?
あなたがわたしの泣いてる姿を見て、詩を創る。泣き顔が綺麗だと言う。悲しみに暮れる姿が一番人間らしいのだと言う。だから、あなたはわたしのことなんて微塵も見ていないのだと、わたしははっきり言うことができる。
涙なんて綺麗じゃない。零れ落ちた涙のぶんだけ洟が出た。鼻から垂れ下がる粘液を見て、何で洟はこんなにも詩的じゃないんだろうと思う。詩的でないものをあなたの世界から消さないで。きっとあなたが見えていないだけで、世界中の泣き顔、こんなものばかりだ。

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