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小品集「停滞」

9
短い物語をまとめています。
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#詩

9 彼

彼は作家を志していた。どこまでも、自分の人生を目一杯希釈したような、そんな薄いことしか書けなかったけれど。

万年筆のペン先でも、きみの首を掻き切れる。

そう、彼は昔、彼以外の全員がこの世界からいなくなればいいと本気で思っていたのだ。そうして自分の作品で、他人を傷つけることばかり考えていた。

けれども、彼は真面目だった。作家として大成するために、寝る間も惜しんで勉強をし、「教養」を身に付けてい

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8 初期化

「どこまでも画一的でない様々な商品が、この世界にあらゆる形で存在していることで、一つの利器に頼らない、それぞれの用途に合わせた使用法や、役立つ局面があるのだ。」
と、僕たちを立案、設計した神はきっと言っている。
それはいいけどさ、
だったら、個性とかではなく、「誰かに認められたい」って、そう思わなければいけない設定がみんなにあるのは、何だかおかしいね。
だって、
それだと友達がいない人ばかりが、苦

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7 階

呻き声をあげる。
人生のなにもかもが、まるで足を折られた兵士の眼前に粛々と突き付けられた階のようだ。
僕は、泣いてばかりいる。
堅牢として佇むそれが、実は数多の砂で出来ていて、いつしか、僕の涙で溶かすことが出来るという幽かな可能性に懸けて。

5 余生

余生。
「まるでそうじゃない部分があったみたいな言い方をする。」
余生。
「まるでそうじゃない部分があったみたいな言い方をする。」
僕はひとりでそう呟いて、ただ目的もなく冬の公園を歩き続けていた。さながら犬のように。
逆説的に、それはきっと、満たされている人が創った言葉だ。僕はただ、日記を書こうとして、何度も挫折しているような僕のことを、無条件に面白いと言ってくれる、そんな誰かが、いつしか現れてく

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3 輪廓

誰からも愛されていないことには、疾うの昔から気が付いていた。
夜7時、ひとりで残業をしながら、仕事場の誰かが少しだけ遠くで話していることに耳を傾ける。丁度、僕のことを褒めているみたいだ。少なくともそう聞こえる。もちろん、確証は持てない、持てないけれども、褒められているかもしれないと思いながら、僕は、ずっとそれを養分として生き長らえてきた、この二十五年間。
与えられた仕事をこなし、束の間の充足を得て

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2 忘れない

遠くの席だったのによく目が合って、あの子は、僕に、他でもない僕に、笑いかけてくれた。綺麗な綺麗な笑顔で、ただそれだけで、その教室には、その世界には、僕とあの子のふたりしかいないような気がしていた。
灯りを消した子ども部屋。暗順応してきてうっすら見えてくる丸い蛍光灯。まっさらな天井。まるでパレットみたいだ。自由に、あの子との光景を描き出す。そして、あたかも羊を数えるように、ぐるぐる、あの子に伝える言

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1 水中花火

その花火は、水のなかを足掻くように弾けている。
それも長らくその光は、なにかを主張するように迸っていて、なかなか消えてはいかない。そんなこともあるのだと僕は思った。
それは、炎タイプは水タイプに弱いという常識を軽く覆していた。拝啓、そのときだけ友達だった岩下くん。足首に、優しく撫でるような冷えた海水を感じながら、僕は、もう少しだけ生きてみようと思った。自分の周囲で、まだこんな珍しいことが起こってい

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