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メンタル不調における「器の満ち欠け」仮説

最近、メンタルを崩している方のお話を度重ねて聴く機会がありました。

その際、メンタル不調のタイプとして、①抱え込みすぎによるものと、②満たされないことによるものの少なくとも2種類があるのではないかと気づきました。

①は、環境変化の影響に対して自分でもうまく対処できずに混乱している状態です。
②は、どこかやる気も起きず、本来あるはずのものがないという虚無感を伴った状態です。

①から②は影響を及ぼす可能性もあり、両者の関係は切り離せないかもしれませんが、両者のネガティブな状態を同一視したままでは、間違った対処になってしまう可能性もあるのではないかと考えます。

そこで今回は、より詳細に「器が満ち溢れたとき」「器が欠けたとき」「器が空っぽのとき」という三つのタイプを想定し、これを「器の満ち欠け」仮説と名付けて、それぞれのタイプのメンタルヘルス不調について考察をしていきたいと思います。


●器が満ち溢れたとき―対処法:リフレクション

器に注がれる水は、当人が直面している経験(出来事や責任)であり、平たく言えばストレスと捉えられます。

ストレスと聞くと、嫌なことや辛いことを連想されるかもしれませんが、実は嬉しいことや楽しいこともストレスの一因として含まれます。

私たちは、満ち足りた気持ちになったとき、「満足感」という言葉を用いますが、これは言い換えれば、様々な経験に伴うストレスが過不足なく、ちょうどいい範囲で収まっている状態と言えます。

そして、環境変化の影響が蓄積し、自身の抱えられるストレスが限度を超えたとき、器から水が溢れていくことになります。

溢れたときには、現時点の自分のやり方では変化に対処できなくなり、知らず知らずのうちに自分の器の小さな振る舞いが表れてきます。

以前の記事で、人としての器の成長プロセスが「①変化の影響を蓄積」「②器の限界を認識」「③器の拡大を構想」「④意識・行動を変容」という4つのフェーズからなることを説明しました。

器から水が溢れたときは「②器の限界を認識」に該当し、この時こそ、しっかりと自分自身を内省(リフレクション)し、「③器の拡大を構想」に進んでいくことが重要となります。

自分自身の課題と真剣に向き合わずに、慌てて水を掻き出していると、その場しのぎの対処で終わり、新たな器づくりに向かう好機を逃してしまいます。


●器が欠けたとき―対処法:リカバリー

慌てて水を掻き出すのではなく、自身の状況をじっくりと見つめることは大切ですが、器に注がれる水の量が多すぎたり、重くて質の悪い泥水を抱え込みすぎると、器の底にひびが入り、器そのものが壊れてしまう懸念もありえます。

このとき、どんどん水が注がれる一方で、底からも水が抜け落ちているという混乱状態に陥る可能性があり、そうなると、もはやリフレクション(内省)をする余裕もありませんので、リカバリー(回復)に努めることが必要になります。

軽度のひび割れであれば、適宜、休息を取ってリフレッシュすることで、自然と治癒していくこともあるでしょう。

しかし、破損が大きい場合は、専門家(臨床心理士やカウンセラー)に修復を相談する必要が生じます。

一般的に、メンタルヘルス対策の二次予防では、早期発見・早期対処が重要とされており、重度症状で修復不可能となる前に、上記の予防的な対処が必要です。

このタイミングを、物理的な器のイメージで捉えると、金継ぎに当てはまります。

それゆえに、うまくリカバリーに成功することができれば、金継ぎのように美しく丈夫な器ができあがるでしょう。


●器が空っぽのとき―対処法:リスタート

破損が大きすぎて、もはや修復不可能となったとしたら、これまでの壊れた古い器は手放して、新しい器をつくっていくことが必要になります。

しかし、愛着のある古い器を手放すことは、なかなか難しいものです。
もしかしたら、まだ金継ぎで治るんじゃないかという淡い期待を捨てきれないかもしれません。

一方で、壊れた器を使い続けても、「本来はもっとたくさんの水を入れられるはずなのに、今の自分ではそれができない」という喪失を感じることにもなります。

一度、何かを手に入れたからこそ、失ったときに、どこか足りないと嘆きたくなる気持ちもわかります。

ただ、そうしたときこそ、足りないのではなく新しい何かが必要なタイミングだと認識転換して、次の新しい器づくりに向かう一歩を踏み出すことが必要ではないでしょうか。

現状の壊れた器にすがっていては、満たされない枯渇感が続くばかりで、次第に喜怒哀楽も感じられなくなっていきます。

そうなると、新しい器をつくることにも、どこか抵抗を感じ、一向に新しい器づくりに踏み出せなくなってしまうかもしれません。

空っぽの状態は、新たなスタート地点なのです。

"うつわ"という言葉は、元々は”うつほもの(空のもの)”であり、実は、鬱(うつ)と語源を同じにしています。

空という状態にあってこそ、変化(うつろい)を起こし、新たな可能性を生むチャンスが隠されています。

もちろん、人生のすべてを白紙にして生まれ変わることはできませんので、根本的なリセットは不可能です。

ただ、そうだとしても、過去を今日から上書きする形で、新たな一歩としてのリスタートを切り、新しい器に水を注いでいく必要があるのではないでしょうか。


●まとめ

メンタル不調のタイプとして、①抱え込みすぎによるものと、②満たされないことによるものの少なくとも2種類があると冒頭に述べました。

①の器が満ち溢れたときのような適度なストレスであれば、他者のサポートも借りながら、うまく内省をして、器の拡大を構想につなげていくことが重要です。
一方、器が欠けてひび割れから水が漏れ出している状態では、自分ではうまく対処できずに混乱状態に陥ります。その際は早期発見・早期対処を心掛けて、早めのリカバリーに向かうことが大切になります。

②のとき、器が壊れたことで水がすっかり抜け落ちてしまい、本来あるはずのものがないという虚無感を伴った状態に陥るかもしれません。
この場合、愛着のある過去の器を手放す決断をし、新しい器をつくろうとリスタートを切っていくことが求められます。

このように見ていくと、①の軽度のひび割れのときのように適度な休息が重要な局面もあれば、②のときのように新しく動き始めることが重要な局面もあります。

現状の置かれている局面を見誤ると、軽度なひび割れにもかかわらず無理して余計に器を傷つけてしまったり、逆に、新しい器づくりが求められる局面で休みすぎてやる気を取り戻せなくなったりするなど、的外れな対処法になる懸念も考えられます。

一概にメンタル不調と言っても、さまざまなタイプを曖昧な形で総合にして捉えていることに注意が必要でしょう。

こうしたタイプの違いを見極めることは難しいかもしれませんが、ご紹介した器のメタファーを用いることで、わずかでも自分の状態に目を向ける一助となれば幸いです。

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