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巡礼者たち エリザベス・ギルバート

Am 12. Maerz

PILGRIMS
Elizabeth Gilbert

・巡礼者たち
・エルクの言葉
・東へ向かうアリス
・撃たれた鳥
・トール・フォークス
・着地
・あのばかな子たちを捕まえろ
・デニー・ブラウン(十五歳)の知らなかったこと
・花の名前と女の子の名前
・ブロンクス中央青果市場にて
・華麗なる奇術師
・最高の妻


「いざ海へ!わが友よ、勇んで海へ向かうのだ!さあ!」
嵐の夜、お坊ちゃまでおばかさんのジョンは宣う。

アメリカのど田舎でのいろんな人生の短編集。

ぼくは、大いに堪能した。
短編はいいね。
みんなぼくらと変わらぬ日々を素朴に生きてる人らだ、若かったり、老いてたりはあれどみんな自分の人生をユーモラスに生きてる。
そんな彼らの「なんてことのない人生」はぼくをほっとさせてくれる。

「八十五頭も飼ってて、まだ馬に色気を感じるなんていうのかよ」

短編っていいね、っていうのも、なんとなく一つの物語が干し柿みたいに濃厚になってるんだよね、余計な水分とばしたみたいな。
歌の詩みたいに何度も同じフレーズで、リズムをつけて強調するのも読んでて愉しいね。
リズムに乗ってブンブン読めるものの、短いゆえ、ああ、もう終わりか〜、いい話だったな〜、と素直に思える満足感。

「俺はあんたと一緒にいるといつだって楽しいんだぜ、ダイアン。むかしから、一緒にいるといつだって楽しいんだ」

このギルバート氏、女性なのだがおっさん目線の物語のうまさときたら。
ありそうないち小市民の人生の切れ端だから辛い現実も見え隠れするんだけれど、書きっぷりもマッチョだし、全編にわたってポジティブで愉快なムードに満ちて、読む者を笑わせるんだね。
ああ、おれの人生ってマヌケで笑えるよな、だろ?って感じね。


「エルクの言葉」、ちょっと怖いね。
ぼくもそういう奴らだったけど、自称「ナチュラリスト」はタチが悪い。
自分特別意識が強いから野生動物にちょっかい出すんだよ。
だめだって、よしなよ、彼らのことは放っておいてやろうよ。
放って置けないのが人間様だ、そして、今日も動物は殺される。

ぼくは特に「華麗なる奇術師」が好きだ、気狂いじみた父の行動がいちいち面白いんだけど(小説だからね)、実際こんな父やだな〜って。
そんな気狂いだけれど憎めない父に対する娘の優しさ。
ああ、気狂いの言うことって誰も信じてくれないけど、おっさん、あんたが正しかったんだね!


みんなそうだろうけど、本の良さってなんだか旅したみたいな気になるんだよね。
電子書籍にも手を出しつつ、やはり紙の本を選ぶのもトリップ感が違う。
良い本とは、自分の意識が抵抗なく本に入り込めることかもね。
ゆえにみんなソレゾレ「良い本」が違って当然だ。
特に小説は作者の世界観とか語り口が自分とあまりにも合わないと読めやしない。
うまく世界に入れると、風景や雰囲気が見えるのはもちろん、音や匂いまでしそうだ。
まるで自分も彼らの仲間で一緒にことを成し遂げたような親近感があるし、もちろん声も聞こえる、これぞ作家マジックだ。

「でも、舞台のあなたを見ただけじゃ、そんなことはわからない。あなたとぼくが同じ色の髪の毛をしているなんて、想像もつかない。なんて不思議なんだろう。そう思いませんんか」
純朴な絵描きの青年はいう。
「花の名前と女の子の名前」、ちょっと悲しく美しい物語。

映画を観るよりもリアルに感じるのは、全て自分の脳の中で作られたものだからなんだろう。
「本」という脚本をもとに己の脳が別の世界を見せる。
スゲーオモシロイ!

ラストの「最高の妻」もこのタイトル、サイコーね。
この話を最後に持ってくるウマサ!
おしゃれなおばあちゃんが運転手の同窓会みたいなバスツアー。
フワフワ気持ちよくバスに乗って、みんなどこへ行くんだろうね〜。

「いまでもわしのファーストレディさ、初恋の君だったんだからな」