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アゲハチョウのサナギを踏んじゃった話


ふと思い出した昔話・・・

まだ私が小学生か中学生だった頃のこと。
ベランダで洗濯物を取り込んでいた母が
キャッ」と悲鳴をあげた。

何事かと私がベランダに顔を出すと
母は焦った顔で
「どうしよ〜、サナギを蹴って踏んづけてしもた・・・」

見ると母の足元に平たく変形したアゲハチョウのサナギが転がっていた。

どうやらサナギは、ベランダの窓のすぐ下にくっついていたらしい。
母がサンダルを脱いで部屋に上がろうとした時に
サナギを蹴っ飛ばした挙げ句
転がったサナギを少し踏んでしまったのだ。
母はすぐに気付いて
全体重をかける前に足をどかしたから
サナギはペッチャンコまでは潰れておらず
「平べったい」というギリギリのレベルで持ちこたえていた。

母はサナギを大事そうに拾って
「悪いことしてしもうたわ。かわいそうに・・・土に埋めてあげんとな

今にもお墓を作りそうな母を私は慌てて止めた。
「待って!今日、ちょうど理科の授業で習ってん!
サナギになったらな、中身が一度ドロドロに溶けるらしいで!?
汁とか出てへんしギリギリいけるんちゃう?
死んでないって、きっと」

母は目を輝かして
「ホンマ?いけるかな。やってみよか?」

そう言うと、サナギをまた丸い筒状に成形した。
私はそれ以上揉まないほうがいいんじゃないかと思ったけど
母が言うには
「もしも奇形で生まれてきたらかわいそうやから。
飛べんかったらあかんから
羽だけはなるべくきれいな形で生まれてきてほしい。」


かなり元に近い形になったサナギは
ベランダの安全な場所に取り付けることになった。

厚紙でVの字の土台を作り、
木綿糸でサナギの体が自然に近い角度になるように固定した。


数日後、見事なアゲハチョウが誕生した。
羽もきれいに開き、無事どこかへ飛んでいった。
奇形の要素は見られなかった。

私と母は大いに喜んだ。

理科の勉強が一つの命を救った瞬間だった。