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版元(出版社)自らの手による書誌情報の発信や流通の改善を模索、追求する団体です。 noteでは、毎週掲載の「版元日誌」を載せていきます。 https://www.hanmoto.com/

最近の記事

どうにかもう1回話せるように

コトコ 能勢 邦子 月曜日11:00ごろ電話が鳴る。登録のない携帯番号だ。「コトコさんですか。佐藤(仮名)と申します。『失語症からの言葉ノート』を見て電話しました」。高齢の男性読者からだった。「最後のページに書いてある、この言語聴覚士ってなんですか。実は妻が失語症になってしまって、どうにかもう1回話せるようにしてやりたくて」。 え⁉︎ 失語症になったのに言語聴覚士が付いてない?「言語聴覚士は失語症のかたの検査、評価をして、そのかたに必要な訓練、指導をするリハビリ専門職です

    • 「ルールは守れ」でいいのか?

      皓星社 藤巻 修一 最近耳につくのは「ルールを守れ」という言葉だ。これがアプリオリに使われるのは管理教育の成果だろう。スポーツの試合を言うのではない。 選挙の報道から、SNSのののしりあい迄、これ一辺倒だ。「ルール」が何のために作られ、誰が作ったのかは吟味しない。とにかく「守れ」である。ルールは「法律」であり「掟」である。共同体の中で自然発生的にできた掟はともかく「法律」の場合はその規範を必要とする「立法事実」が前提になる。しかし、最近は立法事実のない「法律」が多いと感じ

      • 小さなローカル出版社が「場」を持つということ

        虹霓社 古屋 淳二 5月15日から6月12日まで「小さなローカル出版社フェア」が静岡市のひばりブックスで開催された。これは、静岡県富士宮市の朝霧高原で小さく出版活動をしている虹霓社と伊豆半島のひとり出版・子鹿社と共同で企画したもの。 たとえ小さくとも敢えて東京の出版社を外して「ローカル」に絞ったのが良かったのか、思った以上に良い反応をいただき、会期中に開催したトークイベント(「港の人」代表の上野勇治さんと版元5社によるトーク)も盛況だった。 フェアの参加出版社は6社。鎌

        • この不況に出版社やるなんてさ、業界に風穴をあけようとか思ってんの?

          逆旅出版 中馬 さりの 逆旅出版(げきりょしゅっぱん)の中馬さりの(ちゅうまんさりの)です。 「逆旅」というのは「宿」を意味する古語。 旅人にとっての宿のように人生の分岐点や目的地になり得る本を作っていきたい――という思いを込めて2022年4月に創業しました。 といいつつも、2年経った今ようやく「逆旅らしさ」を考える余裕ができたぐらいで、全くの未経験者が始めたひとり出版社。 創業時は、 ・どんなスケジュールで本を作っていくのか ・どこで印刷してもらうのか ・どこに卸し

        どうにかもう1回話せるように

          ひとり出版社といわないで

          圭文社 小森 順子 2016年秋、青天の霹靂というよりは藪から棒に、父から圭文社を継ぐこととなりました。 父は家では仕事の話をしなかったので、将来の話をしたこともありませんでしたが、「やるか?」と一言。 理由のひとつは、父が難聴になったことです。 今でも電話での在庫確認や注文があり、そうかといって鳴るか鳴らないかわからない電話のために、人を雇うわけにもいかず。 同時に母の物忘れが少しずつ増え、母をひとりにはできないにいないということも重なりました。 教えることが苦手な父か

          ひとり出版社といわないで

          5月の小さな喜び

          弦書房 小野静男 5月1日(水) 大分市の別府湾に面した大在(おおざい)と坂ノ市(さかのいち)を訪ねる。このあたり一帯は広大な平野となっていて、米作が盛んだった場所だ。戦時中、この平野に、「東京第2陸軍造兵廠坂ノ市製造所」(通称、坂ノ市2造)があった。 その跡地に遺された建造物や取水口・用水路を調査中のグループがあり、各所を案内していただく。当時140万坪という土地を専有し、弾薬を製造していたことがわかっている。地図も再現しているので、いずれ、熊本県の「荒尾2造」、福岡県

          5月の小さな喜び

          少しでも世の中に役に立つ貴重な研究や情報を書籍にして、後世に伝えたい

          薫化舎出版会 品川 裕香 1日3冊は読む多読家で歩くウィキペディアような、神がかった記憶力の持ち主のNが肺炎を拗らせて亡くなったのは、2018年のお正月明けのことだった。 国内有数の弁護士事務所に勤務していたNとは“残すべき情報を後世に伝える出版社を作りたいから、時期が来たら一緒にやろう”と学生時代から話しあう仲で、大事な親友だった。 少し時間を遡る。 大学を出て出版社に就職し編集者になった私は、 1991年に児童虐待の取材がきっかけで微細脳損傷、今でいうADHDや学習障

          少しでも世の中に役に立つ貴重な研究や情報を書籍にして、後世に伝えたい

          異業種から見た出版業界。

          KuLaScip(クラシップ)田口 ひとりでも出版できる時代へ突入! 2018年2月。 桜新町で開催された本について語り合うブックフェア『ポトラ』で、「これからはひとり出版社の時代だ!」と叫ばれているのを聞いた時、その1か月前にひとりで出版社を立ち上げたばかりの私は―――正確には息子と2人です。ただ、この時息子は大学3年生。会社としてはこの先も新入社員なんて採用できないだろうから助かる。しかし親としては真っ当な会社に就職して欲しい。複雑な立ち上げであった私は――奮い立ちま

          異業種から見た出版業界。

          残すための書籍

          kukui books チーフエディター 高橋 環  新聞、雑誌で仕事をしていた編集者3人が集まって、東京の駒込に小さな出版社をつくったのは7年前のことです。 まずは社名をどうしようかという話になり、当時、航空会社の機内誌の仕事で深く関わっていたハワイにちなんだ名前にしたい……そうだ、kukuiというハワイの樹木から社名を頂いたらどうかと思いつきました。  kukuiは山や森のなかだけでなく、公園やショッピングセンターなどでもよく見かける身近な樹木です。小さな愛らしい白

          残すための書籍

          ひとり出版社を始めるまで

          クオル出版 前田 和彦 はじめまして、クオル出版の前田です。福井県福井市でひとり出版社をやっております。まだ1冊の書籍しか出していない状況で、この版元日誌を書いていいものか迷いました。しかし、お声がけいただいて嬉しかったのと、これまでの自分の歩みを整理できる良い機会だと思い、思い切って書いてみました。 私は大学卒業後に、主に飲食店向けの専門書を発行する東京の出版社に入社しました。正直、入社するまで飲食店や料理についての知識はほぼ無く、時に取材店のオーナーやシェフに「そんな

          ひとり出版社を始めるまで

          AIと出版

          GLANZPLANNING 樋口 直樹 はじめましてGLANZ PLANNINGの樋口です。わが社はベンチャー出版社としては駆け出しで、しかもリハビリ関係の国家試験対策本がメインです。社員も医療系出身者ばかり、出版業としては素人で、自分たちの体験談は皆様にとってはおそらく自明なことばかりだろうと思い、このような日誌に書くことはないのかな・・・と思っておりました。しかし、この3月におこったことは記録として残した方がよいかもしれないと思い、筆をとることにしました。それはAIと出

          多様化するひとり出版社のマネタイズ

          キルティ 国本 真治  屋久島でキルティ株式会社というひとり出版社をやってる国本と申します(会社名はキルティ株式会社ですが、キルティブックスという出版レーベルにしています)。東京で、ファッション/カルチャー雑誌に特化した出版社に15年勤めた後に屋久島に移住して独立しました。屋久島という場所がインパクトあるからか、移住メインの独立の話で、新聞やテレビ他のメディア取材を何度か受けています。  版元ドットコムに参加されているひとり出版社は多いと思いますが、独立前に出版社での会社

          多様化するひとり出版社のマネタイズ

          トーハン・日販との新規口座開設記

          金木犀舎 浦谷 さおり 前回の版元日誌から今までの間の、いちばん大きなトピックはなんだろうと考えて、やっぱりこれかなと思うので、2年前のトーハン・日販との新規口座開設の顛末を書くことにします。 金木犀舎(きんもくせいしゃ、と読みます)は2016年にひとり出版社として創業。それまで東京の出版社に勤めていた私は、地元の兵庫県姫路市に戻って、子育てをしながら自分の部屋で、ひっそり出版業を始めることにしました。だれにも邪魔されずに企画・編集・装丁・組版をひとりっきりで全部やりたい

          トーハン・日販との新規口座開設記

          なぜ紙の書籍が売れなくなったか――中国の書籍販売事情

          行舟文化 張克溯  昨年、私事で中国上海に一時帰国した。用事をすべて済ませてから、学生時代によく通っていた「上海書城」へ行ってみようと思った。「上海書城」は中国でも最大級の書店であり、本屋がいっぱい並んでいて文化的雰囲気が濃いということで「文化一条街」とも呼ばれる「福州路」にある。  場所は二十年前と変わらずすぐに見つかったが、入ってみるとまず驚いたのは天井の高さだった。いつの間にかリニューアルされたのか、目視で5メートル以上もあるのではないか。しかしそれ以上驚かされたの

          なぜ紙の書籍が売れなくなったか――中国の書籍販売事情

          非独占の挑戦

          京姫鉄道出版 井尻 翔 はじめまして、京姫鉄道出版です。 紛らわしい社名ですが、弊社は鉄道関係の出版社でも、もちろん鉄道事業者でもありません。 弊社はIT業界・オープンソース界隈から、アニメ制作や出版業に参入したという、珍しい経緯を持つ一人出版社です。 私の本業はITエンジニアで、IT関連をテーマに「こうしす!」というアニメを制作する非営利団体「OPAP-JP」を主宰しています。その成果物を商業ルートで展開するために設立した会社が弊社です。弊社の社名の由来は「こうしす

          おかやまは文学のまちになる

          吉備人出版 山川隆之 ユネスコ創造都市ネットワークへの加盟認定 2023年10月31日、文部科学省からユネスコ創造都市ネットワークの認証結果の発表があり、岡山市の申請が認められ、加盟が決定した。 岡山市は、2022年3月に市民から提出された「『文学による心豊かなまちづくり』の更なる推進に向けた提言書」の内容を実現するため、新たに産学官が一体となった組織「文学創造都市岡山推進会議」を設立し、文学を軸とした創造都市づくり事業を推進することになった。筆者は提言書の提出に賛同する

          おかやまは文学のまちになる