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小さなローカル出版社が「場」を持つということ

虹霓社 古屋 淳二

5月15日から6月12日まで「小さなローカル出版社フェア」が静岡市のひばりブックスで開催された。これは、静岡県富士宮市の朝霧高原で小さく出版活動をしている虹霓社と伊豆半島のひとり出版・子鹿社と共同で企画したもの。

たとえ小さくとも敢えて東京の出版社を外して「ローカル」に絞ったのが良かったのか、思った以上に良い反応をいただき、会期中に開催したトークイベント(「港の人」代表の上野勇治さんと版元5社によるトーク)も盛況だった。

フェアの参加出版社は6社。鎌倉の「港の人」、小田原の「風鯨社」、京都の「夕書房」、滋賀県長浜の「能美舎」そして、企画者である子鹿社と虹霓社。私たちが先輩出版社としてぜひとも話をお聞きしてみたかった1997年創業の港の人以外の5社は、すべてここ10年以内に創業した版元ばかり。その5社が決まってからある共通点に気づいた。それはどの版元も「場」を持っていること。場所を得やすいローカルならではの事情もあるだろうが、それだけではないと感じた。

ひと口に「場」と言ってもそれぞれの版元の事情なり思想なりがあろう。弊社は「虹ブックス」という私設図書室(コワーキングスペースとしても)を運営しており、東伊豆の子鹿社も最近になって「本のあるオルタナスペースbookend 」を始めた。能美舎は「丘峰喫茶店」を営み、風鯨社は「南十字」という小さな本屋を運営されている。この4月に京都へ移転した夕書房は、事務所1階に自社の書籍販売と喫茶サービスを行う「文庫喫茶」をオープンさせたばかりだ。

弊社の「虹ブックス」について言えば、SNSしか宣伝をしてないので、決して流行っているとは言い難いのだが、この「場」を作ったことの影響は計り知れない。富士山麓、標高700メートルにある納屋を改装したという珍しさも手伝ってか、版元としては今までなかったテレビや雑誌の取材はもとより、県内外から本好きの方が来てくださる。そして、そういう方が意外にも自社の出版物を買ってくださる(弊社の場合は「つげ義春公認グッズ」の〝直営店〟としての役割も期待されているよう)。今年の夏でまだオープン3年だが、既に「虹ブックスさん」「虹さん」と言われるようになり、10年近く活動している版元名よりも浸透している。「虹ブックスさんは本「も」出しているんですね!」と言われるほどだ。これは、ここを作る際には予想していなかった。

たとえ閉店しても一駅か二駅行けば別の書店がある大都市と違って、地方では一つの書店が閉店する影響は甚大である。今年の2月、良書を揃えていた市内の書店(路面店)が閉店した。東京から田舎に移り住んで10年、子どもが通う保育園や小学校でも本離れを痛感。だから連れ合いは小学校での読み聞かせ活動に取り組んでいる。私にも何かできることはないか。「書店」をやる体力はもとより資金もないが、蔵書だけはあるから「本がある場所」なら作れる。本が置いてある場が近くにあれば、本をもっと身近に感じてくれるかもという(仄かな)期待を込めてのことでもあった。読書会も開催するようになり、今年9月には3周年イベントも予定している。たまたまこの原稿を書いている最中に『本屋のミライとカタチ 新たな読者を創るために』(北田博充編著/PHP)を読み、私(たち)がやっている場所は「広義の本屋」なのかもしれないと思った。

そう言えば、今回フェアに参加した版元たちと「それぞれの場所を訪ねるツアーとかしたら面白いかもね」という話をした。地方の個性的な書店/古書店をめざして本屋巡りをする人も多いと聞く。ならば、本屋巡りの際、ぜひともローカル出版社が営む「場」にもお立ち寄りいただければうれしい。
虹ブックスであなたをお待ちしております。

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