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非独占の挑戦

京姫鉄道出版 井尻 翔

はじめまして、京姫鉄道出版です。

紛らわしい社名ですが、弊社は鉄道関係の出版社でも、もちろん鉄道事業者でもありません。

弊社はIT業界・オープンソース界隈から、アニメ制作や出版業に参入したという、珍しい経緯を持つ一人出版社です。

私の本業はITエンジニアで、IT関連をテーマに「こうしす!」というアニメを制作する非営利団体「OPAP-JP」を主宰しています。その成果物を商業ルートで展開するために設立した会社が弊社です。弊社の社名の由来は「こうしす!」に登場する「京姫鉄道」です。

その第一弾として、著者として小説「こうしす!社内SE祝園アカネの情報セキュリティ事件簿」(翔泳社)を出版したこときっかけに、出版流通について学び、自社コンテンツ専門の出版部門を立ち上げることにしました。

この機会に、弊社の取り組みについて、ご紹介したいと思います。

■ 誰でも発信できる時代に、出版社が目指すべきこととは

今や、出版社を通さずに、個人で何でもできる時代になりました。個人で電子書籍を出版できます。同人誌も出版できます。商業流通の必要があれば、一人出版社も作れます。そして、私のようにアニメを制作することだってできます。YouTuber、VTuber、色々な表現手段があります。誰でも自由に発信できるこの時代において、出版社は何ができるのか。

様々な考えがあると思いますが、重要なことは、作家のコンテンツの流通手段の一つとして選ばれることではないでしょうか。
そして、その方法の一つが、あえて出版社が「独占」を手放すことなのではないかと私は考えています。

出版も含めて、コンテンツビジネスは「IP(知的財産権)の独占」を基本として動いています。

出版の場合は、出版権を設定することにより、出版社は著者の原稿を書籍として複製して販売することを独占できます。出版権は原作そのまま出版することの権利ですが、出版社によっては、シリーズ単位での独占条項を盛り込んだり、二次利用も含めて独占的許諾条項を盛り込む出版社も存在しているようです。

確かに、独占することは、ビジネスとしては当然です。出版社は一つの本を出すために、いくら節約しても50万円以上、現実的には100万円、200万円と投資しなければなりません。利益を享受するために権利を独占するというのは、ビジネスとして当然の権利です。

けれども、マルチな活動をする作家の販路として選ばれるためには、その「独占」が大きな障壁になっていると考えられます。例えば、「同人誌版は今後も増刷して継続販売したい」「自分で自由な内容の同人誌や同人誌のKindleを出したいのに、シリーズ関連作というだけで、一々出版社にお伺いを立てなければならない」という状況が発生するなら、作家にとってそれは作品の可能性を潰されることに他なりません。

「いいよ、いいよ、相談してくれたら許可するよ」

と編集者は言うかも知れません。

ですが、それでも作家の心理的障壁であることは違いありません。
出版社の許可の手前、お行儀の悪い作品を作るわけにはいかないという心理が働くからです。

かといって、「非独占型の契約にしてほしい」「類似書籍の条項を外してほしい」「二次利用条項を外してほしい」と新人作家が要望することは困難が伴いますし、出版社によってはそれを受け入れないことでしょう。

作家の視点では、「同人誌の方が自由に書けて儲かる」「YouTubeで配信するほうが自由な内容で発信できて儲かる」なんてことになれば、一々許可を必要とするような出版社は情報発信手段として選ばなくなります。

だからこそ、販路の一つとして選ばれるために、弊社では、長い目で【自由】を重視し、【非独占】許諾契約に統一しています。

■ 具体的な取り組み

ただ、単に【非独占】にしたからといって、著者が集まるわけではありません。

実際、弊社でも色々な著者候補の方に声を掛けていますが、少部数専門の出版社であることや、実績が乏しいこと、そして社名が怪しすぎるためか、企画はまだ実現していません。現時点では、もっぱら、自社関係コンテンツ専門(※)の出版社です。

※厳密には「こうしす!」は元々は非営利団体「OPAP-JP」で制作しており「自社コンテンツ」というと少し語弊があるため、ここでは「自社関係コンテンツ」と表記しています。

とはいえ、著者が集まらないので仕方なしに、自社関係コンテンツの出版やアニメの制作などを行なっているわけではありません。
これは、将来のための種まきだと考えています。

弊社では、自社関係コンテンツを制作し、世界設定、キャラクター設定画、アニメ素材などを、誰でも自由に使える素材として公開しています。しかも、その素材の利用規約として、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスという世界共通のライセンスを採用し、日本に限らず世界中で誰でも自由に作品を使いやすいようにしています。

具体例としては、アニメ「こうしす!」や、漫画「伏石ちゃん」が挙げられます。これらは同じ世界観を共有しているクロスオーバー作品群です。兵庫県姫路市に本社を置く設定の架空の鉄道会社「京姫鉄道」を中心に、21世紀から24世紀までの世界観が構築されています。

言うなれば「マーベル・シネマティック・ユニバース」の「こうしす!」版、「こうしす!ユニバース」です。

ハックしないで監査役!! 小説こうしす!EEシリーズ 元社内SE祝園アカネ 監査役編 [1]
伏石ちゃんは意図に反したい ~ハッキングから始まる高校生活~
アニメ「こうしす!」公式サイト

一から作品を立ち上げるのは大変です。そこで、一つの世界観を作り上げ、そこに自由に相乗りできるようにすれば、創作のハードルは低くなります。もし将来「こうしす!ユニバース」を土台とした二次創作作品が増えれば、そられの二次創作者を招いて、出版を通じて公式化することで、良いサイクルを回す――。

そして、最終的には、現実とクロスオーバーして、弊社が実際に鉄道事業者になり、史実では幻に終わった「京姫鉄道」を実現することが夢だったりします。
(そのため、弊社の登記簿には、会社の目的として「鉄道事業」を記載しています)

もちろん、心ないフリーライドのリスクはありますが、そのリスクはいったん飲むことにしています。

今後どのように「こうしす!ユニバース」が育てていくのか、そして、それを活用して、出版社としてどのように規模を大きくしていけるのか、まだ悩みは多いですが、ぜひ(生)温かい目で見守っていただければ幸いです。

■ 告知

弊社では、現在、山形県の架空の鉄道会社「蔵王光速電鉄」を舞台としたIT系コメディ「ざおでんDX(仮)」シリーズを企画中です。
この作品は、DX(デジタル・トランスフォーメーション)をテーマに、DX担当者や経営者のDXにまつわるお悩みをコメディ化するものです。
ショートアニメの制作や、書籍化も企画に含まれております。

時期は未定ですが、クラウドファンディングも実施する予定です。
ぜひ皆様のご支援、ご協力をいただければ幸いです。

京姫鉄道出版の本の一覧

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