見出し画像

譜面の功罪(1)〜ゼロtoワン

現在このページでは「作例研究」という形で、

  • スタンダードのオブリガートを作る=オブリ研

  • スタンダードのアドリブソロを作る=アドリブ研

という企画をやっています。
しかし私自身は旧世代の人間で、このように譜面を書くやり方でジャズを習得したわけではないのです……。
ですが、歳下のジャズ初学者と接していて、このように譜面の「作例研究」に一定の意義があると思うようになりました。

ジャズのアドリブソロの習得方法。

アドリブの習得については

「トランスクライブ(耳コピ)」→「アナリゼ」→「演奏」

が昔も今も王道です。

(天才ピアニストゆうこりんも言っていますね!口悪いなあ笑……)

「理論」も重要ですが、正直、理論はこの練習→演奏サイクルを補強する「アナリゼ=分析」に役立つだけで、理論ではアドリブできません。
耳コピや実際にソロを吹いて「わからーん!」ってなったところで斜め後ろから「お客さん、いいブツ(知識)ありますけど…」とにじり寄ってくる時のみ、理論は力を持ちうる。
「疑問?」→「解決!」が理論の力。

また、
「アドリブのソロの譜面」「ジャズのEtudeを購入」し練習する方法もあります。クラシックや吹奏楽歴の奏者はこのやり方を選択しがちです。譜面に強いから。
もちろんこのやり方が役立たないとは言いませんが、クラシック特有の致命的な欠点があります。

  • 自分でクリエイションをしない。

  • 「譜面を演奏する」という意識からのがれられない。

自分なりのクリエイションを行うこと

楽器の演奏能力の高い人は、なまじ完成度の高い譜面を再現できるだけに、「自分のうた」から目を背けがちです。
メロディメイクよりも、いわゆる「ジャズの音源=お手本」にある複雑なフレーズをできないと…となりがち。
クラシックや吹奏楽の文脈でジャズに取り組むと必然的にそうなる。
でもそれでは、アドリブソロは吹けない。
アドリブは「再現芸術」ではないから。
自分なりのフレーズをつくる作業は必要です。

「自分だけのオリジナルなフレーズを作れ」とかじゃないです。
フレーズは借り物でもいいけど自分の意志でそれを発すること。
最初からピロピロしているフレーズを丸写ししてもアドリブにはなりません。まずは、そんなにピロピロしていない自分の言葉の「芽」を生やし、そこからテクニックでピロピロの枝葉を生やしてゆく、そういう二段階が必要だと思います。

「譜面を演奏すること」の問題点

すでに出来上がった譜面を演奏することと、アドリブでは、本質的に脳の使っている領域が異なります。
自分の言葉で会話をするのと、書いてある文章を朗読するのでは、本質的に脳の使っている領域が異なるように。

「自分で話す」ためには、朗読だけではだめ。

ただクラシック的な練習(朗読)に慣れた方は、その練習に向き合いにくい傾向にあります。「正解」をさがしがちなんですね。
使ったことがない脳内の筋肉を筋トレする必要がある。

トランスクライブは大事だけれど…

話を戻します。
トランスクライブ(耳コピ)を行い本物に迫る行為はとても大事。
これはもう間違いない。絶対的な真理です。

けれども、これ「ジャズを演奏したい!アドリブをやりたい!」という強い思いがそもそも前提なんですよ。

つまり1→10にする方法論。
ゼロを1にするわけではない。

トランスクライブ至上主義は確かに正しい。ですがトランスクライブは必要条件であって十分条件ではない。

「ゼロ」からトランスクライブだけすると、単にジャズのアドリブ「譜」が吹けるようになるだけ。
でも「1」からならトランスクライブにより10や100に到達できます。

「理論」でスケールやフレーズを覚えるよりずっと効果的です。

すべての人間がジャズのアドリブをする必要なんてない。
だから「1」をすでに持っている人、やりたい人だけアドリブやりゃいい。

これが基本的なジャズ教育の出発点です。

では、ゼロを1にするためにはどうするべきか?

ゼロを1にする段階は、各人に委ねられています。
音大も、ジャズ研もゼロを1にはしてくれません。
吹奏楽勢がアドリブに取り組むにもかかわらず、撤退率が高いのは、このためだと僕は思っています。

なんとなく大学に入ってまで吹奏楽やるのもなあ、とジャズ研に入って、アドリブを吹く先輩かっこいいなと思って…みたいな「1」までじゃないけど、「0.3」くらいまできている人。そう、あなた。
あなたを「1」に持っていけたらいいなあ、と思います。

田植えの前に苗代が必要であるように、0を1にすることが必要。
すべてはその後です。

壁をこわすために

アドリブのためには、なんらかのクリエイションの練習が必要です。
それが全くのゼロだったら、いくら複雑なフレーズの練習をしても、アドリブにはならない。
アドリブ0を1にするための練習はどうしたらいいでしょうか?
それは、練習でさえないかもしれない。
技術ではなく、マインドですね。マインドを鍛えましょう。

クリエイションに対するハードルを下げる

まずは、初歩的なレベルでクリエイションを行うことに慣れた方がいい。

一番いいのは、鼻歌です。
「釣りはフナに始まりフナに終わる」といいますが、アドリブは鼻歌に始まり鼻歌に終わる、といってもいいでしょう。

鼻歌モノマネ:自分の好きなCDを聴きましょう。好きなプレイヤーのソロを聴き、そのフレーズを鼻歌でコピーします。で、ソロ終わりから、音源を止めて、自分でその続きを歌ってみる。もしくは四コーラスあるなら三コーラス目でとめて四コーラス目を自分で歌ってみる。そうすると「その人の感じ」を自分に乗り移らせたままちょっと歌えたりします。
ブルースで音数しぼって:ブルースなどのシンプルな曲で、ある一つの音だけを使ってアドリブをしてみる。慣れたら二音、三音と増やして、自分なりのアドリブをする。当然 CDで流れているようなアドリブにはなりませんが、自分なりにクリエイションを行う第一歩には手っ取り早い。リズムがかっこよければシンプルな音使いで、かっこよく吹くことは可能です。
メロディフェイク:テーマメロディをジャズっぽく崩す練習。これは突き詰めると難しいし、リズムとメロディメイク能力が問われる。ちゃんとできたら、プロ、といってもいいくらい難しい練習です。
しかし、ちゃんとできなくてもいいからやりなっせ?
「決まったもの」を自分で壊す練習です。クラシックの方にはズボン履いたままおしっこするくらいの抵抗感があるかもしれませんけど。
これをちょっと試してみて、不全感を感じたら、ルイ・アームストロングを聴きましょう。そこに答えが詰まっているかも。

こうしたトレーニングを試してみてください。
手軽にアドリブのクリエイションのきっかけ作りになるとは思います。

安心してください。
このトレーニングでは、0を1にするだけです。
なんなら0.5くらいでもいいです。

もしゼロを1にできたら1を10にする練習は従来通りのジャズ練習の方法論です。ここがゼロのままで練習・お勉強・理論に行く人が多すぎるんだよな。

時間をかけてクリエイトする

クラシックの「譜面をみて演奏する勢」に対し、ではその譜面を作ってみては?というのが本章のタイトルになっている提案です。

その場でアドリブは、やはり難しい。
コード進行に即した音使いができて起承転結もとれたソロならなおのこと。
瞬間的にそれを行うのは技術的なハードルが高い。

しかし時間をかけて譜面の上でクリエイションを行う場合、技術的な難易度はずいぶん下がる。
もちろん最初から上手には作れない。
最初は「なんやこれ?」という感じになるはず。
しかし、セッションでわかっていないのに瞬間芸を何回やってもうまくなりませんが、譜面だと誤りに気づくことはできる。
多くの教訓を得られる可能性もあります。

従来は、ジャズ研学生の全体に対し、アドリブできるのは(ジャズ研にもよりますが)10%から20%がせいぜいです(特にフロント楽器!)
できないソロを100回繰り返させて、100の失敗に耐え、幸運にも糸口を見つけた人間のみがサバイバルしアドリブができるようになる。
それも一つのあり方ですが、でもアドリブってそんなに難しいものでもないんですよ?と思います。

譜面から自由になること。
吹奏楽では、自分で譜面を作る経験はあまりしません。自分で自分の譜面を作ると、楽譜はただの言葉でしかないことを再確認できます。

譜面を作るメソッドが、どれだけ効果は持ちうるのかわかりませんが、吹奏楽やクラシック勢にとっては、譜面に強いという強みもあり、試してみる価値はあるんじゃないかなとは思います。
背伸びをするとキリがないですが、背伸びせず、簡単なソロを書いてみてはいかがでしょうか?
もしできたら、身近なソロ取れる人に相談してみてはいかがでしょうか?

まとめ

  • トランスクライブは最も上達への近道であるが、1→10の方法論であり、0を1にするものではない。

  • ゼロから1にするのは、技術よりはマインド。何らかのクリエイションを行うという意志をもつこと。

  • クリエイションはクリエイションすることからしか学べない


よろしければサポートお願いいたします!サポート頂いたものについては公開して、使途はみんなで決めたいと思います。