ファントム・アンド・テイク・ファイブ
「♪立ち止まって少し話でも如何」
街灯の照らす路地。
眠らない街明かりからわざわざ一本離れて、五拍子を刻む男。
傍らには大きなギターケースの口が開き、帽子が逆さに置かれている。
中身は空だった。
「♪忙しい日から離れて話でも如何」
アコースティック・ギターの音は闇夜に溶けるようにくぐもって、口ずさむ声は囁くようだった。
だからだろうか。
「その歌は」
五拍子に割り込む不機嫌な少女の声は、その路地裏ではひどく浮いて響いた。
「嫌味ですか」
「♪日々何とか過ごし切ろうと努めている