カーテン TRPG プリンター
「俺は――俺はそいつを取り戻す!」
少年が叫び、男は嘲笑する。
「ハハハ、莫迦らしい。この”精神砕き(スピリット・ブレイカー)”の前でよくほざいた!」
その腕には、がくがく震える少女の姿。
「バカじゃねえ! 返さなきゃ力ずくだっつってんだ!」
「それが莫迦だと言うのだ。彼女は”能力”を持っている。それを活かす事の何が悪いと言うのかね」
不敵な男、その前で拳を握る少年の隣へ、一人の少女が立った。
「”能力”は正しく使われるべき。貴方達悪しき者の手に渡る事は不適切。ゆえに、私達が回収する」
淡々とした口調。その手には、銃が握られていた。
「その通り。残念だが”精神砕き”、君は行き過ぎだ。彼女を返さないなら、最早交渉の余地すらない」
少女の一歩後ろで、ポケットに手を突っ込んだ壮年の男が言う。
「だ、そうだ――私は雇われの身ですが、雇い主がそう言うなら従わざるを得ない。悪く思わないでくださいね」
壮年の男の隣、スーツの女性が手袋をパチンと鳴らす。
「ふ、交渉の余地すらない――か。崇高たる目的を理解しないものはこれだから」
「うるっせえ!!」
男の嘲った声に、少年は激昂する。
「どうして怒る? 君にとって彼女はただの幼馴染みに過ぎないだろうに」
「ただの幼馴染みじゃねえ!俺は――俺は――!」
少年は幾度か繰り返した後に、大きく息を吸い、きっ、と男を睨めつける。
「俺は、そいつの事が――」
シャッ。
カーテンが開いて、締め切った部屋に朝日が差し込んだ。
「あだだだだ! 目が痛い、目が!」
少女、或いは嘲笑を浮かべた男が目を押さえてのた打ち回る。
「あーあ、もう朝かー。またタイムリミットだよ」
壮年の男性は、ヘアカチューシャの位置をずらしながらため息をつく。
「また間に合わなかったな。やっぱ三時間は無理じゃないか?」
スーツの女性が鉛筆とダイスを机に置き、身体を伸ばす。
「うーん、やっぱり難しいね……」
少年は額に手を当てて、難しく考え込む。
カーテンの前には、タイマーを持った長髪の少女が朝日をバックに仁王立ちしていた。
「2時間でクライマックス前まで。随分早くなりましたけど、これじゃコンベは無理ですよ」
長髪の少女はタイマーの数字を見せつける。そうすれば、それはちょうど00:00:00を指してピピピピと騒ぎ始めた。
「はー。俺も駄目かぁ」
少女であり男であった彼は、開いていたノートをぱたりと閉じて目を覆った。
「どうしたもんかねー。あたしも駄目だったしさー」
壮年の男性だった彼女は、結局位置の落ち着かなかったヘアカチューシャを外して寝転がる。
「ねーむいー」
「すぐ一限だろう」
スーツの女性だった彼がぽこっと丸めた印刷紙で彼女の額を叩く。うげ、と出した舌が返ってきた。
「僕が起こすんで、先輩方は少し寝てください。片づけときます」
少年だった彼は苦笑して、長髪の少女から飲み物を受け取る。
「僕、昨日日中寝てましたし」
「元気だなー。さっすが一年」
ノートをぱたぱたさせる勢いで、彼は少年だった彼の頭をぺしぺしと叩く。
「んじゃ、お言葉に甘えよう。俺は昼でいいから」
「同じく」
「あたしは三十分したら起こしてー」
ばた、ばた、ばた、と次々倒れていく三人。
寝息が立つまでには数分と待たなかった。
ふぅ、と息をついた彼の隣、長髪の少女が腰かける。
「最後、キミだね」
「うん、そうなるかな」
とんとんと紙をまとめ、消しカスをささっと纏め。
「二時間って、びっくりする程短いよ。サンプルキャラ使っても」
「うん」
「私、ダメだったしね」
ふわ、と欠伸をする少女。
彼は、そうだね、とそれを横目にダイスをざらざらとケースに片づけて。
「びっくりする程、短かった」
「なんにも、出来なかったね」
「僕らはこれからだよ」
「キミは、でしょ」
「そうかな……そうだね」
シャーペンや消しゴムをカップに放って、ふぅ、と息をつく。
「難しいだろうなあ」
「そりゃあそうだよ」
先輩たちでも、難しかったんだから。
彼は、お気に入りの十面ダイスを見つめた。
「出来るかな」
「やんなきゃ。手伝うよ」
少女は、それを取り上げてころりと転がす。
6。
「期待値ちょい。悪くなくない?」
「そうだね、悪くない」
期待より、ちょっと上の目。
彼は少しだけ笑みを見せて、
「よし。ついでだし準備しよっかな」
立ち上がり、伸びをする。
「プレイヤー、やってくれる?」
「勿論」
「よし」
立ち上げたPCを操作して、USBコードを繋げる。
「それじゃ、刷ろっか」
カタン、とエンターキー。
三人の眠りを守るように、静かに動き出したプリンター。
吐き出したのは、プロフィールもデータも真っ白なキャラクターシート、何枚も。
「どんなキャラが来るかな」
「さあ、まだブランクだもん。分かんないよ」
彼はカーテンの向こうを眩しげに見つめる。
「そうだね」
ブランクキャラクターシートを、朝日に透かして。
「まだ、分かんないや」
期待値ちょい上。6の目のダイス。
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