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#眠れない夜に

 眠れない夜がある。

 それは、昼寝のしすぎかもしれないし、はしゃぎすぎて眠る体力も失ってしまったからかもしれないし、嫌なことばかり考えて眠りから遠ざかっているのもあるかもしれなくて
 わたしはわたしのことを、よく知らない。
 眠りたい気持ちの反対側に、身体はしずしずと流れてゆく。

 眠ることを、時折諦める。

「目をつむっているだけでも、体力は回復するからね」

 むかし、好きなひとがそう言っていた。
 もう会えないから、嫌いにもなれないひと。
 オレンジの灯りの部屋で、おしゃべりをして、たぶんわたしが、わがままを言ったんだと思う。ひとつ年上のあなたに、ずいぶん甘えて、お兄さんみたいな顔を、いま思えばさせてしまっていたんだと思うのだけれど。
 そう言って笑っていた。気がする。
 年々、それは記憶ではなく妄想かもしれないという気もして、そして確かめることもできないけれど。

 それでも、気持ちの反対側に進んでゆく、今のわたしの身体よりも、信じるに値するというか。信じたいじゃないか。

 あなたの言葉を繰り返して、自分に魔法をかける。
「あと3時間も眠れる」とか、あるいは「もう3時間も眠った」とか「よく寝た」なんて言ったりして。
 自分を騙してゆく。
 それは、眠れない苦しさとは反対側の、心地よさにあって
 わたしはいま、眠れない夜にだけ、あなたのことを思い出している。


 人生は、自分を騙すことの連続だといったら
 あなたは、なんというだろうか。



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