見出し画像

いつか、遠くへ行ってしまっても

昨日眠ってしまったのは、まくらのせいだ。と思っている。

実際のところは怠惰なわたしのせい、というのはわかっているんだけれど
まくらの吸引力というか、新しいこのまくらは、もふもふしている。
使い古して、べたんとなったアイツとは、ぜんぜん違う。
包まれている、と思う。
それは、許されることに似ている気がした。

買ってよかった、と思う。
長年の付き合いのまくらを手放して、IKEAで500円のまくらを買ったのは、数日前の出来事だった。

ずいぶんと悩んだ。
いや、悩んでいた。

長年使っているまくらは、そろそろ手放すべきだ。
そんなことは、わかっている。
でも、新しいまくらに変えて、落ち着かなかったらどうしよう。
むかし、テンピュールのまくらを買ってもらったのに、なんだか寝付きが悪くなったあのときのことを、今でも覚えている。もう、何年も経つのに、悪夢みたいに。
「これでゆっくり眠れるね」と笑顔で差し出されたはずなのに、どうも落ち着かなくて、相手の好意を踏みにじってしまったような自分に、勝手に絶望していた。
だから、まくらを新調できる機会は何百回もあってのに、素通りしてきてしまった。

いろんなものを整えて、
もう次は、まくらくらいしかなかった。
「いいじゃん」と隣で微笑んでくれた友達に後押しされて、購入を決めた。
「この値段ならさ、へたったら新しいの買えばいいし」と言われて、その通り過ぎて何も言えなくなった。
気に入らなかったら、あっちにある400円のまくらとか、700円のまくらを試したっていい。

だいじょうぶだ、やってみよう。

笑いながらレジへと向かうわたしの心はかろやかな反面、少しの不安に覆われていた。

買ってよかった、と思う。
数日経っても、そう思う。
毎日包まれて、許されて、
ああ、こんなことなら早く買えばよかった。

何かを手放すのは、いつも寂しいし、「新しい環境でうまくできなかったらどうしよう」という不安は外せないセットみたいなもの。
いまの環境も悪いわけじゃないし、なんていうふうにも思う。

だから一緒にさ、「うまくいかなかったら、その時点からもう一度考えて、歩みだせばいい」っていうところまでセットできたら、
もうちょっと、いろんなことに踏み込めるかもしれないね。

わたしはしばらくしたら、このまくらの幸福も忘れていってしまうかもしれない。
去年買って感動したブランケットに、今年は同じ気持ちで向き合えないかもしれない。
わたしは、去年のほうが幸福を噛み締めていたかもしれない。

それでも、
暮らしを快適にアップデートして
思考もちょっとずつ変わっていって

それでも、
幸福だった瞬間というのは、
遠ざかっても消えてしまうわけじゃなくて。

わたしは、まくらの幸福も忘れていってしまうかもしれない。
いつか、「包まれている」とか「許されている」と思えなくなって、当たり前の日々になってゆくのだと思う。

時折でいい、
この日踏み出した、勇気と言うのもはばかられてしまうくらいな小さな一歩で得た幸福を
思い出せるような心の隙間を、余裕を
忘れずに生きていきたいな、って。思ってる。



まくらを買ったときのはなし

ブランケットを買ったときのはなし




スタバに行きます。500円以上のサポートで、ご希望の方には郵便でお手紙のお届けも◎