見出し画像

信じている飲み物

友人は、時間ぎりぎりに集合場所に現れた。
さっき電話をしたら「寝てた」と言っていたので、いまここで顔を合わせているのは奇跡だ。

わたしは、おとなみたいに余裕な顔をして(わたしもぎりぎりまで、”どうぶつの森”で遊んでいたのを悟られないように)、「コンビニで飲み物でも買う?」と言った。
友人はほっとした顔で、「コンビニ寄ってもいい?」と笑った。

友人が選んだのは、モンスターという名前のエナジードリングだった。
鮮やかな、緑色の缶。
へえ、最近はそんなの色のやつもあるんだ。と思いながら、何味か聞いてみたけど、名前からは味を想像できなかった。
友人は、元気を出したいときには、モンスターを飲むのだと言う。

わたしにも、信じている飲み物がある。
レッドブルとか、モンスターとか、缶の飲み物をたくさん飲むのはあんまり得意じゃないので、わたしは近年「エスカップ」を信じるようにしている。
眠いときも、頭が痛いときも、「なんとかしなくちゃ」というときは、エスカップと決めている。
会社勤めをしているときは、パソコンのディスプレイの裏に、何本か常備をしていた。
近所のスーパーで、12本入りで700円くらいで売っているのを買って(安すぎる)、何本かずつ運搬していた。

わたしの「瓶の、黄色い飲み物」への信頼は、もう10年以上続いている。

最初の記憶は、大学4年のときで、リポビタンDだった。
大学の軽音部の”選考会”の朝。
選考会には、10バンドから、多いときは30バンド近くが参加して、投票結果で上位の3バンド〜6バンドくらいが、ライブハウスのイベントに出演できる、というもの。
それはとても大切な日だったのに、なんだか身体が重たくて、でも頑張りたくて。
大学4年の、最初の選考会。
今までは先輩に守ってきてもらってばかりだったのに、今回の出演バンドのメンバーは全員ひとつ年下の後輩で、初めてのことだった。
今までにない、緊張感だったことを覚えている。

どうにかしよう、と思って、瓶の飲み物なかでいちばん有名なやつ、リポビタンDを飲んで選考会に出たら、上位のバンドに選ばれることができた。
このとき演奏した曲は、椎名林檎さんの「ギブス」だったことも、今でも覚えている。

それから、願掛けのように、瓶の飲み物を飲んでいる。
選考会に受かった、勝利の記憶。

時には、キレートレモンだったり、瓶じゃなくて缶のリアルゴールドだったりしたけれど(これは、小さいので缶でも飲みきれる)。
あのときの記憶が、いつもわたしを後押ししてくれる。
だからいまでも、信じている。

信じている飲み物がある、というのは、ずいぶん勇ましい気持ちにさせてくれると思う。
100円とか、それに近い値段で、どこにでも売っているもので、いつでも自分を鼓舞できる。

どんな生き方をしていたって、苦難は続くのだから、それくらい甘えたっていいじゃないか。
そういう魔法を、いくつか持ち合わせていたっていいじゃないか、と思っている。


スタバに行きます。500円以上のサポートで、ご希望の方には郵便でお手紙のお届けも◎