満たされている、ということ
「あ、」と思う。
なくなる、と。
会社で、家で、
そういう場面に出くわす機会は、少なくない。
トイレットペーパーが、ハンドソープが、アルコール消毒が、なくなってゆく。
わたしは、静かに予備を用意したり、詰め替えたりする。
*
満たされている、というのが好きなのだと思う。
*
いつからか、そうなった。
初めての同居が、きっかけだったかもしれない。
食料品は相手が、生活用品はわたしが買うようになって。
そのときのわたしは怪我でずたぼろで、やることもなければできることも少なくて、お金もなかったから
薬局に行ってトイレットペーパーとか、ボディーソープを買う。
合法的な出費。
なくなる前に、きちんと買い足して詰め替える。
あのころは、恐れていたのかもしれない。
なくなってしまうことを。
なくしてしまったことを。
なくなる前の準備ができない自分を、すごく愚かな生き物だと感じ、ひどく落胆する未来が見えていた。
*
いまでは「ティッシュないや〜」と、へらへら笑ったりもするけれど、
やっぱり、満たされることが好きだ、と思う。
きちんと、予備があること。
なくなっても、寂しくない状態を整えてゆくこと。
「誰かがやってくれる」と祈らないこと。
うんとむかし、実家に暮らしていたときは、なくなったトイレットペーパーも放置ししてしまっていた、そういう子供だった。
困ったら助けてくれる、守ってくれる、誰かと暮らしていたときのこと。
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まあいろいろあるけれど、
オフィスの隅にあるストックを取りに行くなんて大した手間じゃないし、タイムカードを切ったあとでもやるよ。
給湯室のペーパータオルが、残り一枚になったとき
わたしはストックを拾って、給湯室に投げ込んだ。
【photo】 amano yasuhiro
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