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あんなに騒いでいたのにね

「そういえば、ピアス開けた?」と問われて、少し考えた。
 そういえば、彼女にはまだ話していなかったかもしれない。二年前の秋に開けた、左耳のピアスのこと。
「開けたよ。左に、もうひとつ」

 最初のピアスを開けたときに、手助けしてくれた友人だった。
 大丈夫だよと励ます彼女の耳には、10個近くだか、10個以上の穴が開いていた。まだ増殖し続ける穴を見ながら励まされて、わたしもピアスを開けることに決めた。

 ファーストピアスを外すときは、もうひどい騒ぎで
 硬くて自分で外せなくて、また別の友達を呼び立てて、ぎゃあぎゃあ騒ぎながら外してもらった。血が出て、ちょっと泣いた。

 左右にひとつずつあればいい、と言っていたピアスだけれど、あれから三年ほど経った二年前の秋、もうひとつ開けてみた。
 もうひとつ穴があったら、片耳のピアスをお裾分けできたのにね。と言われた、その帰りに開けた。
 病院で、やっぱり不安で泣きそうだったけど、あっというまだった。
 開けるときは、彼女の10個の穴について思い出していた。髪を染めるように、ピアス穴を増やした人。
 ライブ前に髪を染めるってのはわかるけど、ピアスを開けるってどういうことよ……でも、それくらい身軽な人だった。そしてわたしは、それを思い出していた。
 すべてが瑣末なことで、笑い事みたいで、そんなふうに生きていた友達のことを。

 彼女は、わたしの答えを聞いて少し黙った。
 それから「あんなに騒いでたのに、また開けたんだ」と笑った。

 ほんとにね。あんなに人生の一大事みたいだったのに。
 でも、本当に一大事だったんだよ。


「怪我も病気も結婚も、人格が変わるわけじゃないから。ピアスを開けたからどうかくらいの違いだよ」

 そう言ってもらった夜を、いつまでも忘れない。
 瑣末と言い捨ててしまうのは憚られるような出来事ばかりの人生だけど
「あんなに騒いでいたのにね」って
 たくさんのことを笑って、乗り越えられると良いと、そんなわたしとあなたでいたいと
 今日も、信じている。





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