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初心のチーズバーガー
「ねえ、帰りにマック寄らない?」
買い物を終えて、夕方になる手前。
駅のホームで、買い物に付き合ってくれた弟(のような人)に提案をした。
このあとは、家で一緒にゲームをやる約束だ。
ばんごはんにはまだ早いし、おやつとして、なかなか良い提案だと思った。
「いいですね」
安定した返事が帰ってきて、スマートフォンを一生懸命に覗き込んでいた。
マックのクーポンを調べてくれているらしい。
でも、わたしは買うものを決めていた。
*
「チーズバーガーを買ってきて」
欲しいものあったら買っていくよ、というと
定期的に、この返事が帰ってきた。
友達の家に行くときだ。
あのとき、彼女の家の最寄りは、2駅あって
わたしが利用しているほうの駅にだけ、マックがあった。
買うのはいつも、チーズバーガーだった。
あのときわたしたちは、チーズバーガー以外をあんまり食べたことがなかったように思う。
チーズバーガーがいちばん美味しいと、信じてた。
20代前半のわたしたちは今より、うんと不安定だった。
金銭的にも、精神的にも。
他の何かを選んだり、買ったりする勇気は、持ち合わせていなかった。
「やっぱり、チーズバーガーは美味しいね」
夏も冬も、わたしたちは同じことを言っていた。
たまに食べると美味しいよね、なんて言って。
*
いまでも、同じ友人とマックを食べることがあるけれど、最近は食べていなかった。
ウーバーイーツの利用頻度も上がって、わたしがマックを買っていくこともなくなった。
いまでも、時々食べる。
たまに食べると美味しいね、とやっぱり言う。
最近は、ナゲットとか新作を頼んだり、そういうことができるようになってきた。
*
「それでも、初心はやっぱり、チーズバーガーなの」
電車で、隣の席の弟に、話しかける。
「やっぱり思い出すんだよね、あのときの」
不安定で、未熟で、必死で、がむしゃらで、
たくさんのものに傷ついて、ケンカもした。
野心的で無敵だったのに、いつでもなんだかズタボロだった。
あのときの気持ち。
話はそれで終わって、わたしたちはまた、近況とかゲームの話に戻ってゆく。
弟はもう、この話を覚えていないかもしれない。
それでも、
久し振りに薄いハンバーガーにかぶりついて、懐かしくて、ぶわりとあふれる記憶。
あのときとはもう、別の色をまとっているかもしれないけれど、ずっと消えない。
わたしは人生で何度も、思い出すように
これからも、初心のチーズバーガーを、食べるのだと思う。
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