見出し画像

よるべない女

「よるべない」という言葉を教えてくれたのは、夏木マリさんだった。

正確には、当時付き合っていた恋人に勧められた、夏木マリさんのCDだった。
13シャンソンズ
衝撃的なCDだった。
彼が、「夏には夏木マリを聞く」と言っていたので、夏になると今でも思い出したりする。

このCDの1曲目は「私のすべて」という曲で、
「私は、でたらめで気まぐれで生意気で」と散々どうしようもない部分を挙げたあとに
「だけど私は許されるの、それは私が綺麗だから」と言ってのける。

いまだって、自分自身が何者か、旅人のように探し続けて、かき集めた自信だって、すぐにどこかに落っことしてしまうような人生を送っているのに
ハタチそこそこのわたしに、とてつもない衝撃を与えたことは、想像に難くない。


「よるべない」という言葉は、「鎮痛剤」という曲に出てくる。

これは、
「退屈な女よりもっと哀れなのは、悲しい女です」からはじまり、
「悲しい女よりもっと哀れなのは」と、どんどん哀れグレードが上がっていく。
曲の最後まで、ずっとそう。

「よるべない」という言葉は、この曲の後半に出てくる。
当時、聞いたことがない言葉だったので調べてみたところ、当時のわたしの解釈では「身寄りがない」という意味だった。
独身または、夫や恋人がいない状況、のように思えた。
そんな風に思えたわたしは、恋人がいることをしあわせに思っていたのかもしれない。
ばかだなあ。


今また、「よるべない」という言葉の意味を調べてみた。

Webio類義語辞典の内容が、結構衝撃だったので画像にしてそのまま貼ることにする。
類義語で見てみると、昔のわたしが感じた「身寄りがない」という意味合いと、ぜんぜん違う。

スクリーンショット 2020-06-29 21.22.03


ソワソワした、落ち着かない、居場所がない、行き場がない、落ち着かない、きまりが悪い、バツが悪い
こうして、いくつか適当に読み上げても、なんとなくわたしにとって、親しみのある言葉たちだった。
よく、わかる気がした。


よるべない女は、わたしかもしれない。

きっと、わたしのことだ。
これは、わたしが人生で大切にしてしまっていることだ。

正社員になるつもりもなければ、同居人はいるけど結婚には興味がない。
居場所と呼べるバンドは、すべて辞めてしまった。
いまなんか無職だし、社会のどこにも属していない。

どこにも属していない。
どこかに属したいわけでもない、安心したいわけじゃない。

きっとわたしはずっと、ソワソワしていたいんだ。
安心したくなんかないんだ。
夏木マリを教えてくれた男とは、安定したくないから別れたんだった。(もちろん他にも理由はあったけど)
あのときは、守ってもらうことが嬉しかった。
どうかしていた、と今では思う。
恋とは、幸福な思い込みだ。そしてあのときは、確かにしあわせだった。


止まり木みたいな人生を送っている。
ふらふら、ふわふわしている
ときどきそのことに、その事実に息がつまりそうになる。
でも、安定した場所で暮らしていても、わたしの場合は息がつまる。
必ず、そうなる。


やっぱり、わたしはよるべない女なんだと思う。


なんて言ったら、
「どうせ君は、一緒に暮らしている同居人がいるから、そんなに悠長なことが言えるんだ」と言われると思う。
それは、確かにそうだ。

彼が、わたしの孤独の不安を癒やしてくれないことを知っている。
もちろん、後押しもしてくれるし、支えてはくれるけど、
孤独や不安を、えいっと打ち砕くのは、わたし自身しかいないのだ。


やっぱり、わたしの人生には、わたししかいないし
わたしは、よるべない女なんだと思う。



なんて言わせてくれるのは、やっぱり同居人がいるからだろうと思う。

わたしは、自分の行動を制限されると本当に腹が立つので、
絶対に、同居人の行動を制限しない。
「今日帰り遅くなっていい?」なんて訊かれると、腹が立ってしまったりすることもあった。
なんでわざわざ訊いてくるの? 好きにすればいいじゃん。
わたしも、いちいちあなたに確認を取らなきゃいけないわけ??

「じゃあなに。わたしが早く帰って来いって言ったら、帰ってくるの?」と、逆に聞き返したこともあった。
なんて答えられたか忘れちゃったけど。


一緒に暮らしているという、
約束はないけれど、なんとなく守られているような
いやでも、わたしは守っているつもりも、守られているつもりもなくて
だから彼は、わたしの「同居人」なんだけど


適当にわたしを大切にしてくれながら
(同居人の好きな言葉は、”適当”と”ちょうどいい”らしい)
わたしが抱える、よるべなさを許してくれる。


しばらくはまだ、よるべなさを抱えたまま
ふわふわと、あいまいなまま生きていきたいと思っている。


photo by amano yasuhiro




スタバに行きます。500円以上のサポートで、ご希望の方には郵便でお手紙のお届けも◎