別れに祈る
「割れちゃったの」と、友達は言った。
シンクには、真っ二つになった小さな土鍋が、そのまま落ちていた。
「上からものが落ちてね、割れちゃったの」
そういうこともあるよね、とわたしは頷いた。
割れると、悲しい。
いつもそうだ。
悲しみの度合いとか、向き合い方とか、
そういうのがちょっとずつ変わって、おとなになったような気がしても、悲しみは消えてくれない。
やっぱりちょっと、寂しい。そんな気持ちになる。
割れたものは、もとに戻らない。
すべてがそう、とは言わないけれど
友達もわたしも、土鍋がもとに戻ることを望んでいない。
わたしは、寂しさの残骸を、拾い集める。
わたしは土鍋を元に戻せない代わりに、"お別れの儀式"を務めることにした。
小さな紙袋に、ふたつになった土鍋を、そっとしまう。
「でも、新しい土鍋を買うって決めてるの」と言った友達は、笑顔だった。
そうだね。
それがいいよ、と頷く。
すてきな、新しい出会いが訪れるといいね。
わたしは小さく祈りながら、静かに儀式を済ませた。
【photo】 amano yasuhiro
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