こんにちは
それは、花を買った帰り道だった。
コンビニも、本屋も、コーヒー屋も華麗にスルーしたわたしは
最後に、花屋に吸い込まれる。
そうして、ひとつかふたつ花を選んで
すっかり顔見知りになったお姉さんたちと、少し話をする。
天気のはなしとか
ときどき洋服を褒めてもらえたり
最近は、かばんにぶら下がっているポケモンのはなしだったりする。
「いつもありがとうございます」に
「また来ます」と返す。
*
花は、袋に入れない。
花屋と自宅が近いこともあるけれど、抱えて帰りたい、と思う。
花は、抱えて帰りたい。
お姉さんから直接受け取って
さっき選んだ花が、茶色いやさしい紙に包まれて並んでいるところを見ると「ああ、よかった」と思う。
やっぱり、買ってよかったんだ。今日もかわいいお花を選べてよかった。
今日は、反対側から歩いてくる人が目についた。
その人も大きな花を持っていたからだ。
そうしてすぐ、「もしかして」と思った。
「花屋は、外の仕事も多い」って、聞いたことがあったから。
近づいてきたのは、花屋のお姉さんだった。
そして、すれ違う前から用意されていたみたいに「こんにちは」と声を掛け合った。
笑って、いつもみたいに。
*
「こんにちは」という挨拶を使う機会はあまりない。
会社に行けば「おはようございます」と「おつかれさま」で
友達にも言わない。
「こんにちは」は、「会えて嬉しい」とか「ごきげんいかが」みたいな
ひだまりの匂いがすると言ったら、言い過ぎだろうか。
好きな挨拶だなあ、と思う。
そして、道行くあなたに「こんにちは」を言えるということは
借りぐらしだったこの街に
居場所ができる、ということのような
そんな気がして
やっぱり、良いあいさつだなあ。などと思ってしまう。
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