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おとなのかばん

昔の恋人は、
「高価なものを、長く、きれいに使う」というような
わたしとは真逆の信条の人だった。

初めての恋人で、
その発想そのものが、わたしには眩しかった。

彼が、割の良い家庭教師のアルバイトをしていた時期には
たくさんのものを買ってもらった。

レッドウィングのブーツ
zuccaの腕時計
A.P.Cのコート

ぜんぶ、彼に買ってもらったもので
どきどきするような値段のものだった。
もちろん、いまのわたしだって手が届かない。

当時わたしは、きらきらのイチゴのネックレスとか、虹色がついたパーカーとか、本当はそういうのが好きだった。竹下通りを愛していた。

少しずつ、彼が買い与えてくれるものや、よろこんでくれるものに、わたしはシフトしていった。
それが、たのしかったし、嬉しかったのだと思う。
彼が、わたしの趣味をあんまり好んでいないことに、わたしは気づいていた。


ナノ・ユニバースの、トードバッグも買ってもらったものだった。
彼が先に買っていて、「羨ましい」と言ったら、色違いで買ってくれた。

そして彼と別れたとき、
「君に買ったものは、すべて返さなくていい」と言ってもらった。

ナノ・ユニバースのカバンは、いまでも部屋の中にある。

このカバンは、ちょっと背伸びをしたい時に使っている。
直近で退職した会社の面接に行ったときには、このカバンだった。
これから面接に行く機会が発生したら、このカバンを使うと思う。

友達から譲ってもらったおしゃれなワンピースを着たい日に
荷物をたくさん持たなきゃいけないときも、このカバンを使う。

そうやって時々、わたしの人生に必要になる。
対外的に、なんとなくおとなになってしまったようなわたしは
時々こうして、おとなのふりをしなければならない。

ちなみに、いまのわたしの一番お気に入りのカバンはこれ。
母親が買ってくれた、モクロー(ポケモン)のポシェット。

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そして32歳のわたしは、
真っ黄色で、プーさんの耳付きポンチョをかぶりながら、この記事を書いている。

おとなのふりをするのに、
20代の前半で買ってもらったカバンを使うなんて、妙な話のような気がするけれど。

なんだか、わたしには
ちょうどいい擬態、みたいな
そんな気がしている。



【photo】 amano yasuhiro
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