見出し画像

僕たちの世界で

あまのさんから、連絡が来た。
「散歩に行かない?」
休日の、午後の出来事だった。

「今日は毛布をしまって、掃除をしたいから、5時くらいでもいい?」と尋ねたら、「だいじょうぶ」と返事がきたので、出掛けることにした。

マックの前で待ち合わせすることになったので向かってみると、後ろ姿を発見した。
後ろ姿、なんだか妙だと思った。
待ち合わせをするならば、道路かマックに背を向けて、歩道を見るのがふつうのはずなのに。

あまのさんは、カメラを構えていた。
「新しいカメラ買ったんだ」
まじめな横顔のまま、そう言った。

だから、カメラテストに付き合うつもりだったわけじゃないんだけど、そうかそうかと頷いて、わたしたちは歩き出した。

カメラテストや、撮影の試しっていうのは、今まで何度か付き合ったことがある。
同じように散歩をして、ときどき座って、ぼおっとしたり、ちょっと話したり、コーヒーを飲んだりするだけで、気遣うことはほとんどない。
ときどき、「立ち止まって」とか、「もうちょっと真ん中に立って」とか、言われた通りにするだけ。
普段のわたしたちと、あんまり変わりはない。

「買ったのは、カメラなの? レンズじゃなくて」
歩きながら、わたしは尋ねた。
カメラに関する知識ゼロのわたしだけれど、カメラとレンズは別物だということくらいは知っている。
「カメラだよ。2種類で悩んだんだけどね、」と言われて、なるほどと頷いた。

「悩んだ結果、最新機種のほうを買ってみたんだ」
「この先、何年も使うなら、新しいほうがいいかと思って」
その言葉に、また頷いた。
最新機種って、いい気がするよ。
パソコンだって携帯だって、すぐに最新機種じゃなくなっちゃう世の中だもの。

少し歩いて、座ってコーヒーを飲む。
それから、あまのさんはカメラを構える。
わたしはぼけっとしていただけで、こっちにカメラが向いていたり、風景のほうに向いていたり、いろいろ試してみた。
わたしに近づいてみたり、「反対側に座って」と声をかけてくる。

「やっぱり、このカメラいいかもしれない」
「見える?」と、ディスプレイをこちらに傾けてきた。
それは、鮮やかな美しい写真だと思えた。
「いいね」

「手ブレもしない」
「シャッター音も静かだ」
と、ひとつずつの声に、わたしは「よかったね」と思う。
ほんとうに、心から。

それは、「あまのさんの撮った写真をわたしが使用しているから」ではない。
もちろんそれがゼロだというわけじゃないけれど、基本的には違う。

友達が、嬉しそうにしてくれているのがいい、と思えた。

ほんとうにカメラのことも写真のこともよくわからないわたしで、専門的な話には付き合えないけど、そんなこと求められていないことはわかっている。

そりゃあ、高い買い物をして不安もいっぱいなあまのさんと、他人であるわたしの温度が一緒であることは決してないわけだけれど、そんなことは問題じゃなかった。

「よかった」と思える瞬間を、共有している。
友達の嬉しそうな横顔を見て、わたしはうれしい。

新しいカメラ、良い買い物みたいで、ほんとうによかったね。
これからそのカメラと、新しい旅に出るの。良い旅になるといいね。
次の撮影の前に、今日試せてよかったね。

ほんとうに、よかったね。

わたしはいうほど「善い人」ではないし、その必要もないと思っている。
人として、他人に不快な思いをさせないように、と気を使っているつもりではあるけれど、それだけだった。
そしてそれは、「わたしのなりたいおとな」に近づきたいという、自分本意な考え方の結果であり、過程だった。

それでも、とわたしは思う。

わたしは、世界平和を願えない。
そりゃあ、世界は平和であるべきだと思うけれど、そのために努めることができない。
様々なジャンルや生き方があって、全員がしあわせになることは難しい。
しあわせって、ひとりずつ違うから。
誰かのしあわせに努めることで、そこから漏れてしまった「誰か」の不幸が生まれることに、わたしはもう気づいている。

だから、わたしは願う。

わたしが生きる、この世界を一緒に作ってくれた友達が、しあわせでいてくれることを。
笑ってくれていることを。
日常も節目も、一緒に乗り越えてくれることを。
いつもじゃなくていいけれど、共に在れる時間の、そのときには。

願っている、そして努めている。

誰か、じゃない
あなたのためなら、良いやつでありたいよ。
あなたも、一緒に笑えて、ときどきまじめに話せる瞬間は大切なものだと、そう思ってくれていると信じている。
言葉通り、”助け合って”生きていこうではないか。
我々の正義と幸福を貫きながら

「君は、義理堅い人だから」と言ってくれた人のことを、ときどき思い出す。
そんなふうに言ってくれてありがとう。
わたしの、そんな部分を見つけて、褒めてくれてありがとう。
これからも、そうありたいと願っている。



画像1

↑この日のわたし

空気ごと切り取ってもらえたような、こういう写真も好きだなと思っています。
これはたぶん、「あまのさんさ、こーゆー道好きだよね」って言いながら振り返ったとき


この日の写真を使って作ったピアノ日記

【photo】 amano yasuhiro
https://note.com/hiro_pic09
https://twitter.com/hiro_57p
https://www.instagram.com/hiro.pic09/




スタバに行きます。500円以上のサポートで、ご希望の方には郵便でお手紙のお届けも◎