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ともしびの夜

そういえば

弟と呼んでいる友人は、
うちに来ると、ちょこんと椅子に座っている。
キッチンの椅子か、居間のソファーに
わたしより、まっすぐと伸びた背中で

そういえば

同居人と暮らして、何年か経つというのに
彼が、ソファーに座っているところを、あまり見たことがない。
だいたい、床に座っている。
猫背で、あぐらがかけないので、ソファーに寄り掛かって、変な姿勢だ。

わたしは、ソファーにも床にも座る。
できるだけごろごろしたいので
ソファーを占領できるときは、ソファーの埋もれるように伸びている。


ばんごはんは、いつも同居人が作る。
弟がいるときは、3人で食べる。
わたしは、我が家のリモコンであるFireスティックを、弟に手渡して「スキなのつけて」とお願いする。


弟は、信じられないくらいごはんをたくさん食べる。
一杯目の量だって、わたしより全然多いのに、おかわりをしている。
食べ終わったかな、と思ったときに声をかけると「いったん終わりです」とか「あとでまた食べるかも」と言う。
そしてやっぱり、ソファーに座っている。
ちゃぶ台に対して、ソファーは高い位置にあるのだけれど、それでいいみたい。

わたしは、少量のごはんで、おかずをたくさん食べる。
ごはんもたくさん食べたいけど、そうするとおかずがたくさん食べられない。
ひとつのおかずばっかり食べないように、しっかり考えて、じっくり食べる。
わたしは、床に座ってあぐらをかいている。
おなかいっぱいになると、すぐにごろごろしてしまう。

同居人は、ばんごはんをあまり食べない。
ビールを飲んでいるときは、少しつまむ程度が心地良らしい。
彼は毎日お酒を飲んで、テーブルの上のおかずや、わたしの食べ残しを適当につまむ
それを、眠るまで繰り返す。


わたしたちはそうして、
同じ時間を共有している。

当たり前だけど、
部屋の中で心地のいい場所も
ごはんを食べる量も、速度も、ぜんぜん違う。


それでも、同じ画面を見て、三人で笑う


ごはんを食べ終わったあとは、みんなが適当にFireスティックを握って、好きなものを見る。
誰かが決めたチャンネルを見て、わたしたちは笑う。


そういえば
当たり前だけど、育ってきた場所も年齢も違う。
音楽で知り合ったけど、好きな音楽も、「音楽の何を好きか」という部分も、ぜんぜん違う。


それでも
同じ時間に、同じものを食べて、わたしたちは笑う。


それは、手放したくない
東京の海に、あたたかくひかる
とびきりの灯火みたいだ。


photo by amano yasuhiro


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