朝の魔法使い

朝の部屋が、しんと冷えるようになった。

わたしはお湯を、たっぷり沸かす。
きりんの笛吹ケトルとは、
もう、10年以上同居している。

18歳で、上京するときに従姉に買ってもらった。
あゆ、という名前の従姉が買ってくれたので、「あゆ」と名付けたケトル。
元気の良い笛の音で、今日もわたしを後押ししてくれる。

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今日は、ハーブティーだと思う。

いつものカモミールのティーバッグは、残りひとつ。
耐熱ガラスに取っ手がついただけの、大きなビーカーみたいなティーポットには
ティーバッグをふたつ入れなくてはならない。

そういえば、と思って隣の棚を漁ると
ハイビスカスみたいな絵のついた、ハーブティーの箱を見つけた。
名前の読めない、赤いお茶。

湧いたお湯を、ティーポットの3分の1くらいまで落として、蒸らす。
わたしはそのあいだ、煙草を吸うことに決めている。
お茶を淹れるときも、コーヒーを淹れるときも。
そのあいだに、葉っぱがじんわりと蒸らされて、透明なサーバーに濃い色が滲んでゆく。

そうして熱く蒸らされたサーバーに、お湯を継ぎ足す。
煙草がなくなるころ、しばらく蒸らしたあと。
たっぷりと、継ぎ足す。

そのあと、揺らしたティーバッグを回収して
わたしは、うっとりとティーポットを見つめる。
満たされた、透明なガラス。

最初は気をつけて、
そして次第に勢いをつけて、ティーポットをマグカップに傾ける。

お茶やコーヒーを淹れる前のカップは、お湯であたためたほうがいい、というのは知っているけれど
わたしはそういう、面倒なことはできない。
冷たいマグカップ、
でもポケモンのかわいい絵がついていて、明るい気持ちにさせてくれるマグカップに、お茶をそそぐ。


こんなふうにしていると、魔女になったみたい。
わたしはひとりでほほえんだ。

透明なガラスは、美しい。
魔女の宅急便の、キキのお母さんも、こういうビーカーを使っていたような気がする。
試験管、だけだったかもしれない。
記憶は曖昧だけど、そんな気分にさせる。

冷たいマグカップにそそいだお茶も、しばらくは熱いので、わたしはちびちびとマグカップを傾ける。
この季節になれば、あったかいのなんて、ほんの一瞬だ。

「ああ、いい朝」

わたしはうっとりとつぶやいて、
ひとり、満足な時間を過ごしている。




(うちで使ってる、ビーカーみたいなティーポット。お気に入り)




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