じゃがいもと、世界の不思議
「あしたのお弁当は、ジャーマンポテトだよ」
じゃがいもを握り締めた手が、そう告げる。
「ヤッター!」
よろこぶわたしは、ジャーマンポテトが好物のわけじゃないけれど、
名前を聞いて、味を想像できるものは、ちょっと嬉しい。
「あしたはジャーマンポテトなのか」、「それなら知ってるぞ」と、納得と安堵の声を挙げる。
のんびり煙草を吸っている隣で、調理が始まった。
じゃがいもの皮が剥かれ、まな板の上にごろんと落とされる。
何かを切る前に、包丁で「トン」とまな板を叩くのは、いつもの癖だった。
それを見届けて、さくさくと刻まれるじゃがいもを見つめる。
じゃがいもって、不思議だよね。
声には出さなかった。
すなおに質問したところで、適切に回答されてしまうことはわかっていたから、言わなかった。
じゃがいもって、火を通すとほくほくするのに、切るときはさくさくしてるよね。
そう、じゃがいもって根菜だから。
根菜って、そういうものだから。
人参だって、そうだろう。
そんなことはわかっているのだけれど、やっぱり不思議だなあ、と思う。
答えがわかっているので、それ以上でもそれ以下でもなかった。
それでもわたしはもう一度、「やっぱり不思議だなあ」と思う。
とん、とまな板が鳴る音を聞きながら。
*
そういう、「不思議だなあ」っていうのを、蓄えながら生きてゆきたい。
いま、わたしは強く願っている。
当たり前のような景色の中で、わたしは立ち止まりたい。
「おかしいな」とか「不思議だな」って首を傾げて、考え続けたい。
正しい答えを探すべきかどうかは、その時々でいいと思うけれど
いろんなものを、見過ごしたくないと思った。
今日の空の色、空気の匂いを、ときどきでいいから確かめたい。
野菜炒めにズッキーニが入っていたら「夏だね」なんて言いたい。
利口じゃなくてもいい、賢くなくてもいい
ちょっとまぬけなくらいが、ちょうどいい。
わたしは、そんなふうに生きてゆきたいんだった。
おとなのふりなんかしないで。
邪気を抱えながらも、無垢な視線で
苛烈さを失うことなく、のんびり首を傾げるわたしを、許して行けたらいいと、思っている。
【photo】 amano yasuhiro
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