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じゃがいもと、世界の不思議

「あしたのお弁当は、ジャーマンポテトだよ」
じゃがいもを握り締めた手が、そう告げる。

「ヤッター!」

よろこぶわたしは、ジャーマンポテトが好物のわけじゃないけれど、
名前を聞いて、味を想像できるものは、ちょっと嬉しい。
「あしたはジャーマンポテトなのか」、「それなら知ってるぞ」と、納得と安堵の声を挙げる。

のんびり煙草を吸っている隣で、調理が始まった。
じゃがいもの皮が剥かれ、まな板の上にごろんと落とされる。

何かを切る前に、包丁で「トン」とまな板を叩くのは、いつもの癖だった。
それを見届けて、さくさくと刻まれるじゃがいもを見つめる。

じゃがいもって、不思議だよね。

声には出さなかった。
すなおに質問したところで、適切に回答されてしまうことはわかっていたから、言わなかった。

じゃがいもって、火を通すとほくほくするのに、切るときはさくさくしてるよね。

そう、じゃがいもって根菜だから。
根菜って、そういうものだから。
人参だって、そうだろう。
そんなことはわかっているのだけれど、やっぱり不思議だなあ、と思う。

答えがわかっているので、それ以上でもそれ以下でもなかった。
それでもわたしはもう一度、「やっぱり不思議だなあ」と思う。
とん、とまな板が鳴る音を聞きながら。

そういう、「不思議だなあ」っていうのを、蓄えながら生きてゆきたい。
いま、わたしは強く願っている。

当たり前のような景色の中で、わたしは立ち止まりたい。
「おかしいな」とか「不思議だな」って首を傾げて、考え続けたい。
正しい答えを探すべきかどうかは、その時々でいいと思うけれど
いろんなものを、見過ごしたくないと思った。

今日の空の色、空気の匂いを、ときどきでいいから確かめたい。
野菜炒めにズッキーニが入っていたら「夏だね」なんて言いたい。

利口じゃなくてもいい、賢くなくてもいい
ちょっとまぬけなくらいが、ちょうどいい。

わたしは、そんなふうに生きてゆきたいんだった。
おとなのふりなんかしないで。
邪気を抱えながらも、無垢な視線で
苛烈さを失うことなく、のんびり首を傾げるわたしを、許して行けたらいいと、思っている。



【photo】 amano yasuhiro
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