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君に伝えたい百の言葉

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あなたに伝えたい言葉が残っている。見失っても、百個積んだ先に何かがあるかもしれない。光を追う者のエッセイ集
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2021年11月の記事一覧

だから、シュークリームを食べよう。

お風呂に入るのが、好きじゃない。 正直に言えば、面倒だと思う。 お風呂に入る、という表現も本当は正しくなくて バスタブに最後にお湯を張ったのはいつだろう。 ずいぶん長いこと、シャワー暮らしをしている。 お風呂を出たあと、ボディークリームを塗るのも、髪を乾かすのも面倒くさい。 化粧水だけは塗らないのと、顔がカピカピになるので致し方ないけど。 わたしは実にいろんなことを、面倒だと思っている。 それでも毎日シャワーを浴びて、 あとはできる限り、毎日掃除をして、花の水を替えて

書けないときに、していること。

書きたくないなあ、と思うときがある。 そりゃあ、ある。 書きたくて毎日書いてんだ なんて言ってるけど、そうじゃないときもある。 わたしってば、だいたいそういうひとだ。 花が好きなのに、花の水換えが面倒なときもある。 塗られた爪を見るのを愛しているのに、マニキュアに手が伸びないときとか わたしはたいてい億劫で、天の邪鬼なのだ。 だから、自分の「ホンネ」ってやつは、ていねいに取り扱ってあげなければいけない。 「ほんとうのじぶん」って言葉は、昔からちょっと苦手だ。 書きたいわ

さよならバッドエンド

誰かのせいにするのをやめよう。 というのを、ときどき思い出す。 慌てて9時前に起きてみたら、予約は12時半だった。 としても、昨日のわたしを責めるのはやめよう。 「確認したほうがいいけど、たぶん10時でしょ。いつも10時だし」 「確認するのめんどくさい… 10時に間に合うように起きとけばとりあえずだいじょうぶ」 と思って眠った昨日のわたしを、殴り飛ばすことはできない。 早起きしたから洗濯でもしよう。 と思ったら、同居人が眠っていた。 君の頭上に洗濯物干したいんですけど、邪

あなたの中のわたし

わたしは、すぐに見失う。 ずいぶんまぬけだと思っていたけれど、もう気づいている。 見失うのは、目的地を定めていないからだ、ということに。 わたしは、歩いている。 ふらふらと、進んでいる。 進んでいるのか戻っているのかもわからないけれど、足は動いている。 もしかしたら、泳いでいたり溺れていたりするのかもしれない。 これは、「とどまらない」という、それだけの意味でしかない。 だから、「ここはどこだろう」とか、「どこへ向かっているんだろう」と思ってしまうのは、当然の出来事だっ

いつかわたしは、間違えるだろう。

今でも、思い出すとゾッとすることがある。 わたしの仕事の何割かは、印刷と郵送だと思う。 まだまだ紙と印鑑が主流の業界で、わたしは毎日飽きもせず、自席とコピー機のあいだを行き来する。 毎回違う人に送る書類が半分、 特定の何人かに送る書類が半分、くらいだろうか。 上司もわたしも面倒事は嫌いで、自分をあまり信じていない。 「宛名なんか毎回手書きするのは面倒だし、どうせいずれ間違える」と思っているので、特定の人に宛てるときには、用意していたラベルシールを貼る。 差出人には、自社の

あなたとわたしと、ホッチキスと

(ああ、) いまか、息を吐く。 ため息にも満たない、小さな。 でも、確かな絶望。 今じゃなくていいのに。 今日中にこの書類を片付けたかった。 微熱と頭痛で、集中力を欠きながら、必死にもがいていたのに。 わたしは諦めて、手を止める。 ホッチキスの針がなくなった。 ただそれだけのことなのに、わたしは動けない。 このホッチキスは最近使うようになって、針を替えたことはない。 いや、そんなのは言い訳で、ホッチキスの針なんてもう何年も替えたことはないではないか。 オフィスの備品棚

あなたと過ごした810日

点くはずのないマークに、わたしは首を傾げる。 このマークは「頑張ったご褒美」で点くやつだから、ログインしただけでは点かないはず。 通算ログイン810日を達成する お知らせの内容はこれだった。 30回ログインするだけでもらえるボーナス。 ときどきサボってしまう日とか、時期もあるけれど、だいたい1ヶ月に1度のご褒美。 そうかそうか、今月もそんな時期か。 今回は何がもらえるかな〜とにやにやしてしまう。 * 思い出したのは突然だった。 唐突に気づいた、とも言える。 810

折り合いのやさしさ

「折り合いをつけて、やっていくしかないね」 この数ヶ月で、何度も放たれた言葉だった。 元通りに動かなくなった、わたしの身体を慮って わたしの苦しさを否定せずに、だからこそ苦い顔で そう言ってくれる人がいた。 「ありがとうございます」 弱々しく、何度も答えた。 * 「折り合わないからつらいんだよォ」 最後まで、言えなかった。 言えるわけがなかった。 でも、本当にそう思っていた。 心はきちんと、叫んでいた。 職場に行く度に熱を出して、はち切れそうな頭痛で そしてその頭

もしかして、ハリネズミのお姉さん

最近、花屋に通っている。 週に1度、必ず。 病院の帰り、と決めている。 ナーバスな通院を、「花屋の日」として認識しようと努めた結果だった。 ときどき、週に2度行くこともある。 次は何を買おう、と下見をする。 いつもあるミニブーケは、毎週違う鼻に組み替えられていて、やっぱりかわいい。 ああ、花を買うこと、それだけは揺るぎない幸福と思って生きよう。 * 花屋には店員さんがだいたいふたりいる。 通院後のげんなりとしたテンションで訪れているので、全員の顔を覚えることはできてい