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クッキーはいかが?

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1200文字以下のエッセイ集。クッキーをつまむような気軽さで、かじっているうちに終わってしまう、短めの物語たち
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2021年4月の記事一覧

ときどき、好きだと思う。

言葉が、少し遠くなってゆくような 感覚、錯覚かもしれない。 零れ落ちているというか、 最初から、受け止めるお皿なんか、どこにもなかったような気がしてくる。 それでもわたしは、狂気に生きたいから、言葉を紡いでいる。 わたしの原点は、そこにあるような気がしている。 苦しい夜が幾度訪れても、手放すことが永劫の幸せとは思えない。 わたしは、そういう生き方をしてしまう。 悪くない、と思ってしまう。 ピアノはいいな、と時々思う。 練習は好きじゃないし、毎日の即興以外はほとんどピア

「みんな」なんて、どこにもいない

あれもこれもやりたい、と思っているときは、なかなかうまく進まない。 ということに、いまはもう気づいている。 ひとつずつ、片付けてゆく。 ぜんぶ残したままにすると苦しくなる、ということもわかっているので、まずは洗濯機を回す。 洗濯機をまわしているあいだ、ついでに部屋も掃除する。 干しっぱなしの洗濯物も回収しちゃおう。 そしたらちょっと、お休みしよう。 なにも考えなくていい。 お休みが終わったあとは、もう洗濯と掃除をしなくてもいい。 とりあえず、ピアノを弾こう。 いま、わたし

いつかわたしは、夜へと帰る。

夜もいい、と思う。 やっぱり夜がいい、と思う。 最近、朝にエッセイを書いたり、日課をこなしたりする日々を過ごしていた。 日課を朝にすれば、夜には何も考えなくていいし、そのまま眠れるのがいい。 朝、仕事に行く前の限られた時間、“妙に”研ぎ澄まされた空気。 それは、朝だけの特別な時間だった。 朝にしか動かない器官がわたしの中には備わっているようで、「朝はいいな」と思っていた。 同時に、夜が恋しくなった。 朝がいい、ということは「夜はよくない」ということではない。 朝もよく、夜

はざまのひかり

夜は、眠ることにした。 「朝起きてから日課に取り組むこと」にハマっている。 これまでは、「夜眠るまでにやろう」と決めていた。 今日中に、という気持ちが強かった。 でも、「朝でもいいんじゃないか」と思えたら、暮らしの速度が少しずつ変わった。 夜は、眠ろう。 なにも考えず、倒れるように。 そして、朝のわたしに託そう。 きちんとパジャマを着て、コンタクトレンズを外して わたしは、堂々と横になる。 目覚ましを、朝6時にセットしたら、もう何も考えない。 わたしはベッドと睡魔に呑まれ

食べることと、生きること

たくさん食べること、が推奨されている。 それはわたしが、 「放っておくと食べないタイプ」であり、 「お腹が空いていると、極端に集中できないタイプ」であるからだと思う。 きちんと食べなさい、と言われている。 おなかがいっぱいになると、寝ちゃうのにね。 まあでも、そう言われるのもむりはない、とも思っている。 20代の頃、食べることが億劫すぎて、コンビニでいちばんカロリーの高いおにぎりを選んで買っていた頃のわたしは、まだ死んでいない。 カロリーってやつを摂取すれば、とりあえず身

わたしの中に棲む悪魔

今日は、わたしの飼っている悪魔のひとつを紹介しようと思う。 * わたしは人間力が低い、と思う。 生活に対する、ある一定の能力が欠如している気がする。 みんな、得手不得手があるのだから、当然のことなのだとは思うけど。 じゃあわたしは何が苦手かって、身体の欲求を理解すること。 これが、どうも苦手だ。 「なんだか元気が出ない」というときに、おなかがすいているのか、眠いのか はたまた、最近忙しくしていたのかとか、友達との会話が足りていないのかとか、 ”足りない何か”みたいなも

あなたというひと

あなたとは、他愛ない時間を過ごした。 散歩に行こう、と誘ってもらって嬉しかった。 「物事のついで」や「思いつき」のような連絡をもらって、そのまま予定を決めた。 わたしは自分から連絡することが少ないので、こういう機会は本当に嬉しい。 公園で待ち合わせて、散歩をした。 「いい景色だね」と、ふたりで言う。 「今日を楽しみにしてたよ」と言われて、嬉しい。 わたしもだよ。 近くの駅を目指して歩いた。 「あれ?こっちだっけ?」と、ふたりで地図を覗き込む。 あなたとなら、迷ったって、

おとなになる、ということ

「5分の電車に乗りたいの」 彼女は、はっきりとそう言った。 「5分がむりなら、11分までには、必ず」 そう言って、時計を覗き込んでいた。 それは、春休みの出来事だった。 わたしの春休み、ではない。 世間の春休みで、”彼女”は子供だった。 小学校高学年か、中学生か。 みんなマスクをしているし、私服だし、おとなっぽいし、身長はみんなわたしと変わらないか、少し高いくらいで、年齢なんか検討もつかない。 ただ、彼女は”子供”だった。そういう年齢だった。 春休み、友達とのお出かけ

きょうは良い日だった。

ああ、今日はよく眠った。 最近休みの日は、散歩に行くようにしていた。 晴れた昼間、を歩きたかった。 わたしにとって歩くことは必要だし、 “昼間に歩いたわたし”という免罪符は、いつでもわたしを肯定してくれる。 仕事から帰った夜も、「すぐに眠らないこと」をひとつ目標にしていた。 それは必須項目ではない、それはほんの、ささやかな気持ちだった。 仕事終わりの数時間は、「散歩・日課・家事・仮眠」で終わってしまっていた。 ということは、「起きているあいだは、常に何かのタスクを抱え

夜のコーヒー

夜のコーヒーが、好きだと思う。 大前提として、コーヒーはいつも美しい。 と、わたしは思っている。 淹れたてのコーヒーも、 冷蔵庫で冷めたやつも 朝、目覚めのコーヒーも 川辺でひとり飲む缶コーヒーも 気だるげにお湯をそそぐインスタントコーヒーも ご褒美のスターバックスも あなたと飲むなら、コンビニのアイスコーヒーだって良い。 あなたが淹れてくれた、あたたかいコーヒーだけが、もしかしたら特別かもしれない。 コーヒーは買うものか、自分で淹れるものだから。 * 夜に飲むコー

新しいわたし

シャネルの口紅をもらった。 もらった、というと語弊がある。 友だちの部屋の「捨てようと思っているコーナー」に、それはあった。 わたしの何割かは、彼女からのお下がりで構成されている。 彼女が手放そうと思ったものは、一旦ストックされ、わたしの手に渡る。 わたしは新しいものがもらえて嬉しいし、彼女は「捨てる罪悪感」から逃れることができる。 わたしたちは、大変に幸福なウィンウィンの関係を、長いこと続けてきた。 * 彼女とわたしは、身体の作りまるっきり違う。 真逆と言っても良い

今日は、おやすみ

大学時代に与えられた二つ名は、松永”爆睡”だった。 これは、水墨画の画家みたいで、気に入っている。 友人にわたしの印象を尋ねれば、何割かの確率で「眠そう」と返ってくると思う。 わたしはだいたい眠い。 よくあくびをしている。 眠るのが好きというか、「ああもうなにも考えたくない!寝る!」と思うことも多いし、「なんかもう起きていられない」と思うこともある。 睡眠欲が強い、なんて表現が合っているような気がしている。 仕事を始めたばかりの頃は、「よし!お仕事頑張った!日課も頑張る

ポストの中身

思い返せば、最初から”手紙”が好きな子供だった。 きっかけを思い出せないから、「最初から」なんだと思う。 小学生の頃は、毎日会っている友達に年賀状を書くことに浮かれていた。 初めて文通をしたのは、中学生のころだったと思う。 母が買っていた「月刊ピアノ」という雑誌の文通コーナーを見ては、手紙を送っていた。 あの頃は、名前と住所が雑誌にそのまま掲載されていて、何度か手紙を送った気がする。 同じ時期には、ポストペットのモモとか、コモモにメールを運ばせていたし、 高校生になってイン

わるいこと

ときどき、悪いことをする。 夜中に食べるカップラーメン ごはんの前にも後にも食べちゃうポテトチップス シャワーも浴びず、パジャマにも着替えず 床に転がったまま、眠るわたし。 悪いことだって、わかってる。 カップラーメンよりごはんを食べたほうがいいことも シャワーを浴びる元気がないなら、パジャマにだけは着替えたほうがいいことも どうせ眠るなら、ベッドに倒れたほうがいいことも わたしには、よくわかっている。 そっちのほうが、”健全”だということも。 それでもときどき、悪いこ