「11時の方向に一人居ます」
たった30分ほど前の話である。
お風呂から上がり、銭湯の浴室を滑らないようにとゆっくり歩いていたら、見知らぬご婦人から、
「11時の方向に一人居ます」
と突然声をかけられて少しビックリした。
でも同時に嬉しかった。クロックポジションを知っているのかーと思った。
クロックポジションという、視覚障害者に対して、物の位置や方向を時計の文字盤に例えて説明する方法がある。
このような対応を、施設スタッフではなく、一般の人が自然にしてくれることが、長年視覚障害者施設の利用者を受け入れてくれている場所ならではの強みかもしれない。
そんな風に声をかけていただけて本当にありがたかった。体はもちろん心も温かくなる瞬間だった。